不思議な夢 その後(うっかりさんの異星人)
女が自分の記憶の中にしか存在しない元同僚と、毎晩、毎晩、セックスする夢から開放されてから半年後……。
「閣下、それではお休みください」と、大柄な男が事務的に言った。
「ありがとう 」と、“閣下”と呼ばれた男が事務的に礼を言って扉を閉めた。
男は部屋の中を丁寧に見回した。何か異常な点はないか? 不振な点はないか?
彼は暗殺を恐れていた。彼がここまで上り詰めたのは見せ掛けの忠誠、裏切り、そして暗殺だ。だからそれらを何よりも恐れていた。
何も異常はないようだ。彼はため息を一つして、分厚い扉に鍵をかけベッドに入った。
彼は何か異常を感じて目覚めた。
目の前に獣が立っていた。背が低く青白い肌で、目はアーモンドの形をしていて瞳は爬虫類のそれだ。
「閣下、あなたに相談がある」と、獣。
警備を呼ぼうとしたが声が出ず、体も動かない。
「大丈夫で、我々はあなたに危害を加えるつもりは毛頭ない。それどころか、あなたにとって“美味しい話”を持ってきたのだ」
彼は頷いた。
「我々の種族の女たちは出産の苦痛を一方の性だけが背負うのは不条理だと言い出した。それのみか、卵子の提供も拒否している。それでは種族が絶滅してしまう、と言っても聞く耳を持たない。女たちは男から支配権を奪おうと考えているのだ」と、獣。
「何と、恐ろしい! 」と、彼。
「それで我々は女達に代わって種族を残してくれる他種族の“雌”。……失礼! 言葉が適切でなかった」
「訂正する必要はない。“雌”で充分だ」
獣がにやりと笑ったのが分かった。獣は話を続けた。「他種族の“雌”を探してこの銀河を探し回った。で、ついに見つけたこの銀河の暗黒、つまり未開星域の……。また失言をしてしまった」
「構わない、話を続けてくれ」
「星域の片隅ある太陽系の第三惑星の“けだ……”」
獣は、一旦、言葉を飲み込んで話を続けた。「知的生命体の“雌”が最も適当だという結論に達した。人間の“雌”だ」
「で……」
「我々の科学力を用いれば、この星の雌達が夢を見ているうちセックスし、受精卵を取り出すことができる。誰にも知られずにそれらのことができるが、我々は高度の科学力とともに高いモラルも持っている。それで、閣下、相談です。あなたの国の雌のお腹をお借りしたい。先も言ったように雌に肉体的・精神的に危害は加えない。ただ“不思議な夢”を見るだけ。「タダ」とは言わない。閣下に同意して貰えば、閣下に我々の科学技術を提供する。我々の科学力は地球のそれより千年は先に進んでいる」
獣はノートPCを一台目の彼の前に置いた。
「我々の科学技術の全てがこのPCに入っている。形は単なるWindows10のノートPCだがこの星のスパーコンピューター数台分の能力がある。このPCで閣下の国が抱えている全ての問題を解決し、あなたの国がこの星の支配者になれるのです。あなたの名前が歴史に残るのです! 悪い話ではありません。頷いてもらえれば契約成立です」
彼は迷わず頷いた。
「ではただ今、契約成立です」と、獣が言った。
その夜以後、彼の国の雌達が奇妙な夢を見るようになったのかは雄の彼に分かるはずがなかった。
たとえ、それが自分の娘だったとしても……。
獣は久しぶりに我が家の居間にいた。獣はティースプーンでインスタントコーヒー(あの惑星から持ち帰ってきた)をカップ入れ、それを口にした。
そして、呟いた。「さて、おれはあの男にPCに入るためのパスワードを伝えたっけ? 」