第16話
んで
一日遊び尽した勲達一行。本日の宿に到着する。県北の小さな宿、ひなびたと言う感じがしっくりくる温泉宿。勲は何度か来たことがあり、ここなら実家にも近いし動きやすいと決めた。当然ここも女性三名様で予約済み。
「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」
「えっと、町村です。三名で取ってた者です」
「はい。じゃあこちらに記帳をお願いします」
宿帳に記帳をする勲。その横では佑奈と真白がきょろきょろしている。
「この宿、ちょっと雰囲気変わってますね」
「変わってると言えばそうかもしれませんが。ちょっと曰くつきなので」
「曰く?」
「ええ、この宿出るんです」
「出る?」
「はい、お化けが…」
「きゃー!」耳をつんざくような叫び声。それを発したのは真白だった。耳を塞ぎ目をつむり、かがみこんでしまう。
「あ、アレ。どうしました真白さん?」
「私、ムリ」
「え?」
そう、真白はお化けの類が全くダメなのだ。ここにきて新事実。勲も知らされていなかった真白の弱点がここで明らかになる。
「そうなんですよ。真白ホラーの類一切ダメなんです」
「えぇ…」
かがみこんでいる真白を見る勲。まだ「出る」と言っただけで実際出た訳でも何でもないし、まだ日もある。出るには早いし、そもそも毎度毎晩恒例行事、時間指定のモノマネショーの如く顔を出すわけでもないので、お目に描かれる可能性の方が圧倒的に低い。
「あら、お化けとかダメなの? でも大丈夫よ、ここのはいいお化けだから」
「いいお化け?」旅館の人の話に耳を傾ける真白。
「そう、ここに出るのは座敷童。見れば幸せになれるのよ。なかなかでないから会えたら本当に幸せになれるわよ」
「それでも、お化けでしょ?」
「うーん、それはそうだけど。まぁなかなか会えないし。それに出る部屋は決まってるから」
「その部屋だけは絶対イヤ」断固拒否る真白。
「大丈夫。そこはお客様は通さないから安心して」
「な、ならいいかな…」ちょっとだけ気を持ち直し立ち上がる真白。
「ごめんなさい、そんなこととはつゆ知らず」
「いや、しゃーない。でも出たら後はよろしく。私はきっと気絶する」
「そこまで…」
取り敢えず記帳を終え部屋に通される三人。途中「出る」部屋の前を案内される。当然いる訳もないが、出会いたいと願う人が備えたものが部屋に所狭しと並んでいる。それをみて真白が「ひっ」と声を挙げて勲の後ろに隠れてしまう。本当にダメらしい。たしかに見れば日本人形やらぬいぐるみやらと、お化けが出なくてもこいつらが動き出して百鬼夜行して来たら、真白じゃなくても驚いてしまうだろう。真白の目を塞ぐ勲、そのまま部屋までご案内。
「さすが田舎。まだ出る場所があろうとは…」
仲居に頼んで布団を出してもらい、上から布団をかぶり顔だけ外に出している真白。子供が怖い時にやるポーズ。
「すいません、本当に知らなかったので…」
「いや、もうしゃーない。腹括った。ダーリン絶対離れないでね」
「わかりました」
「でも今のところ、そんな感じ全くしませんね」
「え?」何を言い出すのか佑奈。感じるとは。
「ああ、これも言ってなかったけど。佑奈は見えるんだ」
「えぇーー…」何と佑奈は霊感持ち。聞くと子供の頃から散々見てきたようで、別に怖いとも何とも思っていないらしい。真逆の二人。よく友達やってるなと今初めて思う勲。
「旅館見た時ちょっと不思議な感じはしましたけど、今のところ何もこの辺りにはいなさそうですよ」
「だ、そうですよ」布団と一体化している真白を見る。
「な、ならいいんだけど…」それでも布団からは出ない。
「出そうになったらすぐ教えますから、気絶しちゃって朝迎えるのがいいかもね」
その佑奈の言葉には何も答えず、ただ青ざめて布団にくるまり続ける真白。このまま何事もなく朝を迎えられればいいのだが。そうは問屋が卸さない。お得意さんには卸す卸す。




