第4話
メニューで顔を隠しながら注文する勲。明らかに不自然なため店員もさすがに気付く。
「あの、どうされました?」
「いえ、気にしないでください。ちゅ、注文いいですか?」
勲が隠すのも無理はない。小中高校十二年間一緒の学校で、女友達としては一番仲の良かった、というか勲の近所に昔からいるまさしく幼馴染の『門脇深雪』である。高校卒業後は地元の大学へ進学するとは聞いていた。であればこの街にいること自体不自然ではないが、まさかこんなところで遭遇するとは。旅が開始してまだ半日程度、最初の危機に瀕している勲。
「どうしたのダーリン?」
「ダーリン?」真白が勲を呼ぶその呼び方に不自然さを感じ、顔を隠している勲を改めて見直す深雪。
「い、いえ。あだ名です、あだ名。決してそう言う意味ではないんです」
「どうしました町村さん? 注文しないなら私からしちゃっていいですか」佑奈があっさり本名で呼び掛ける。
「まずいってーーーー!」声には出せないものの、目でものを言う勲。
「町村?」もう一度勲を見る深雪。その頭の中には幼馴染の顔が思い浮かんでいることだろう。
「ああ、ええ。町村っていいます」さすがに誤魔化せないので余計なことは言わずに肯定する。
「私も同級生にいるんですよ、同じ苗字の人。男の人ですけどね」目の前にいるのがそうなんですけどね。
「あ、ああ。そうなんですね…。じゃ、じゃあ注文を」話題を逸らし注文に戻ろうとする勲。
「その人この娘こに似てません?」真白の毎度の質問炸裂。
「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」これも声には出ておらず。
「え? そうですね…。似ていると言えば似ていますけど、ちゃんとした女性です、よね?」
「はい、そうですよ」
「そうですよねー、そんなわけないですよね。だって私の知り合いの人は硬派で女の人ともそんなに喋れないし。確かに華奢で女の子っぽい体系ではあったけど。頭もいいし東京のいい大学行ってるんで、そんなこと死んでもするわけない人だと思いますから」これで一回死んだ勲。幼馴染からそんな印象を持たれていたことがわかると同時に、もしばれた時の一転奈落へ落ちそうな恐怖を覚える。一刻も早くこの場を立ち去ろう、それだけを無意識の中で繰り返す。
「あ、ごめんなさい。注文聞いてませんでした」
「えっと、それじゃあ…」
その後滞りなく注文は終わり、その場を一旦離れる深雪。
「いやー、凄い偶然だね。なんかもってんじゃないダーリン?」
「夏休みのバイトですかね。こんなところにいるってことは」
「知りたくもありません…」
二度と顔を見られまいと、机につっ伏している勲。飯食う時もその状態でいるのだろうか、がんばる。
「可愛い人ですね。彼女とかだったんですか?」
「いえ、そういうんじゃないです…」
「ヤった?」真白さん、デリカシーと言う言葉を知らないらしい。
「…そう言う関係じゃないですって」顔を伏せたままよく声が出せるもの。
「シャイだったんですねー。初めて会った頃はそうでしたもんね」
「随分と大胆になったもんだ。女子と話せもしない男が今じゃあ女二人侍らせて旅行とはねぇ」
「今は女ですよ…」
「それを選んだのはダーリンじゃん。いいんだよ別に勲君に戻っても」
「それはそれで、リスキーな気がします」結果自分で男の娘化を望んでこの旅をしている勲。なんだかんだで気に入っているのか、それとも別の隠す理由でもあるのか。
「…いさお?」
「そう、いさ…ぉ?」その声に反応し、顔をあげ振り返る勲。
「町村君!?」
後ろには食器を持ってきた深雪が立っている。今の「いさお」と言う単語は確実に聞かれていた。そして彼女の中で今『町村勲』という、忘れもしない存在が頭の中に現れ、目の前の女性、と思われる人物と照らし合わせている。
「ああ、バレちゃったね」深雪の持ってきた食器を受け取りサラッとカミングアウトする真白。
「なにやってんの!?」
「なにやってんでしょーねー…」滝のように流れ出す汗。さてどう弁解しようか、最高学府の頭をフル回転している最中。