第8話
夕食が部屋に運ばれている。浴衣に着替えた三人、勲も取り敢えずウィッグをかぶりなおしている。流石に今回は下着まで女性ものと言う必要が無いため、浴衣の下はトランクス。はだけもしようものなら一発でばれてしまう。いつも以上に女性verの仕草に気を遣う。
「お待たせしました。終わってお風呂行かれる時にお電話いただければ、下げに来ますから。どうぞごゆっくり」
「ありがとうございまーす」仲居の説明に丁寧にお礼する三人。既に一名箸を持って準備万端、肉に手を伸ばしている。
「食べるぞー」
「いただきまーす」
「写真撮っておこう」男が一番女々しい行動をとっている。何だお前イン○タでもやってんのか、と言いたくなる。女性陣二名は今までの食事の際一切そんなことはしていない。食い気が圧勝しているだけかもしれないが。並べられた数々の料理。素泊まりとはわけが違う。しっかりとした料理人がおり趣向を凝らした料理が机の上狭しと並んでいる。大学生にはちょっと贅沢にも映るが、それは彼女らが稼いだ金なので文句は言えない。出どころはアレだが。
「このお肉おいしー!」
「んまーい! このお蕎麦おかわりしたい」
「こっちは蕎麦美味しいですからね。言えば追加で持ってきてくれるんですかね。聞いてみましょうか」
「町村さん、電話するならお肉追加できないか聞いてもらえませんか?」既に自身の分は食い尽した佑奈。
「あ、じゃあ僕の分どうですか? そんなにお腹減ってないのでこんなに食べられないと思うので…」
見ただけでギブアップしそうな量。ただでさえ朝一から一日中二人に付き合ってたため、勲の胃袋は既に限界。料理が運ばれている時に若干おくびが出そうになるが耐えた次第である。
「え、いいんですか? じゃあ遠慮なく」
これっぽっちの遠慮もなく肉の皿を受け取る佑奈。でっていうさんが舌で巻き取るかの如くマッハで勲の目の前から消える料理。次の犠牲はどの皿だろう。
「食べられないならダーリンのお蕎麦貰っていい?」
「あ、ええどうぞ、是非。残すのももったいないですから」
「あざーっす。じゃあ遠慮なく」こちらも差し出す蕎麦の器を受け取る。
「夏ですけど、山の上で涼しいから、温かいものが美味しいですねぇ」
「んだねー。こう涼しいと温泉楽しみー。一度寒い中で露天風呂入ってみたかったんだー。ねぇ冬にもう一度来ない?」
「風呂…」真白の問いかけに答えることなく一人考え込んでいる勲。あらぬ方向から持ち上がった問題に頭を悩ませている。
「そんなに心配なら、もう貸切風呂だけにしておけば? 誰にもばれないよ」
「そうですよ。さすがに私たちも女湯までは連れていけませんから。あ、この山菜おいしー」
「それもアリかもしれませんね。でもここの露天風呂は一度入ってみたかったんですよ、僕も。何とかいい方法ないかな…」
「貸切風呂なら、私たちも一緒に入れるじゃん」
「なんですって!?」途端に元気になる勲。別のところは大丈夫だろうか。
「仲居さんも言ってましたもんね。三人くらいなら余裕だって」
「そ、それもありかな…」あっという間に態度が変わる。今までの執着はどこへ行ったのやら。
「あ、でも流石にバスタオル巻くからね」
「ですよねー…」
夕食は恙なく進んでいく。