8話 変わらぬ日常のために
聖剣エクスカリバーは刀身が折れ曲がってしまった。
呆然とする俺にルイーズ王子は、
「五代目!私は逃げるぞ!」
と、さっさと馬に指示を出して逃げ出す。
あの野郎っ!
クズ王子がガラクタ剣渡しやがって!
俺はヤククソにエクスカリバーを雷刃に投げつける。
折れ曲がった聖剣はブーメランのように回転して、雷刃の球体のなかに飲み込まれた。
もちろんダメージは与えていないだろう。
「チロウ!あんたコントやりに来たの?」
必死の表情で魔法のバリアーを張りながら、エリーが俺に言う。
とりあえず聖剣のくだりはなかったことにしたい俺は、
「ま、予想の範囲内だったな。そろそろ本気だすか」
と、うそぶいてみた。
エリシャに「ゴダイメ、格好悪い」と言われた気がするが、気にしないでおこう。
さてと、どうしたものかな?
雷刃から放たれる稲妻から身をかわしながら状況を整理する。
エリーはエリシャを含めた子供たちを守るのに手一杯みたいだ。
俺は武器を失ってしまった。
異世界転移時に強化されたパラメーターによって、雷を避けることは苦ではない。もっとも、HPが1しかないため一撃食らえばお陀仏だ。
上空の青紫色した雷刃を睨みながら、エリーに言う。
「刃ってのは、急に発生するんだから、急におさまったりもするのか?」
「その可能性はあるわ。けど、そんなの時間が読めない。わたしだって、この魔法で耐える限界があるわ」
エリーが両手を掲げて作り続けているバリア-に降る雷撃はおさまるどころか激しさを増しているように見える。
エリーは攻撃に転じる機会がない。
やはり攻撃は俺が担当するしかないが、相手は雷のかたまりだ。
触れたら数億ボルトの電流が流れてジ・エンド。
結局、触れることができない敵に対して攻撃する方法はひとつしかないと結論が出る。
上空の雷刃の直径は10メートル位と目測して、俺はあたりを見回す。
刃にダメージを与えるには、コアと呼ばれる部位を攻めなくてはならない。雷刃のコアはあの球体のどこかにある。
いま、この場所が山であることが唯一の救いだった。
なにせ、デカい岩がゴロゴロ落ちている。
俺は、直径7メートル大の岩を力任せにぶん投げた。
岩は雷刃に見事命中する。
雷刃には機動力がないみたいだ。
石を投げるという古典的作戦にエリーが飽きれ声を出す。
「あんたって、子供みたいな発想するわね」
「しゃーねーだろ。これしか手がないんだから」
「まあねぇ……」
「ほれ、意外と効果があったみたいだぞ」
さっきまで散々降っていた雷撃がおさまった。
俺は調子に乗って、岩を何発も雷刃に浴びせる。
やがて、雷刃は完全に沈黙した。
「倒したのか?」
「いいえ、まだよ。岩じゃ、どんなにぶつけてもコアを砕けないわ」
「まいったな」
トドメをさす攻撃方法を俺が考えていると、
「チロウ、こっちに来て」
「なんだ?」
「今から子供たちのバリアーを解いて、チロウだけに個人的なバリアーをつけるわ。数秒間は雷の中でも無事になるから、雷刃に突っ込んでコアを破壊して」
いま雷刃は沈黙している。
いつ活動を再開するかはわからないが、チャンスではある。
提案を受けると、エリーは掲げていた両手を下げて、そのまま俺に向かってかざす。
「精霊の加護を与えん」
俺の周りを淡い光が包む。
それを確認するや、俺は大地を蹴った。
時間は限られている。躊躇する暇はない。
雷刃の数億ボルトの渦の中に飛び込む。
大丈夫だ。電流は感じない。
目を凝らす。
コアはどこだ?
青白い電気の奔流。
その中で―――
見えた!
異質な赤い光点がある。
あれがコアか!
ダメだ!手が届かない!
くそ!!
歯噛みする俺の手が何かに触れる。
それは、エクスカリバーの柄。
雷刃に投げつけた聖剣の柄。
折れた刀身は高電流に揉まれた結果なのかすでに無い。
俺は無意識にその柄を握り締めた。
その時、失った刀身の代わりに新たな漆黒の刀身が生まれた。
なんでもいいから、武器になってくれ!
「うおおおおッッ!!」
雷刃のコアに届けッッ!!
俺は聖剣を振り降ろした。
* * *
「ゴダイメ!起っきろーー!!」
エリシャが寝ている俺に乗っかって暴れている。
ああ、また意識を失ったのか。
戦うたびに気を失うのはなんとかしたいもんだ。
エリシャが元気に跳ね回っているところを見ると、雷刃のコアを破壊することに成功したのだろう。
「朝だよ!朝なんだよーー!」
騒がしいエリシャを跳ね除ける力は残念ながらない。
体中が筋肉痛だ。
まぁ、いいか。
また元気なエリシャに会うことができたのだから。
「ゴダイメ、起きた?」
「…………」
彼女へのせめてもの抵抗に寝たふりをする。
するとエリシャは、
「…………助けてくれたお礼だよ」
と、俺の頬にキスをした。
まったく、マセたガキだね。ホント。




