第5話
食事が終わり、深雪が休憩時間ということもあり、四人で外のベンチにて話し込んでいる。佑奈と真白の手にはまだ食うのかと言わんばかりのソフトクリーム。深雪に頼んで特大サイズで盛ってもらった。
「で、町村君。なんでそんな格好してるの? お兄さんにほだされた?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
「ミランダねーさんのこと知ってるんだ」
「ええ、もちろん。子供の頃から仲良くしてもらってましたから。オネエになった時はびっくりしましたけど、何となくそんな感じのある人だったので。だから町村君も同じ道進んじゃったのかなって…」
「血はあるんでしょうねー」
「一緒にしないでくださいって」
「でも、その恰好だと誰も信じてくれないよ? 同級生」
「門脇、お願い。このことは絶対黙ってて…」
「まぁ、言いふらす趣味はないけど。でもなんでこんなことてるの?」
さすがに真意だけは確認したいらしい深雪。さて勲はどうしたものか。
「それについては私から」佑奈が出てきてくれる。
勲が女装するに至った経緯を、事の発端から終わりまで事細かに深雪に話し出す。なぜこうなったか、どれだけ勲に助けられたか。今ここに居る二人が勲のお陰で人生を救われたことを包み隠さず話す。その光景に勲はちょっと涙が出そうになる。
「へぇ、そんなことあったんだ。沖波さんも矢沢さんも大変だったんだね」
「まぁねー。でもダーリンが助けてくれたから、今こうして楽しめてるわけよ」
「ダーリン…。さっきはあだなって言ってたけど、付き合ってるの?」
その呼び方を不自然と感じた深雪。やはり聞くことはそうなる。二人もの美少女を連れて歩いている幼馴染を問い詰めないわけにもいかない。
「いや、それは何と言うか、その…」煮え切らない返事。
「んー、正直に言えばいいじゃん。二股だ-って」
「は!?」
「いや、してないし!」
「あれ、私も町村さんと付き合ってましたっけ? まぁ別にいいですけど」
「町村君、サイテー」
あらぬ誤解が生まれる。硬派不器用で通してきた今までのイメージが深雪の前でガラガラと音を立てて崩れているし勲も崩れている。真白が横で崩れた勲を積み上げている。
「でもさ、その事件の時は女装する必然があったわけだけど、いまする必要なくない?」
「はいごもっとも」
やはり、男の子になった経緯を聞いたとしても、この旅行を女装で行う理由が見つからない。いくら二人と一人のけしから羨ましい旅行だとしても、周りから見ればそっちの方が自然。やはり何か後ろめたいこと、男として二人を連れ歩くことに何か問題があるとしか思えない勲の変装。
「にしても…」勲の顔を覗き込んでくる深雪。
「しても…?」たじろぐ勲。
「似合ってるねー。本当に女の子にしか見えない」
「ありがとう、と言っておくべきかな…」
「みんな、この後どうするの?」
「えっと、今から今日の宿に向かうけど、道中はいきあたりばったりかな。ノープランな旅行だから」
「実家寄るの?」
「いや、これじゃ寄れない…」
「戻ればいいじゃん」
「やっぱそうかなぁ」と、ウィッグに手を掛ける勲。しかしその手を制する佑奈と真白。
「だーめー。もうこの方が面白いから、この旅行はユウナちゃんでいきましょう」
「でも、さすがにユウナって呼ぶわけにもいかないよね。イサオちゃんでいいか」
「好きにしてください」諦める勲。
「いいなぁ、楽しそう。バイトなければ付いていきたいくらい。ねぇ沖波さん矢沢さん、連絡先教えて?」
「いいよー」ノリも軽く連絡先を交換する女子三人。
「ねぇ、町村君の連絡先も教えて。大学に入るときに聞かなかったもんね」
「あれ、そうだっけ? えっと…、はいこれ」
「ありがと」勲からスマホを受け取る深雪。その行為をなんとなくいやらしい顔で見ている真白。
「じゃ、私仕事だから戻るね」
「くれぐれも、黙っててね」
「わかってるって、じゃ」と、手を振りその場を後にする深雪。
「ねぇ」それを見送る真白が勲に声を掛ける。
「はい? なんです?」
「好きだったの?」
「何言ってるんですか!? そう言う関係じゃないってば」
「ふーん」ニヤニヤが止まらない真白。
「まぁいいや。今は私たちのもんだしー、ねーイサオちゃん」飛びついてくる真白。
「何してるんですか、やめてください」
隣ではこっちもニコニコそのじゃれ合いを見ている佑奈。引っ付いた真白は遠くなる深雪の後姿に「渡さねぇぞ」と無言の圧力を送っている。