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プロローグ

「怪異」


――其れは漠然とした恐怖から派生してできたものである。


――其れは人の感情に恐怖というものがある限り存在し続ける。


――其れは―――……



◆◇◆◇◆



たった一人で心細いなか少女は軋む床をゆっくり踏みながらと歩いていた。

水の滴る音に少女――甲野(こうの) 結衣(ゆい)は度々振り向いてしまう。


結衣は一般的な家庭で生まれ育った、今年で二年生になる女子中学生だ。

顔は綺麗に揃ってはいる方だが童顔で、それがコンプレックスなただの女の子。

そして、ちょっとだけ怖いのが苦手な子供である。

なのにこのような、いかにも出そうな雰囲気がある和風建築の家をたった一人で歩いていくのは精神的にとても辛い。

点々と置いてある提灯によって明かりはとられてはいるが、周りには赤い染みが付着した天井や引っ掻き傷のような物がある柱などがあり、薄気味悪さや恐ろしさを一層引き立てていた。


床を軋ませながら歩いていた結衣はなぜこんな状況になっているのか考えていたがなかなか思い出すことができない。そう考えていた所でピチョンと水の音がした。


勢いよく振り返ってしまうが、そこには誰もいない。

だが、先程まではそこには何もなかった筈の所に水溜まりがあり、それが赤いドロリとしたナニカで出来ていることに気づくと思わず息を飲みこんでしまった。


先ほどあった部屋を探索している途中に見つけてしまった何者かの骨よりかは遥かにましだと自分に言い聞かせまた前を向き、また一歩、また一歩と歩みを進めていく。


まるで迷路のように入り組んだ道であるため、廊下の突き当たりの木でできた壁に迷子にならないよう、これから行く方向に向けて矢印をつけながら結衣は進んでいた。


探索して発見した鉄製のナイフでガリガリと柱に傷をつけながら、なぜ此処に居るのかをまた考えると、自分が神社に着いた後の記憶がないことに気づいた。その時に拐われでもしたのだろうかと考えた。


目の前の廊下を歩いていくと下り階段が目の前に表れた。ここまで歩いてきた中で初めて見るもので、降りようとしてみるが階段の先が暗闇に包まれており危なそうだ。


落ちて死んでしまったらいくらなんでも情けないので廊下に点々と置いてある提灯を持ち上げ、それを光源にしながら結衣は階段を下っていった。


ギシリ、ミシリと階段を一段ずつ慎重に踏みながら降りていく。


暗闇に揺れる提灯の明かりが妙に心細い。


心なしか空気が先ほどより淀んでいる気がするが気のせいかと切り捨て――


「みーつっけたっ♪」

「っ……!」


場違いなほど明るい幼い声が後ろから聞こえ、思いきって振り返るが誰もいない。


暗闇には自分の荒い息づかいが聞こえるのみ。


すると、手に持っていた提灯が消えていることに気づく。


不安になり周りを見渡してみるがそこには暗闇が広がっているだけであった。


訳が分からないかった。先ほどまで下が見えないほど長い階段を降りていたはずなのになぜいきなり暗闇に包まれている場所に移っているのか、そしてなぜ急に手に提げていたはずの提灯が無くなっているのか全く見当がつかなかった。


そんな時、笑い声が聞こえた。


クスクスと上品にこちらを嘲笑うかのような声が。


もう結衣は声さえ出すことができなかった。


何故なら遠くに誰かの姿が見えたからだ。


その姿の持ち主は笑いながら、気味の悪い音をたてながら、こちらに近づいてくる。


その顔が見えた所で結衣の思考は凍りついた。


―アハハ!


なぜなら


―キャハハハ!


その顔は


――また、私の勝ちね!


そんな嬉しそうな声が響いたのを皮切りに結衣の意識は深い闇に飲まれた。


◇◆◇◆◇


『あ!さ!だ!よー!』


『あ!さ!だ!よー!』


ひたすら繰り返される音声に結衣は目を覚ました。


先ほどまで何かひどい夢を見てたような気がするがどうしても思い出せない。


いつまでも同じ音声を繰り返す目覚ましに煩わしさをおぼえ、手を思いっきり叩きつけ音を止める。


その代償に手を犠牲にしてしまい、じくじくと痛む手をさすりながら朝の身支度を済ましていく。


両親にいつも通りに挨拶し、朝食を食べる。


素朴な味がする味噌汁を啜りながらテレビを見ていると、近所のことがニュースに出ていた。


どうやら、最近この地区周辺で行方不明者が増えているらしかった。


その人たちは無事なのだろうかと他人事に思いながら結衣はご飯を食べ終えた。


特に代わり映えの無い毎日に幸せを噛み締め、玄関の扉を元気一杯に開ける。


「いってきまーす!」

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