9話 下ネタのエリー
雷刃戦の翌日。
常人を遥かに超えた身体能力を駆使した結果、俺は全身筋肉痛状態に陥っていた。もっとも、疲労骨折まで悪化していないだけマシなのかもしれない。
ベッドから起き上がることもままならない状態で、食事を運んでくれたエリーに言う。
「俺の戦い方って長期戦になったら無理だよな」
「そうね。戦闘の途中で気絶する根性ナシだものね」
「それは根性の問題なのか?」
「もしくは性癖の問題ね」
「は?」
「苦痛を快楽に感じるくらいのMっ気がないから、すぐ気絶するのよ」
「どんな勇者だよ、それは」
「ふっ。わたしなんて、なかなかのドMよ」
「特に知りたくもない情報だな」
エリーが得意の下ネタに話を振り始めたから、話題の転換を試みる。
「聖剣エクスカリバーはあの後、どこに?」
「エクスカリバーがどこかって?まったくよく言うわよ。自分で持ってるくせに」
「??」
「エリシャが今朝あんたを起こしたあとで言ってたわよ。
『ゴダイメが股間にエクスカリバーを隠してた』って。
まったく、清純な少女にナニを見せつけたんだか」
「ウソを言うな!」
「『エリシャ、見てくれ、これが五代目勇者の聖剣だよ』
『やだ!そんなの見せないで!』
『ほら、スゴイだろ?まだまだおっきくなるんだぜ』
『あ……す・ご・い』」
「やめいっっ!!」
エリーのひとり芝居に大声でツッコム。身体が動いたら、思いっきり引っ叩きたかった。
「チロウと出会って数日だけど、印象は悪くなるばかりよ。ロリコンで巨根の露出狂勇者なんて前代未聞よ」
「その大半は捏造だっ!」
「まったく、戦闘報告書を作る身にもなって欲しいわ」
「戦闘報告書に性癖の欄はないだろーが。戦闘途中で少女に欲情したわけじゃあるまいし、って俺はロリコンじゃねー!」
「……あくまでもシラをきるつもりね。すでに証拠はあがってるのよ!」
エリーがバッと俺に一冊の本を見せ付ける。
そ、それは―――
「あんたが服に隠して所持していたエロ本よ」
オールランド国第二王子ルイーズからもらったエロ本がエリーの手にあった。
「さあ、チロウ。この本のタイトルを読みあげなさい」
「それはちょっと……」
「わたしが代わりに読んであげようかしら。
『貧乳パラダイス ~ちっちゃくたって敏感なんだゾ~』
このロリコン野郎!」
「ご、誤解だ!俺はロリコンじゃない!貧乳とロリは以って非なるものだ!」
「ほう。詳しい説明が欲しいわね」
「豊満なバストはモチロン素晴らしい。しかし、控えめなバストも時にまた男心をくすぐることがある。肉が牛も豚も鳥も美味しいように、胸だって様々なサイズを愛せるわけで。貧乳イコール少女趣味ってわけでは断じてないわけで」
「……女の子におっぱいについて力説するなんてキモイ」
「おまえが言わせたんだろ!!」
たしかに俺も一所懸命なにを語ってんだと思ったさ。
「報告書に追加しなくちゃね。五代目勇者は好色で、おっぱいなら老若男女かまわず好き、と」
「それだと男も含まれてるっっ!」
「もはや男でもイケる口でしょ?」
「イケるか!!」
カンカンカンカンッ!
突如、警笛が鳴り響いた。
俺たちの漫才の終了音では決してない。
この警笛は刃発生の避難勧告だ。
音に反応してエリーが素早く窓を開け放つ。先程までとは表情が一変している。
「ここからじゃ見えないわね」
エリーは躊躇なく、窓を飛び越して外へ出た。
「行くわね。チロウは動けないから、ここで待機していなさい」
と、言い残して駆けて行った。
二日続けての刃発生。長期戦だけでなく、こういった事態に対しても俺は完全に無力だった。エリーひとりで大丈夫なのだろうか?
彼女が開けた窓から見える空には真昼の月が見えた。
ここは異世界だから月ではないだろう。
俺は、その星を眺めながら思った。
エリーは俺がこの世界に転移するまで、どう戦ってきたのだろうか、と。




