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湯気の向こうの男の娘  作者: 小鳩
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第7話

 道中散々寄り道つまみ食いをし、時計が夕方の6時を回った頃、本日の最終目的地の旅館へと辿り着く。これだけ長時間運転した勲はヘロヘロで車から出てくる。

「お疲れ様でした。よければ明日運転替わりますよ?」

「いえ、温泉入れば大丈夫です、多分…」

「無理すんなよー。さぁ早くいこういこう」後部座席で真白は後半ガァガァ寝ていたので元気が有り余っている。一人先にズカズカ進む。

 チェックインするために旅館の中へと歩を進める三人。山の上の静かな場所。街の灯りも届かない。この時間は陽も沈み始め、日中でこそ景観を楽しむために登っている人が多いが、もう下る人の方が多い。東北の短い夏が終わるのがわかりそうな景色と気温。都会育ちの佑奈と真白にとっては少し寒いくらい。

「いらっしゃいませ。町村様ですね、お待ちしてました」

 オフシーズンのため旅館の宿泊客も少なく、ここも勲の身バレを防ぐにはプラス材料。何事もなく記帳を終え第一関門クリアー。

「ここって、貸切風呂あるんですよね?」

「ええ、ありますよ。週末なのでちょっと多いですけど、それでもこの時期は宿泊される方も少ないので、割と空いていると思いますからぜひ使ってくださいね。じゃあ部屋にご案内します」

「はい、ありがとうございます」

「何、みなさん。女子大生三人旅? いいわねぇ」部屋へと案内される途中、仲居から質問される三人。

「マズい」瞬時に判断した勲は、あの質問が飛ぶ前に真白の口を塞ぐ勲。

「はい、そうなんです。オフシーズンに来て正解でした。空いててラッキー」他の二人に口を開く間も与えず仲居の質問に答える勲。事なきを得る。

「ん、貸切?」声に出してしまう勲。

「ええ、そうですよ。女性三人なら十分入れる広さですよ」

「女性三人」そう、人の目にはそう映る。しかし真実は違う。一人はちゃんとついているものもついていればれっきとしたやましい心のある男。貸切風呂に三人で入ろうものなら何が起きるか保証はできない。

「んーんー」真白がやかましくなってきたので口から手を離す。

「ひどいやダーリン。一緒にお風呂入ってあげないぞ?」

「だからー!!!」先ほど牧場で起きたことが頭をよぎる。

「あら、ダーリンだなんて。仲いいのねぇ」勘繰ることなくそのまま捉える仲居。世代が違って助かったと無い胸を撫で下ろす。

「晩ご飯にお肉ありますか?」ここでも食事のことを訪ねる佑奈。道中散々食ったろうにまだ入るのか。

「ええ、もちろん。地元の牛肉ありますから、楽しみにしててね」

「わーい」

 どう考えても成人女性の一日平均摂取カロリーの数倍は摂っている佑奈。体を見たことのある勲だからこそ理解できないことが多い。「何であの細さ…」と食べるのを見るたび不思議に思う。


 部屋に通され、靴を脱ぎ足を放り出し全力でくつろぐ三人。

「お夕食は7時になったらお持ちしますのでね、待っててくださいね」

「スパン!」と叫びそうになる勲だったが、その元気もなくベッドに倒れ込んで仲居の説明に頷くのみ。

 和室の中に二つのセミダブルサイズのベッド。一風変わった造りだが、足を伸ばせること、靴が脱げること、部屋飯などなど、三人めいめいの好みを折衷案で妥協すること無く全て叶える部屋を勲が見つけてきた。これには二人とも「ようやった」と唸ったようだ。

「あー、疲れた。まだ一日目だよ。あと三日もある。コ○ケ様様だよ」

「魂が洗われます。あの空気から一気に浄化されました」久しぶりに黒佑奈を見た気がする。

「あ”-。お風呂入りたい」

「すぐご飯来ちゃいますよ。食べてからでいいんじゃないですか?」

「とりあえず温泉は後でもいいけど、部屋に付いてるのに先に入ります。二人ともごめんなさい、ちょっと失礼します」

「はいはーい。ごゆっくりー」こちらもベッドに寝転びテレビを見ている真白から送り出される。佑奈はさっそく部屋備え付けのお菓子をもしゃもしゃしてる。

 勲が部屋備え付けのバスルームへと入る。「ふう」と一息ついて、朝からつけっぱなしだったウィッグをやっと外す。久しぶりに『勲』に戻る。湯船にお湯を溜めることはせず、さっと汗だけ流すためにシャワーを捻る。既に二人には何度も見られているが、引き締まった体に少し割れている腹筋。一見華奢だが、つくところにはしっかりついている筋肉。守れるものも守れる体。

「あー生き返る。ご飯終わったら温泉でのんびりしよう…」

 ぶつくさ独り言を言いながらシャワーを浴びる。浴びたまま暫く黙るそして、ハッと何かに気付いたようにシャワーを止め急いで出て服を着て部屋に戻る。

「お、早いね。もう終わり?」

「すいません! 僕男湯と女湯どっちに入ればいいんでしょう!?」

「いや、男湯でしょ」佑奈と真白、口を揃えてノータイムで回答を出す。

「だって、この旅館の人には女性で通ってるんですよ。外歩く時だってウィッグ付けなきゃいけないし、そのまま男湯入っていったら、それこそ…」

「あー、それもそっか。まぁ大丈夫っしょ」

「なんとかなるんじゃないです?」

「えぇーーーーー……」我関せずと言った感じの二人。さてどうしたものか。次の難題は夕食が終わった後すぐ訪れることになりそう。一歩間違えば犯罪者、退学、塀の中。頭の回転でどうこうなる問題ではなさそう。

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