第12話
日が変わった午前1時過ぎ。真白に寝かしつけられた勲が目を覚ます。
「ん、そっか寝ちゃったんだ。今何時…と」時計を確認し、ベッドの方に目を向ける。そこには二人が寝ている。
「…、今なら貸切風呂空いてるかな。ちょっと行ってこよ」時間的にほとんどの宿泊客は寝ていることだろう。若い人間もそういなさそう、今日の宿泊状況から推測すればいけると踏んだ勲。二人を起こさないよう、電気も付けずにコソコソ準備をする。そして改めてウィッグを被り部屋を抜け出す準備完了。出口に向けて足音を殺して進む。
「…ダーリン?」ベッドの方から声がする。これは当然真白だろう。
「あれ、起こしちゃいましたか。ごめんなさい」
「どこ行くの?」
「お風呂です。今なら貸切空いてるかなーって思って」
「じゃあ私も行く。ちょっと廊下で待ってて」ベッドから起き上がり、少しはだけた浴衣を直す。
「え? え?」嬉しいくせに、焦ったふりをしてみせる。寝ぼけているのか真白は特に何も返してこない。取り敢えず気が変わってもらっても残念なので、指示通り廊下に出て待つ勲。
先に廊下で待っていると静かに真白が出てくる。
「おまたへ、いこ」
「は、はい」
寝静まって物音のしない廊下を二人歩く。いつもなら何か会話があるのだが、眠いのか真白から一切話してこない。気になった勲は気づかれない程度に真白の顔を見る。すると、そこには若干赤くなっている真白がいる。
「これは…、そういうことでしょうか!?」よく心の声が表に響く青年だこと。聞かれてはいないが勲の中ではこんなことばっかり小さな勲が叫んでいる。そしてそのまま貸切風呂まで到着。
「あ、空いてますね…」
「うん」
「じゃあ、入りましょう」勲が札を『使用中』に変えて専用の更衣室へ入る。後ろについてくる真白は「…うん」と一言。なんだかずっとしおらしい真白。姉さん、夢が叶います。
大浴場とは異なり数名分の脱衣籠がある。服を脱ぐ前に勲が風呂を確認するため外への扉を開ける。貸切は露天、これが入りたい理由でもあった。
「この大きさならゆっくり入れますね。じゃあ僕着替えますけど…」
「後ろ向いてるからいいよ。先に入ってて」こんな真白を今まで見たことがない。みょーに緊張する。
「じゃ、じゃあ…」お互い背中合わせになり、勲から先に服を脱ぎ、全裸になりタオルを腰から巻いて準備完了。先に風呂へと突入する。
掛け湯をして湯船の中に身を沈める勲。この数十秒だけでももう心臓が通常の三倍くらいの速度でなっている感じがする。そしてなかなか真白は入ってこない。
「ま、真白さん? いますよね?」
「…いるよ」まだ声はいつものトーンに戻っていない。こっち以上に向こうは緊張しているのか。そう想像するだけでももうリミットブレイク。
「…ブクブク」顔を半分湯船に沈め、今か今かと入ってくるのを待つ勲。そしてその時はついに訪れる。
「入る…、ね」
「は、はい!」声がうわずる。そして真白が中に入ってくる…!
「じゃーん!!!」
「はぁああああああああああああああああああああああ!!??」
扉を勢いよく開け、バスタオル一枚の真白がいるであろうと想像した勲。しかし勲が見たものはなんと、スク水着用の真白。勲の扱いを熟知されているようで何より。天国から地獄へ突き落されるとはこのこと。湯船に力なく浮かぶ勲。ほぼ水死体。
「どお、期待した?」両手を腰に仁王立ち。沈没した勲を見て毎度の如く笑っている。
「…ブクブク」なんか言ってるけど当然理解できない。
「で、でも! スク水姿見れただけでも!」立ち直りが早いのが取り柄。水面から顔をあげ改めてスク水姿の真白を凝視する。しかし、起き上がった勢いで腰に巻いていたタオルがはだける。
「ダーリン。さすがにそれはちょっと…」不可抗力。目を逸らす真白、さすがに照れている。
「……あ」慌ててまた湯船に下半身を沈める。
閑話休題
「はー気持ちいい」
「いいですねー、誰もいないし入ってこないって」
二人並んでのんびり浸かる。電気もあまり煌々と付いていないため、星空が良く見える。
「綺麗だね。さっきダーリン寝てる時佑奈と外に見に行ったんだけど、流れ星一生分見れたよ」
「田舎だと、ちょっと見上げてれば見れますからね。あ、ほらまた」指で刺す勲だが、その時には既に宇宙のどこかに消えてしまっている。真白が目で追うことはできない。
「佑奈も起こしてあげればよかったかな。でもあの子一度寝たら朝まで起きないし」
「無理に起こさなくてもいいですよ。明日も明後日もまだありますから」
「それは何だい。二人っきりのがいいって裏返しでいいのかな?」
「そ、そういうわけじゃ…」返しがいつもの真白に戻っている。
「…さて」
「あ、出ますか?」
「いや、脱ぐ」
「…え?」勲には「脱ぐ」と聞こえた。と思った矢先、真白がスク水の肩に手を掛け湯船の中で水着を脱ぎ出す。こればっかりは冗談ではないようだ。事実目の前で脱いでいる。さすがに予想していなかった勲は慌てて真白から目を逸らす。
「あー、やっぱお風呂は裸だよね。はい、ダーリン」
横を向いたままの勲の手を自ら引き上げ、何かを手渡す。何かと言ってもそれはもうアレしかないはず。勲が恐る恐る手の上のものに目をやると、そこには当然真白が来ていたスク水があった。放り投げそうになったが、それはそれで勿体ない! 逆ベクトルの自制心が働き、手に力を込めスク水を握る。変態の所業。
「も、もらっていいんですか…」
「欲しけりゃあげる」
「じゃ、じゃあ…」
「ヘンタイ。でもいいや」裸になった真白が勲に寄りかかってくる。訳も分からず両手がバンザイ状態になる。天にかざされる真白のスク水。
「何そんな緊張してんのさ。昨日今日の関係じゃないんだから、こっちが恥ずかしくなる。普通にして」
「ご、ごめんなさい…」諭された勲は少し落ち着きを取り戻し、寄りかかる真白に自分も少し傾く。落ち着いてやっと真白の方を見る。当然だが今彼女は一糸まとっていない。まとっているのは水くらいか。そう考えると「水の羽衣」って恐ろしい装備だなって、平静を保つためにくだらないことを考えている。
もう普通に目に入るものは入っている。たしかに見たことがないわけじゃない。しかしシチュエーションというものは人の感情を何倍にも増幅させる。いつも見る以上になんか綺麗だし、なんか…。ちょっと見惚れて目が離せない。
「どう。惚れ直しでもした?」
「…はい」
「正直だな、でも照れる。でも嬉しい」
と同時に、真白が勲に跨ってくる。一瞬心臓が止まる勲。
「な、何してるんですか!!??」腕を勲の首に回し、もう逃げられない状態。見えるもんは全部勲の目の中に入ってしまっている。
「…お風呂でって、難しいのかな?」
「いきなりソレはハードル高いかな…」
さて、この後はご想像で…。




