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湯気の向こうの男の娘  作者: 小鳩
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プロローグ

「しんちょう、ごじゅうななめえとーる♪」

「たいじゅう、ごひゃくごじゅっとん♪」

「何で僕また新幹線乗ってるんだろう…。数日前に乗った記憶が、うっ、頭が」

 なぜこの世代がコンバ○ラーのエンディングを知っているのかはさておき、今勲達三人は東北新幹線に乗っている。八月も半ば。お盆の帰省時期も過ぎ、朝も早いため車内はガラガラ。同じ車両に勲たち以外は誰も乗っていないため大声で佑奈と真白が歌っていても迷惑にならない。

「元気ないぞー、ダーリン」

「お腹減ってるんですか? はい、食べるもの一杯ありますよ。田舎だから食べ物売ってないと困ると思いまして一杯買いだめしました」

「そんな、店が一軒もないようなド田舎じゃないですよ。あ、でもうちの爺さんちはそうか…」

「ほら、餓死したら成仏できませんよ。はい、デリシャススティックの新味『ツバメの巣味』です」

「恐ろしい味だな…」佑奈に手渡され封を開ける勲。

「なに、実家に帰るのがそんなにいやなの?」

「いえ、そういう訳じゃないです。そもそも今回実家寄らないですし」

「じゃあいいじゃないですか。バレることもないでしょうし」

「そうだけど。どこかで誰かにニアミスって可能性があるって考えるだけで」

「だいじょぶだいじょぶ、バレないって」

 そう、今勲達は計画していた夏旅行の最中。その行きの新幹線で東北に向かっている。まさかそんなことにはなるまいと思っていたが、佑奈と真白が口を揃えて「北に行こう温泉に入りたい」と言うもんだからさあ大変。勲が岩手出身と言うことに目を付け同行者兼添乗員と言うことで、なんと目的地が岩手になった。男の姿で言った場合「何お前二人も女はべらせてんの?」と言う目で見られる。仮に男の娘の格好で行って知り合いにバレた場合「何お前女装趣味あんのうわやめて」となる。どっちにしても勲にメリットがあまり感じられないこの旅。

 身バレを防ぐためありとあらゆる手段を講じる勲の珍道中が幕を開ける。因みに三泊四日。

「誰にも会いませんように」車窓越しに見えるはずのない牛久大仏に祈る勲。

「すいませーん、アイスください」車内販売を引き留める佑奈。

「はい。バニラ、抹茶、ストロベリーありますけど、どれになさいますか?」

「全部」こんだけ食って一切太らない佑奈。奇跡の代謝をお持ちのようである。

「おねえさん、この人男に見えますか?」急に横から勲を指差し車内販売の人にありえん質問をする真白。

「ちょ、何言ってんの!?」

「え、いえ全然。女の子、ですよねぇ」販売員の女性の勲を見るその目に疑いは微塵もない。

「はい、もちろん。大学の同級生なんです」

「あらいいわねー、夏休みの旅行?」

「はい、挨拶兼ねて」余計な一言が確実にはいる真白。

「あいさつ?」真白の発言を理解していない販売員のおねえさん。

「何でもないです、ありがとうございます!」勲が出す必要のないお金を渡し早々に立ち去ってもらう。

「いつから僕女子大に入学したんですか。じゃなくて何言ってるんですか真白さん」

「ほら、バレてないよ」

「もう心配し過ぎですよ。イベントでも完璧でしたし、ロムだって全然バレてないですし。急にひげが濃くなったりしなければ大丈夫ですよ」

「ロム…」その言葉を聞くとトラウマになってしまったらしく、意識がここになくなる。数十秒の後戻ってくるので支障はないが、一歩間違うと黄泉送り。

「さあ食べましょう」と言って3つのアイスのふたを全て開ける佑奈。結局到着するまで食い続けた三人。

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