第2話
「ごちそうさまー」
「ちょっと食べ過ぎたかなー。お昼いらないかな」
ニコニコ満足した顔で店を出てくる二人。
「おふ…」
二人の後ろから口に手を当て出てくる勲。冷麺だけの予定が、そうはどっこい佑奈が「タン、カルビ、ハラミも」と勝手に注文し出すものだからあら大変。結局店的にはランチになるが、三人としては朝食と言う名のフルコース焼き肉が終了。一人グロッキー状態の勲。
「ちょ、ちょっと運転待ってもらえますか?」車へ着くなり休憩を要求する勲。
「情けないですねぇ、あれくらいで」
「あれくらいって。ほぼフルコースじゃないです…うっ」
異次元の胃袋を持った佑奈と同じにされちゃたまらない。多少消化に時間がかかるどころか、本日飯いらないレベルまでになっている。
「私もちょっと食べ過ぎたかなぁ。ま、でも次のは次で別腹だし」
「真白さんだって、北海道で2キロ太ったって…」ボディに一発貰い戻しそうになる。しかし耐える。
「しょうがないですねぇ。あんまり時間もないですし最初の目的地まで私、運転しますね」佑奈から突然ドライバー交代の提案が入る。
「え? いいんですか?」
「はい。大丈夫ですよ。初心者ですけど、親からも教習所の先生からも上手いって言われてますか」
「へぇ。じゃあお願いしようかな」
と言って席を替わる勲。取り敢えず助手席へ。運転席に座す佑奈、そして慣れた手つきで座席周りを確認し始める。
「えっと。こっちアクセルで…、ウィンカーこれだっけ?」ワイパーが動き出す、待てよ。
「自分の家のじゃないとわからないですね。よし覚えました」一抹の不安が勲によぎる。真白は既に後ろでシートベルト待機。
「さて、じゃあ出発しまーす。えい」
佑奈の掛け声と同時にどこぞの芸人の「ギュン!!」と言うネタがふさわしそうな勢いで発進するエコカー。エコは何処へ。
「ちょ、まっ」
制止するも時既に時間切れ。Gで座席に押し付けられ胃袋をゆすられた勲は両手で必死に口を押えている。遠心力耐久の特訓をさせられているかのように白目をむきながら必死に耐える。そして三人を乗せた車はマッハで最初の目的地へと向かう。
30分後。
「とうちゃーく!」
「はっやーい」
「…」一名死亡確認。『上手い』の意味を思い知る。道中首があらぬ方向へ曲がったりなんだりと、吐く間もなく意識が飛ぶ。目的地に到着したころには立派な屍が完成。
「いやー、何度も言うけど涼しい」
「取り敢えず牛乳ソフト食べましょう」
「…すいません。後から追いかけますので先に行っててもらっていいですか」
「はい、じゃあ中で待ってますね。真白、いこ」
「うん」
二人は早々と勲を放置して牧場の中へと消える。そしてそれを車から天を仰ぐ状態で横たわったまま見送る勲。
「本当に来ちゃったなぁ…」
仰いでいる天を見渡し、改めて今自分がいる地を再認識する。お盆明けの平日、観光地ではあるもののやはりこの時期人の入りは少ない。三人だけと言うのは言い過ぎだが、自分たちだけの世界にいるような感覚。
「ま、バレないように楽しもう。こんな恰好じゃなきゃ最高なんだけどなぁ…」
自分の格好を確認する。今回は前回までのようにスカートではなく動きやすいパンツルックと言うのが救い。消化しきっていない胃袋に鞭を入れスクッと起き上がり二人の後を追う勲。旅の恥はと言う言葉を思い出す。恥って言うのかは謎だが。