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二話 人を抱きかかえて陸に運ぶのって案外難しいんだね

雉月は考え事しながらアパートまで歩いて行く

雲行きが怪しくなる中 雉月は何かを感じたのか方向変え河原へと向かった


ーー気付かなかった訳じゃない ただどうでもよくなっていた


雉月は河原の橋の下に着いた

そこで目にしたのは



「おらぁ!!! ゴミ共!!」


「ぐはっ!! うぐぅ…… 許してくれぇ」


橋の下に段ボールを家にして暮らすホームレス達が

柄の悪いチンピラ達に襲われていた


「お前らなんざ生きてても意味がねぇんだよ……

影で暮らすなんて〝妖怪〟みてえに存在しやがって!!」


「ギャハハ! 言えてる 妖怪は滅さなきゃね~~」


チンピラの一人がホームレスを背後から抱きかかえ

もう一人のチンピラが廃材を片手に構える


「化け物討伐! 一匹目~~!!」


「虎さん!!」


抱えられたホームレスが目を瞑ったとき

その振り落とされる廃材を腕で受け止める雉月がいた


「お前…」


「てめぇは…」


「あ! お前はあんときの」


雉月は昼間出会った不良達を思い出した


「まだやってたのか お前等」


「ゴミを掃除してやってたんだよ!!」


チンピラは廃材を野球のバッターのように構え直した


「やっちまえ庄司!!」


庄司と呼ばれるチンピラは 思いっきり雉月の脇腹を叩いた


「ぐあぁ!!!」


雉月はその場に倒れ脇腹を押えながらのた打ち回る

庄司はケラケラと笑い 倒れている雉月に廃材の先を向ける


「お前…… 妖怪は嫌いか?」


「………」


激痛を痛感する雉月は決死の思いで その質問をした


「考えたこともねぇな… なぁ古谷!」


「ホントこいつ何言ってんだろうな!!」


二人はその質問に何の感情も無く ただ笑っていた

そして庄司は廃材を振り上げた


「いたらいたでぜひ〝飼って〟みたいもんだね…… 

妖怪なんて見るだけで吐き気がする」


「!」


庄司が振り下ろそうとしたその時


「その辺にしとけ」


庄司は無理にも廃材を止めた

その先に見たものは古谷がホームレスに首を掴まれて宙に上げられていたからだ


「古谷!」


「が…… あっ………」


「早めに引き上げてればよかったものぉ~」


「おっ…… さん?」


倒れている雉月に ホームレスはニコッと笑った

そして掴んでいる古谷を川に投げ飛ばした


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


古谷は勢いよく川に投げ飛ばされ 必死にもがいている


「庄司…… !! 助けてくれ!!」


「………!!」


首を掴まれ ろくに息も出来なかった状況で川に落とされた分

既に呼吸もままらなかった


「どうした坊主? 友達が溺れ死んでしまうぞ??」


「………」


ホームレスは庄司に催促したが 庄司は動揺したり身体が震えてはいるが

助けにいこうとはしなかった


「………」


雉月は察した


「流れがあるにつぎ 人を担いでここまで帰れるかわからない そうだよな??」


「!?」


庄司は図星を突かれたかのように 雉月を驚くような目で見た


「命を掛けてまで助ける共では無いということか……」 


ホームレスは呆れて段ボールの家に帰って行った

その時だった


「お前!!」


古谷を見てるしかなかった庄司の視界に 川に飛び込む雉月がいた


「…… 何やってんだ あいつは!!」


ホームレスも引き返し 川の方に駆けだした


「ぶはぁ!! はぁ… 今助ける」


溺れる寸前の古谷を抱きかかえ

必死に陸を目指して泳ごうとするが


ーーなんだこれ… 全然進まねぇ


片腕で必死に漕ぐが前に進まない それどころかどんどん沈んでいく

戦時中になんども悟った死を感じたその瞬間だった


ーー…………!?


顔が水中から顔を出し 気づけば橋の真下まで身体が上がってきていた


「これは……」


気絶した古谷を担いでいた雉月は 咄嗟に下を見た

そこには驚愕した顔を見せている庄司が小さく見えた


「ば……… ばば 化け物……」


庄司の目の前には 体長10m程ある巨体の怪物が橋の下の川に

突如出現した


「おっさん…… あんた」


〝…………〟


顔が虎 胴体が猿 尻尾に蛇

獣が合体したような姿をした怪物はそっと雉月を河原に落とした

そして虎のような顔は庄司に向けれられる


「ひ…… ゆ… 許してぇ…」


〝オマエサンハ…  ナカマニ テヲダシタ  ユルスワケナイ〟


人の形をしていたころの口調は無く 雉月にも微かな恐怖を感じる


〝イタイメ ミロ〟


化け物は並ぶ鋭い牙を見せ 庄司目掛けて一直線に突進していく


「おっさん! 駄目だ!!」 


まだ呼吸も上手く出来なかったが 何かが駄目になってしまうと直感した雉月は

無意識に走り出した

そして怪物と庄司が接触する寸止めで庄司の身体を川に押し投げた


〝!!?〟


怪物は瞬時に口を閉じたが 鋭い牙が雉月の脇腹を掠めた


「うぅ…!!」


雉月は血を流し その場に倒れた


〝オマエ…… ナゼ?〟


「あ~ぁ…… 今日は脇腹がついてねぇ…」


〝………〟


雉月は死にそうな顔で笑顔を見せた


「【さるとらへび】 死んだと聞いていたがな

32分の1って言っていたけど変わってねぇじゃん」


〝………〟


さるとらへびの体は縮み 変化する前のホームレスのおっさんに戻った


「ありゃぁ嘘じゃ 悪かったな…」


「服着ろおっさん 巨大化したからまっ裸だぞ」


「わしは分裂した子孫なんかでは無い

わしこそが約千年前からおる さるとらへびなんじゃ」


さるとらへびがその場に立ち座りし 雉月の肩を弱弱しく掴んだ


「なぜ なぜなんじゃ! なぜあんな人間を庇う 雉月!」


「………」


「わしは千年以上見ていたが 外見ばかり進化していき

人間の心内はどんどん汚れていった こんな種族助ける価値があるのか!?」



さるとらへびの真剣な目に対し 雉月は笑顔で答える


「人間も妖怪もねぇよ お互い同じ言葉を話せる仲間じゃねぇか

俺はそう思うよ」



雉月は血が流れる脇腹を抱えながら 辛くも笑う





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