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裁判所と呼ばれる家で⑦ 7/2019に向けた、ある年の10月より

「彼女、泣いてるんだろう?」


「え。」


どうしてお義父さんは知ってるんだ?



「いいから。電話かわれ。んで、社用車で待ってろ」


僕は泣いている彼女に近付いて、スマホを差し出した。

「社長からです。 ここに、置きますね。」

泣いたまま彼女は、僕の顔をみた。

僕はスマホをそっと床に置いて、社用車に向かった。


相変わらず涙の止まらない彼女に背を向けるのは、苦くて痛かった。

でも僕に何かできるのか?

僕に何かできるのか?

触れるのは危険すぎる気がするし、実際話しかけても返事はなかった。

僕に何かできるのか?


階段を降りて、裁判所の外に出ると、

玄関には、義父の車が停まっていた。

僕の姿を確認すると、社用車に近付いてきたので、ドアを開けた。



「彼女な、植物見ると涙がでちゃうんだよ。新鮮で、目新しい花とか見ると特に。

たまにいるだろ、そういう客。」


「いませんよ。」


「いるんだよ。じゃあ、今日が初体験だな。もう店に戻っていいぞ。

 スマホは俺が回収しとくわ。」


わかりました、おねがいします、と答えて、ドアを閉めると

義父は車の窓をノックした。ふたたび僕はドアを開けた。



「少しだけ話しておくぞ。

あのお嬢さんはXXXさんとこのお嬢さんじゃない。昔下宿してた学生さん。

たまに里帰りで来るんだよ。墓参りみたいなもんだ。

頼むから、今日のことも、お嬢さんのことも、誰にも言うなよ。」



わかりました、僕の言葉と呼応するみたいに

義父はため息をついた。

「あとな、そのしみったれた顔やめろよ。

相手の都合に合わせて立ちまわってると、周りは逆に戸惑うぞ。

お客さんに安心してもらえる花屋にならんと、先に進めないんじゃねえか?

結婚式一回だけの関係じゃないんだよ、ローカル花屋ってのは。

合わせるのと受け止めるのは違うぞ。

受け止める側になってくれよ、そろそろ。 な。」


義父は僕の言葉を待たずに、ドアを閉めて裁判所へと向かった。


義父から、指導的な説教みたいな言葉が出るのは初めてだった。

体の繊細な娘といっしょになってくれて感謝していると、ことあるごとに言ってくれた。

仕事面で、義父が僕を強めに指摘することも、ほとんどなかった。

義父と僕は、そうやって丁度いい距離を保って、気遣い合ってきたはずだ。

正しいとか正しくないとか、こうあるべきとか、こうあってほしいとか、

そういう話をするのは、否定されているみたいで得意じゃない。

自分の足りない部分を認識するのが好きな人間なんているんだろうか?


それに、僕は、

義父の言うところを、義父の伝えたいツボを得て理解できているのだろうか。、



車のエンジンをかける。

サイドブレーキを外すときに、前掛けに収めた手袋が目についた。

僕は手が荒れやすくて、手袋がないとすぐ皮膚が赤くなる。

結婚式場で、花のセッティングはスピード勝負だった。

土日のセレモニーはいつでもラッシュで、

土曜はまだ暗いうちに出勤して、花を活けて活けて、それでも間に合わないくらいだった。


あんなふうに、口開けてとめどなくわんわん泣く人間なんて、

僕のいた世界からしたら、幻の生物だ。

ユニコーンだ。人魚だ。


なんていうか現実的じゃない。


受け止める?



翌日、彼女から僕のスマホに電話がかかってきた。


明日、完結。

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