一話 金が無い日は伸びたカップ麺の方が好ましい
平日 朝起きて二度寝が出来る喜び
洗面台に立ち 顔を洗う
ベットに戻り 新連載の漫画のセリフを叫ぶ
「あ~~ 腹減った……」
買い出しへとコンビニ向かい アパートの自分家の前で鍵を開けたとき
俺は再確認した
ーーあぁ… 俺会社クビになったんだ
俺は悪くない って言ってもクビになったんだから世間はそれを信じる
ましてや近場の中小企業のビルに勤めていたから
近所の奴等はすぐに耳に入る
俺のお人好しがそうさせたのか 余計な事をしなければ
雉月はため息を付きながら 開けたドアを閉め
近くの公園へと重い足を運んだ
岐阜の都会にある 小さな公園
【大さん公園】は雉月がよく行く公園だ
特別な遊び場は無く ベンチと花壇しかないしけた公園だが
雉月にとっては落ち着く場所らしい
「は~~~~~~…」
ーー来る途中も婆ぁ共の陰口が酷かった…
あれで陰口のつもりなのかねぇ 漫画の方がまだ隠せるぞ
買った牛乳を飲むながら
まるでホームレスのようにジャージで空を眺めていた
「目玉でも喰いそびれたか??」
ケラケラ笑う ボロボロの服を着た老人が雉月に近づいてきた
「んだよ おっさん! いちいち話しかけてくんな!!」
「ニートになっても口は変わらんようだの お前もこっちの生き方を覚えるか?」
ケラケラ笑う老人は捨て台詞のように その場からすぐにいなくなった
「ちっ……!!」
雉月は再び空を只眺める
ちなみにあの老人は妖怪だ と言っても昔からの人間との配合を続け
32分の1以下しか妖怪の血は混じっていないから ほぼ人間と変わらんだろう
妖怪も有名じゃなかったらしいし バレたところで信じる奴はまずいない
「名前何つったけな? 猿… 虎… 蛇?」
雉月が考え事をしていると 急に前からジュースの缶が飛んできた
「痛っ!!」
雉月は咄嗟に額に手を当て 顔を下げた
ゆっくり上げるとそこには近所で有名の不良たちがニヤニヤと立っていた
「おい不良ニート!! 何真昼間からベンチで寝てんだよ!!」
「………」
ちなみ なぜ〝不良ニート〟と呼ばれてるかと言うと
髪が赤いからだ 目の色はさすがに怖がられるのでカラコン着用している
「なんとか言え!! この社会のクズ!!」
「……」
雉月は黙りこくるも 次第に口が開く
「お前等 学校はどうした?」
「あぁ!?」
「行ってないのか??」
雉月は不良共に指を指して言った
「じゃあお前等は未来のゴミ屑だな」
それを聞いた不良達は 黙っていなかった
数時間後 人気のない近くの林の中で雉月は体中痣だらけで倒れていた
「いって~~~~~……」
雉月はそのまま起き上がることをせず しばらく仰向けのままでいた
「何やってんだろう… 俺 妖怪なのに」
妖怪の血が半分流れていることを知ったとき 俺はもちろん
子供のような考えをいくつもした
特殊な仕事をする 人間の法律を無視してやりたいことをする
スーパーヒーローになる
だが人間の世界はそう甘くは無い
昔と違って便利かつ息苦しい物がたくさん生み出されている
人間と同じ 少しでも犯罪まがいな事をしたらすぐ捕まるだろう
なにより 人間として子供から育ってきたんだ
学校に行き 普通の会社を転々としながら約40年
(戦時中はほとんど身を隠しながら 食べ物盗んで生きてきた)
二十歳のころから外見が変わらないから 数年で辞めないと嫌でも怪しまれる
「今思えば 人間側の生活をしていたんだ…… 今まで…
どっちかっていうと超能力者の生き方だな 人間の世界で言うと」
雉月が一人で納得し 頷いていると
林の奥から人影が現れた
「陽奈?! な~にやってんだこんな所で~」
「ナマズのおっさん!」
「家に行ったらいねんだども~ 夕暮れ時に心配だから探したんだべ~」
ちなみにこのおっさんも妖怪だ
先祖が岩魚坊主って言う岐阜の妖怪らしい
幼少期は秋田で育ったらしいから 話し方に東北の方言が混じってる
「ほら! 肩貸してやるから… ったくなんでこんなボロボロなんだ」
雉月は岩魚坊主の妖怪に引きずられて とある店で休ませてもらった
「喧嘩弱いクセして何やっとんのだか…」
「別にいいだろ… おっさん飯!!」
「岩名さんと呼べ! 金はあるのか??」
あきれる岩名に 雉月はふて腐れながらもテーブルに小銭を出した
「クビになってまだ数カ月だぞ! 貯金はまだあるよ!」
「……… はぁ~」
岩名は厨房に行き バランスの整った定食を運んできた
「おい! こんなにいらねぇよ! 塩焼きだけいいって…」
「いいから食え! 代金もいらねぇ つけといてやる」
「………」
腹が鳴る雉月は 何食わぬ顔で箸を取った
「おめぇさん これからどうするんだい?」
「どうするって… 明日ハローワークに行って来るよ」
「そろそろ… 夢叶える頃じゃねーのかい?」
「…?」
「 〝全国の影で暮らす妖怪を見つける〟
そして〝人間との真の共存〟
それがお前さんの目標じゃ無かったのかい? 」
「……」
腹ペコで止まらなかった箸をテーブルに置き
雉月は店を出ようとした
「陽奈!!」
「……… もう何年も前の話だよ」
「………」
ぼそっと呟いた雉月の言葉を岩名は聞き逃さなかった
「人間なら中学生から成人になる数だ いい加減大人になるよ
どこにそんな余裕がある……
自分のことで忙しいんだよ……」
「………」
岩名は雉月の頭にそっと手を置いた
「お前さんもまだまだ青いな」
笑顔を見せる岩名に雉月は黙った
「お前は人間と妖怪を比較している」
「………」
「人間で言うと中坊ってとこだな 俺の方がまだ人間と仲良く出来るぞ」
岩名は二人しかいない店で大声で笑った
「何も考えることはない 例えばだ 四十のおっさんも五十のおっさんも
お前等からしたら変わらんだろう?」
「あぁ…」
「だが 相手からしたら十年も生きてたことになる 違うか?」
「そうだな…」
「自分のことを考えるのも大切だが 相手と仲良くしたいなら
相手のことをもっと理解しなければならない これ定食屋してて身に付いた事」
「だから俺はもう……」
「俺は最初お前がそう言ったとき 嬉しかったぞ」
「!!」
「人間同士信頼が薄まって行く世の中だが
妖怪はネットワークすらなく日本の中だけでいくつもの国が出来ている状態だ
不思議とここは人間と同じ真理なんだろう 〝他人と関わるのは難しい〟
国から離れることも無いから社交性もクソもないだろう」
「………」
「そんな中 お前は沖縄から出てきてこの岐阜にやってきた
住みかから出てきて 人間社会で生きていけている数少ない一匹だ」
「別に… 珍しくもねぇよ」
「あるだろ! 人の姿した妖怪でも ここまで人間界に溶け込んでる奴はいない
これ 褒め言葉だぞ?」
「………」
「お前はまだ若いんだ やってみるから始めていいんじゃないか?
丁度無職だし」
「無職は余計だ!!」
雉月は店の引き戸を思いっきり締め 出て行った
「人間と妖怪の共存か……
少なからず 〝醜き心と醜き形〟 がぶつかる日は避けられんぞ… 陽奈」