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湯気の向こうの男の娘  作者: 小鳩
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第20話

 夜も更け丑三つ時。さすがに時間が浅いとそう簡単には出るまいと、江戸時代のようなことを言いだす佑奈。取り敢えず古典的に幽霊が出ると言う時間まで待ってから行動を起こす勲と佑奈。その間真白は一切起きない。

「じゃ、じゃあ行きますよ」扉を開き廊下に繰り出す勲。人の息は一切しない長い廊下。従業員も既に寝静まっているのに加え宿泊客は自分たちだけ。今この旅館内で動いているのは自分と佑奈のみ。ホテルと違い無駄な灯りが消された廊下はちょっとしたお化け屋敷状態。男といえど少しためらってしまう不気味さ。

「おー、いい感じですね。これは出そう」喜々としている佑奈。

「で、何処目指しますか? 例の部屋ですか?」

「そうですね。あそこが一番強いと思います。遠くに少し気配もしますし」

「いるんだ…」見ちゃったものはもう信じないわけにはいかない。その佑奈の言葉を嬉しいやら悲しいやら受け取る勲。

 特に武器の類は持たず、素手で廊下を進む。少し離れて佑奈が後を付ける。「勲は囮」この意味はある程度察しがついていた勲。しかし少し違った。予備の下着を佑奈から借り受け、風呂に行く振りをして廊下を練り歩く。借りた下着は白。「履かなくてよかった…。黒いのがよかったな」なんてことを思いつつ、タオルの間に下着を挟み込む。

 決して風呂にはいかない。ただただエンカウントするまで廊下を徘徊し続ける、とドラ○エでリム○ダールの周りをはぐれ○タルが出るのを待つかの如くの行動を繰り返す。その手にはバスタオルと生下着。「僕である必要は…」シャラップ。

「取り敢えずしゃなりしゃなり歩いてください。本能的に男って察するケースもありますから。なるべく女性っぽく」と、佑奈から言われているため、間違った花魁風に廊下をゆーっくり歩いている。お前の方がよっぽど妖怪に見えるんだが世間がどうとらえるか。世間は寝ているので何とも。

 牛歩になっているが、最初の長い廊下を渡り尽す。曲がると視線の先には例の「出る」部屋があった。今のところ勲の目には何も見えない。後ろから佑奈が追いつく。勲の後ろから顔を出して部屋を観察する。

「んー、今のところ見えないなぁ。まぁ行くだけ行ってみましょう」

「はい」

「あ、歩き方は普通に戻していいですよ」必要だったのか疑問である。

 また勲が先行する。距離にして20メートル程度、秒速三十センチくらいのスピード。「もうじれったいんで普通に歩いてください」しびれが切れた佑奈。最初からそれでいいじゃんなんて口答えもできず。

 例の部屋にたどり着く二人。懐中電灯で部屋の中を照らす。しかしそこには何もいない。

「いなさそうですね」

「うん、気配はするんだけどねぇ。どこだろう」懐中電灯で隅々まで見渡す佑奈。するとある一点で佑奈が気付く。

「あ、あれ!」

「な、なんですか?」

「私たちの下着、あんなところに!」なぜか神棚に供えられた佑奈と真白の盗まれた下着。神はそんなに下郎ではないとおうんだけど、妖怪のやることはわからない。

「あんなところに…。やっぱ妖怪の仕業」

「でしょうね、ちょっと取ってきます」下着を回収しに佑奈が部屋へと入る。後ろから勲が警戒するが特にまだ不自然なことは起きていない。高いところにある神棚、地袋のようなものに足を掛けよじ登る。

「もうちょっと…」手を伸ばす佑奈。そして神棚の下着に手が届く。すると部屋の反対に動く影。

「取れた!」

「佑奈さん、気を付けて!」勲が佑奈に声を飛ばす。しかしその影は既に佑奈の足元にある。

「え?」佑奈が気付いたころにはもう遅い。浴衣の裾に何かが当たったかと思うとその後すぐ浴衣はめくれ上がる。

「きゃっ!!」それに驚き足を踏み外す佑奈。

「危ない!」とっさに駆け寄り佑奈の身体を支える。勘一発セーフ。勲が駆け寄ると入れ替わる感じに、その影は廊下の方に見を映す。まだ正確に姿は捉えられていない。

「大丈夫ですか? あの野郎、なんて羨ましい」

「あ、逃げます。追ってください!」

「まて、コンチクショウ!」逃げ出す影を追う勲。後を追う佑奈。取り敢えず回収した下着は胸の中へ。人間の速さではない、あっという間に自分たちの来た方向へと消えていく。ということはまた三人の部屋を目指しているのだろうか。曲がり角を曲がり廊下の端の部屋を見ると、その中に影が吸い込まれていく。

「マズい! 真白さんが気失ってる。起きてるなよー」

「まぁどのみち、見たらまた気絶するでしょうけど」冷静な佑奈。きっと今までそんな光景を何度か見てきたのだろう。

「トラウマになりゃしないか心配ですよ…」

 そして二人も部屋へと辿り着き、勢いよく扉を開く。

「追い詰めたぞこの野郎!」

 勲が部屋の中に目を配る。するとそこにはまだ寝たままの真白と、その布団の上で飛び跳ねる影。そしてその影が振り向くと同時、月明りに照らされて正体が露わになる。それは、話に聞いた通りの姿をした座敷童がいた。でもなんかちょっとおかしい。

「佑奈さん。あれ、尻尾じゃね?」

「…、ですね」

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