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湯気の向こうの男の娘  作者: 小鳩
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第30話

「寝過ごした!!!」

 飛び起きる勲。両サイドには佑奈と真白がまだぐっすり寝ている。時刻にして朝の9時を回ったところ。予定より動き出しが遅くなるのを非常に焦って、布団から飛び出そうとしたところ、両足首を掴まれぶっ倒れる。

「もうちょっと寝てようよ~」

「まだ腰痛いです…」

「ちょ、二人とも。僕が朝ごはんとか準備はしますので、寝てていいですから放してください」握られた手を振りほどこうとする勲。しかしその握力たるや女子のものではない強さ。

「やだー。もうちょっとだけー」

「えへへへ、まちむらさ~ん」

 寝ているのか起きているのか中途半端な状態の二人。仕方なく握られた手の指を一本一本解いていき、何とか布団からの脱出に成功する。改めて朝の支度に取り掛かる勲。が、その前に仏壇に線香をあげ手を合わせる。

「おじいちゃんおばあちゃんごめんなさい。家を借りちゃったうえに、勲は大人の階段を登りました。相当」

 まさか天国の祖父母も、孫がこんなことに家を使うとは思ってもいなかっただろう。立っている線香の本数がその勲の申し訳なさを物語っている。

「さて、急がなきゃ間に合わない」

 勲にはどうしてももう一か所だけ寄りたい場所がある。そこに行くためにはそうのんびりもしていられない。二人がいつ起きてくるかによっては諦めざるを得ないかもしれないので、できればさっさと起きて欲しいと願う。

 自信は昨日の夜の残りの米でおにぎりを作り頬張る。二人には何がいいだろう、と悩みながら湯を沸かす。少しずつ暖かくなってきた空気のなか、まだ少しだけ朝の寒さが残る。暖かいお茶を入れて流し込み体を起こす。

 二人に出せるものが無いので、近くのコンビニまで足を運ぶ勲。二、三パンやおにぎりを購入して戻る。コンビニ帰り道、道の駅のような販売所で花束を購入する。既に墓参りは済ませているため何に使うのか。それは今日の目的地へ向けての準備でもあった。

「こんなもんでいっかな」右手にコンビニ袋、左手に花束。沢○研二じゃあるまいし、田舎を変な格好で歩いている勲。

 家に戻ると、佑奈が起きていてお茶をすすっている。

「あ、おはようございます」

「おはようございます。お茶貰ってます」

「ええ、どうぞ。これ朝ごはんです。好きなものどうぞ」持っていた袋を差し出す。

「ありがとうございます。それお花ですか?」左手の花束に当然だが気付く佑奈。

「はい。今日行くところで使うんです」

「お墓、じゃないですよね?」

「お墓ではないですね。ある意味そうかもしれませんが…」

「??」その答えに首をかしげる佑奈。

「さて、あまり時間もないので、真白さんも起こしてきてもらえますか。夕方までには戻らないといけないですから」

「はい、わかりました。もうごにょごにょしてたので起きると思いますけど、見てきますね」

 そう言い残し真白の元へと向かう佑奈。すれ違う際勲の顔を横目で見る。そこにあったのは少し寂しそうな顔。昨晩のことが原因だろうかと、少しだけ不安になる佑奈。しかしそんなことで深刻になりはしない。花束が意味するものは。

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