出題編
【一人の冒険者が、暗い洞窟の中を探っていた。
冒険者は、知人の剣士からこんな噂話を聞いたのだ。
『とある山に、凶悪な魔物がいたらしい。大昔に追い払われたらしく今はいないそうだが、その山の洞窟の奥深くにはその魔物が集めたお宝が眠っているって話だ』
『本当だぜ? 魔物がいた頃は、巣穴からゴミを拾って生計を立ててた奴らもいたらしい。もっともそいつらは欲かいて宝にまで手を出して、怒り狂った魔物にぶち殺されたらしいがね』
『どんな宝か? そりゃ気になるよな。噂じゃ金銀財宝はもちろん、魔力を秘めたマジックアイテムなんかもあったらしいぜ』
『北風の宝物って奴だ。聞いたことぐらいあるだろう? 食いたいものをいくらでも出す古びたテーブルかけに、望むだけの金貨をはきだす羊。それに命じた敵を必ず打ちのめす木杖の三つだ』
『俺? 俺はそんな噂話に興味はないがね。ただ、お前なら気に入るかと思ってさ』
そして件の山にやってきた冒険者は、発見した洞窟を探索し始めた。
やがて、洞窟の最奥部に到達した冒険者は地面に空いた巨大な穴を発見する。穴は底が見えないほど暗く、そして深い。冒険者は意を決して、近くの大岩に持参してきたロープを結び付け、大穴に垂らしたロープをつたってゆっくりと降りていった。
穴の底にたどり着いた冒険者が周囲を見回してみれば、中は空洞になっているようで、冒険者の持つ手提げランプの光が端にまで届かない程に広い。
だが、暗闇の中でもランプのわずかな光を反射してまばゆく輝くものがある。まるで子供の手によっておもちゃ箱に放り込まれたかのような、無造作に積み上げられた財宝の山だ。山崩れが起きれば冒険者などあっけなく埋まってしまいそうな山、それがいくつもそびえ立っている。
人生を十回繰り返してもお釣りが来そうな財宝の山である。気圧された冒険者が思わず後退ると、足元に何かが触れた。
ランプを掲げると、そこに転がるのは折れた剣に割れた宝玉、溶け固まった金貨とおぼしき残骸たち……財宝の成れの果てともいえるガラクタたちが転がっていた。
まるで、宝としての価値が認められない物たちのごみ捨て場のような有り様だったが、持ち帰って地金として売り払えば、それだけでも小金を稼げるだろう。
ふと、冒険者はあるものを見つける。
ガラクタの山に放り投げるように置かれていたのは、ボロボロに古びたテーブルかけに、錆が目立つ金属製の羊の置物、そして年季を感じさせるがっしりした木製の杖であった。
冒険者は試しにテーブルかけに触れながら、小さなパン一つ出ろと命じてみる。すると、ころりと丸くて白い美味しそうなパンがテーブルかけの上を転がった。他の二品も試してみれば、同様に伝承通りの効果を発揮する。
見事にお宝を発見し、つい浮かれ気分になってしまった冒険者が周囲の警戒を怠ってしまったのも無理はないだろう。
だが、彼はすぐにそのツケを払うことになった。
突如感じたのは、背後にそびえる財宝の山から金貨や宝石が滑り落ちる音、次いで何か巨大なものが動く気配。
冒険者が、はっと振り返ればその目に写ったのは――
巨大すぎる体躯。全身を覆う深紅の鱗。大樹を思わせるほどに太く長い尾はしなやかに揺れ、人間など一口で丸呑みにできそうな口には、金属製の剣を凌駕する切れ味を誇る牙が並ぶ。
言わずと知れた、最強の魔物の代名詞――
竜である。
寝惚けているのか、目付きがとろんとしているのが分かった。こんな状況下でなければ、あるいは可愛らしく感じたかもしれない。
夢見心地の竜は、ガラクタ置き場とその中に立つ冒険者に向けて首を巡らせると――
ガチン! ガチン! と竜の顎からタンギング音が鳴り響く。
これは前兆だ。
もう数秒も経たぬ内に、全てを焼き尽くす灼熱の息吹が冒険者に向けて吹き付けられる――!】
質問編へ続きます。