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しょーとしょーと!

背伸び

リンゴのマークを腕や鞄に忍ばせ、仕事の相棒はタブレット端末。

ファッションも自分の身体に合ったシンプルなものでより彼のスタイルの良さを際立たせている。


つくづく見惚れてしまう彼のかっこよさにぼうっとしてしまう私。





.....夢をみているのかな。





こんなことを私は1時間に1回は思っている。





そんな彼に比べて


一生懸命磨いた爪にライトベージュのネイル、昨晩からカーラーで巻き髪にしてアイロンで必死につくった前髪、なるべく彼と並んだときに浮かないようにシックで大人っぽいファッション、ナチュラルメイク、もう少し伸びて欲しかった身長をカバーするためのヒール。




自分なりには努力したつもりだけどふと並んだ姿を見たときに感じた違和感。


なんだか......兄妹みたい。


すれ違うおそらく彼と同世代の女性の方が彼とお似合いな気がして、というよりお似合い。


















最近は歳の差恋愛とか普通で、20歳差とかよく耳にする。

でも実際付き合い始めると10歳差がすごく高い壁に感じて、



あれだけ彼が好きで大好きで


ダメ元で告白したらまさかの受け入れてもらえて


あのときは自分が世界一幸せだと感じたのに今は不安しかない。


私はつくづく贅沢な女だ。


















『美咲、コーヒーぬるくなるよ』


....そうだ、久しぶりに彼がお休みだったから買い物に行って彼の家にお邪魔して、で、コーヒーを淹れていたんだった。


「あ、ごめんなさい、」


『大丈夫?疲れた?』


「いえ、大丈夫です、」


リビングのローテーブルにカップを2つ置く。青とグレーのおんなじデザインのカップ。初めて家にお邪魔したときには既にあって、だから何ってことでもないけど、気になるもので、気になるけど、聞くなんて子どもっぽいし。


ふわふわのグレーのカーペットの上に座ろうとすると彼が座ってるソファの隣をトントンと叩いた。



やばい.....それは近すぎる.....



顔が赤くなるのを感じながらおろおろしてると腕をひかれた。

さらに顔が赤くなる。


とりあえず座ると隣からクククっと笑う声。


『慣れない?』


かろうじて頷いた私は目の前のグレーのカップを取った。

ブラックは飲めないことは無いけど多分全部は飲みきれない。

ゆらゆらと揺れる黒い液面。

ゆらゆらと揺れる私の情けない顔。











やっぱり背伸びして盛れる高さには限界があって、

彼の高さに届こうとすると地から足が離れてしまう。











ふと私の手からカップが奪われた。

顔を上げると彼がいつの間にか牛乳をカップの中に注いでいた。


「あっ、翔哉さん、」


『ん?』


ほら、と差し出されたカップはベージュ色に変わっていた。


「....ありがとうございます」


口をつけると既にぬるくなってしまったが、美味しかった。


今まで彼の前ではブラックしか飲んでなかったけど

.....全部見抜かれてたみたい。




今までの自分を振り返ると胸が苦しくなってカップを握りしめる。




すると翔哉さんの大きくて温かい手でふわっと頭を撫でられた。


......うわ、やばい、泣きそう。








翔哉さんは何から何までオトナで、


やっぱり、私には、まだ早かったのかもしれない。


「...翔哉さん....やっぱり、私...」

『オレさ、今日の美咲が待ち合わせ場所に来たときすごいドキドキした、』


私の巻き髪を細い指先で弄びながら彼は続ける。


『すごい色っぽいし、ちょっと、いやかなり焦ったよ』


「...え?」


『変な虫が寄ってきそうでさ』

お前、圧しに弱いだろ?、と笑いながら私の目にいつの間にかたまった涙を指先で拭う。


「へ、変な虫なんか...」


『寄ってくるの』

今日だってすれ違う野郎どもにじろじろ見られてたし、とぶつぶつ言う翔哉さんは顔をちょっと赤らめていて


鼓動が速まる








「私だって....翔哉さんに、美人が寄ってきてほしくない..」


口にしてハッとする。


「あ、その、ご、ごめんなさい」


『なんで謝るの』


「いや、その、」


ふと右耳に髪をかけられる。


「いまのは聞き流し」


『いや』


「.....私、コドモっぽいです、よね」


『別にいいじゃん、むしろもっと甘えて欲しいんだけど?』


戸惑う私をよそにコーヒーを飲む翔哉さん。








『ああ、でも、オレも言わなかったからなあ』


ごめんね?と私の顔を覗きこむ翔哉さん。


ああもう、あざとい。









しかし、問題の根本的な部分は解決してない。


「....私は翔哉さんの隣にいていいんでしょうか」


ここ数週間ずっと言いたかったこと。


静寂に包まれる部屋。


何も言わない翔哉さん。


.....しまった、さすがに今のは重すぎたかもしれない。








ゴトッと音がするとローテーブルに翔哉さんのカップが置かれ、私のカップも翔哉さんに奪われた。

ゴトッと再びカップを置くとおもいっきり腕をひかれた。


勢いよく翔哉さんに飛び込んでしまい起き上がろうとするもすごい力で押さえられてる。


こんな細いのに、どこにこんな力が.....


じゃなくて!


「翔哉さん?」

『美咲、』


私の声を遮るようにいつもよりも低い声で私を呼ぶ。

こんな低い声聞いたことない。


『この際だからさ、お互いの不満言い合おうか』




え?


えっと?






『じゃあまずオレから』


『自分に自信なさすぎ』


『オトナぶりすぎ』


『グリンピース残しすぎ』


「なっ」


『和菓子の良さを理解しなさすぎ』


「そ、それは!」


『あと、』


『周りの目気にしすぎ』


「.....っ」


『周りの目よりもっとオレを見ろよ』


ってちょっとクサイな、とクククっと笑う声がして。


私は思わず翔哉さんの背中に腕を回した。

私の心音か翔哉さんの心音か分かんないくらいバクバクしてて、頭はさっきから混乱しすぎてて


『はい、次美咲ね』


.....あ、そうだった。


「...無いです。」


『それはなし』


「え、だって本当に」


『じゃあなんでそんなに悩んでるの』


「それは.....」


「私が翔哉さんに釣り合ってない...から?」


『なんで疑問系なの、あと釣り合うとか釣り合わないとかはオレと付き合う上でそんなに大事?』


「大事です」


『へえ、じゃあ好きって気持ちよりも周りの目を気にして付き合うか別れるか決めんの?』


「...それは....」


『な?変な話だろう?』


確かに。

私は誰かのために翔哉さんと付き合ったわけじゃない。

私のために翔哉さんに告白した。


「...私は、翔哉さんが好き。」


それだけで十分ってこと?


『はい、よくできました~』


頭をくしゃくしゃと撫でられる。


ふっと気が抜けると笑いが込み上げてきた。


「いま別れなかったこと、後悔しても知りませんからね!」


あー?と翔哉さんは軽くにらむと二人で顔を見合わせて笑った。














背伸びは地に足を着けた状態で。

(でもヒールで盛るのはOK!←)



----------------------------------------


あっ、


ん?


ありましたよ、翔哉さんへの不満。


甘いもの食べ過ぎ!

いまに太っても知らないんだから!


ごめん、オレ太らない体質なの。


ムカつく。体質分けろ!


でもオレらの子どもには遺伝するかもよ?


なっ..../////


あーでもこればっかりは分かんないもんな、

試してみる?


いや、え、まじで、ちょ、翔哉さん???
















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