13話 対刃戦魔法隊の崩壊
気絶から目覚めたころには、軍事演習は終盤にさしかかっていた。
いまだにズキズキとする頭を撫でながら、俺は横にいるエリーに声を掛けた。
「どんな感じ?」
「あ。ようやく起きたの?あんた、ずっと寝ちゃって何しにきたのよ」
「好きで寝ていたわけではないんだが……」
「あとは模擬演習を残すのみよ」
「へぇ」
闘技場の観客席に俺たちは並んで座っている。後方を振り返ると、VIP席に座るルイーズの姿。そのまわりには政治家っぽいおっさん達。なるほど、あんな変態でも王子様だもんな。
闘技場では、一段高くなった台の上で颯爽と指揮するミヒャイと、その意に忠実で精密に動く魔法隊がいた。
全身を黒のローブで覆い、顔には白い仮面をした二十名ばかりの集団。
「以前も見たけど、気持ち悪い集団だな」
「あれはあれで意味があるのよ。魔法の発動には精神統一が絶対条件。それをチーム単位で行うには無個性であることが求められるわ。たとえば、人間なら誰でもウマが合わない人っているでしょ?その人と力を合わせようとするのと親友とのそれじゃメンタルに差が生じてしまう。魔法はそんな小さい誤差で精度が変わってしまうの。だから魔法隊のチームは個性を排除する」
「へぇ。けど、隊長のミヒャイはバリバリ個性的な格好だぞ」
「魔法隊の面々は自分が無個性に徹する代わりに、自分たちを指揮する人にはその真逆のカリスマ性を求めるわ。まぁ、命令されるならブサイクよりも美人にされたいでしょ?」
「そう言われると、とたんにドMの集団に見えてきたな」
対刃戦魔法隊による光線のような攻撃魔法が連続で飛びゆく。
その魔法は先日、獣刃相手に見たものだ。
「あれって、どのくらいの攻撃力なんだ?」
「そうね、ウルトラ警備隊のウルトラホーク1号が放つレーザーぐらいの威力はあるわね」
「うん。まったくわからないな」
「当たり所がよければ、刃相手に致命傷を与えられるかもしれない。可能性は低いけど」
「ふ~ん。なぁ、気になったんだが、あいつらって魔法使うときに無言だよな。呪文詠唱とか魔法名叫ぶとかいらないのか?」
エリーが魔法を使うときはいつも何らかの言葉を発していたので疑問に思う。
「魔法は精神統一で使うものだから、言葉に意味はないわ」
「じゃあ、エリーはなんで魔法名言ったりするんだ?」
「わたしがテンションをあげるためよ」
「は?格好つけたいだけなの?」
「格好つけることを馬鹿にしないで欲しいわね。そうすることで気持ちが高ぶるし、精神も統一されるから魔法の精度が上がるのよ」
「なら、あいつらも叫べばいいじゃんか?」
「だから無個性じゃなきゃいけないって言ったでしょ。横の奴の声がでかいなとか、あいつ何でソプラノ声なんだよとか、気になっちゃうじゃないの」
「ずいぶんとナイーブなんだな、魔法って」
もし攻撃力でなく魔力に能力値を与えていたら、俺も自作のテンションがあがる言葉を叫んでいたのか……
そうならずにすんで良かったと安堵していると、
―――ゆらり
突如、透明なベールで隔てられた。
俺たち客席と魔法隊のいる闘技場の途中でゆらめく透明な壁。
それは常人では気づかないくらいの差異。実際、俺とエリー以外は誰も気づいていないようだ。
「エリー!」
「刃!?」
戸惑う俺たちをよそに、順調に進行していた軍事演習の様相が変化し始める。
一糸乱れなかった魔法隊の動きが途端に崩れだし―――
互いに魔法を打ち合い始めた。
「仲間割れ!?」
「違うわ。きっと精神タイプの刃の仕業よ!」
「精神タイプだって!?」
いままで遭遇した自然タイプ、生物タイプのほかに精神タイプまであるのか。バリエーション豊富でやっかいだな刃って奴は。
どうやら異変は透明なベールで包まれた闘技場内にいる者たちだけに起こっているみたいだ。観客席側に混乱はない。
「刃がかく乱を起こしているのか?」
「わからない。精神タイプの刃がいると聞いたことがあるだけだから、目にするのは初めて。けど……」
エリーはスクッと立ち上がる。
「行くわ」
「行くって、敵がどこにいるかも、糸口も見えてないのにか?」
彼女の腕を掴む。
エリーは傷だって完治していないのだ。左目には眼帯をしたままだ。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、よ」
「それを無謀と言ってんだよ!」
「じゃあ、黙って見ていろって言うの?」
闘技場はすでに仲間同士で殺しあう地獄絵図と化している。
「手を離して!」
「…………」
「あなたに一緒に来いとは言わない。だから、わたしを止めないで」
「…………」
エリーのまっすぐな瞳に諭されて、俺は手を離した。
そして彼女は無策のまま、戦場へと向かって行った。
俺は彼女と同じようには出来ない。
防御力と体力が違う。
一発でも攻撃を食らえば終了なのだ。
冷静になれ。
飛び交う魔法
傷ついていく人々
必死に状況を把握しようとしているミヒャイ
敢然と危険に立ち向かうエリー
ダメだ。
冷静になんてなれない。
いま目の前で人が死んでいる。
俺には力があるのか?
彼らを救う力があるのか?
俺の苦悩が、
そのとき、
かたちを成す―――!!
気づけば、右手に剣を持っていた。
刀身が黒い光で輝く剣。
聖剣エクスカリバー。
雷刃戦で失ったと思っていた聖剣が、俺の手の中に戻ってきた。
このタイミングで聖剣を手にしたら、勇者たる者がすべき行動はひとつしかない。
奥歯を噛みしめる。
よし!
出たとこ勝負だっっ!!
俺は戦場に向かって、強く足を踏み込んだ。




