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湯気の向こうの男の娘  作者: 小鳩
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第32話

「お墓? ここが?」

「お墓って…。あ、そうか…」あることに気付く佑奈。

「そうです。数年前の地震で、ここは流されたんです」

 今三人が立っている場所。だけに限った話ではないが、この一帯は数年前の大地震で大きな被害を受けた土地の一つ。当然だが佑奈と真白は初めて訪れる。

「はい、ここは僕のもう一つの故郷なんです。幼稚園から小学校までの間数年間ですが、ここに住んでいました。今通ってきた更地ありますよね。あの辺り友人の家があったんです。それに今立っているここ、昔食堂があったんですよ」

「ここ、に?」

「はい。海が見渡せるとてもきれいな食堂でした。よく親と一緒にラーメン食べに来ました」

「ここまで波、来たの?」

「ええ、だから今ここにそれはないんです」淡々と説明する勲。それに対して絶句する二人。無理もない。

「僕の住んでいたところは、もうちょっと奥なので無事だったみたいですけど。この辺りに住んでいた友達は、何人か死にました。そして見つかってないヤツもいます」

「だから、お花持ってきたんだ…」花の意味をやっと理解する。

「ええ。地震の後一度もここに来ることができなかったんです。まだ学生でしたからね、簡単には動けません。自分たちも大変でしたし。お盆に来ようと思ったんですけど、ちょっと都合が付かなくて。そしたら佑奈さんと真白さんとの旅行の計画が持ち上がったので、寄らせてもらいました」

 黙って勲の話を聞き続ける二人。さらに勲が続ける。

「ここにあった食堂のおばちゃんがすごくかわいがってくれて。最初に僕のことを女の子みたいって言ってくれたの、ここのおばちゃんなんですよ。佑奈さんの家で初めて着替えた時、ちょっと思い出しちゃって。それもあって…」

「ここのおばさんは?」真白が聞く。

「亡くなりました」戸惑うこと無く告げる。

「…」言葉が無い。二人は今まで人生で友人を亡くすと言う経験がない。勲の気持ちを理解したくてもできない。

「さっき見てた海岸、あそこ昔は泳げたんですよ。地震以降ダメになっちゃいましたけど。すぐ深くなっちゃうから危ないんですよ、冷たいですし」何かをこらえるように話し続ける勲。

「降りることくらいはできるかな。お花供えに行かなくちゃ…。友達の親や親戚も含めたら、何人亡くなったかわからないけど、せめて…」声が詰まる勲。

「ダーリン…」悲しそうな目で勲を見つめる真白。

「さ、お供えして…、帰りましょう」すでにその頬には涙が伝っている。それをぬぐう勲。

「ごめんなさい。行きましょう」気丈になろうとするがもう止まらない。

「ごめんなさい、ちょっと…ごめんなさい」花束を抱えたまましゃがみ込んでしまう勲。その姿に何もできずただ黙って見ていることしかできない二人。心にどれほどの痛みがあるのかわからない。わかってあげたいという思いがあるものの、味わったことがない気持ちはどうあがいても。

「町村さん…」

「ダーリン…」二人がそっと勲に抱き着く。

「きっと喜んでるよ。お花あげに行こう」

「お別れ、しにいきましょう。きっとそこで待ってます」佑奈らしい、見えているような言葉をかけられる。二人から慰め励まされる勲だが、暫くは立ち上がることができずしゃがんだまま嗚咽を漏らしている。それにただ抱き合って付き添う佑奈と真白。

「ごめんなさい。行きましょうか」

 しばらくして落ち着いた勲が立ち上がり、海岸へと向かう。波打ち際に立ち花束を水面に供える勲。そして三人揃って手を合わせる。何も言葉に出すことはなくただじっと黙ってしばらく海に向かう。

「ありがとうございます。やっと目的が果たせました」

「よかったね」

「一区切りですね」

「一生忘れません。また来れる時には花を持ってここに来ます」振り向いて歩き出す三人。

「その時は、私たちも」

「遠いですよ?」

 波に漂う花束が沖へと流されていく。そして三人に見られること無く静かに沈んでいく。水中花が咲くかの如く青い海の中で束がほどけて広がっている。

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