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11話 対刃戦魔法隊隊長 ミヒャイ


 オールランド国でいま評判の麺屋『いっとう庵』にて、俺はルイーズ王子と時間を潰していた。

 獣刃じゅうじんの発生から一週間が過ぎ、すでに俺の体調も回復している。


「それにしても、俺の立ち位置って宙ぶらりんだよな」


 そばとラーメンとパスタを足して3で割ったような新食感の麺をすすりながら、俺はぼやく。


「父は満足に動けず、兄も海外遠征から帰ってこない。私はたいした権限をもってない……」


 ルイーズの父親オールランド国王は、先日から体調を崩して公の場に姿を現していない。

 俺はこの国での所属先が決まらぬままだった。


「エリーは軍隊所属なんだろ?」

「勇者は特殊部隊さ。単独行動で、指揮系統も国王直属だ」

「国王以外の命令には従わなくていいのか?」

「一応そうなってはいるけど、実質は軍全体の意見に従う方針を四代目はとっている」

「いまも軍の会議に出席してるもんな」


 彼女は戦闘の傷も癒えていないのに、ランズブール城で会議中だ。


対刃戦たいじんせん魔法隊が半年ぶりに国内に帰還したから、今後の方針を軍で決めているのだろう。先日の獣刃戦は魔法隊にとってはいいアピールだったしな」

「勇者と魔法隊はうまくいってないのか?」

「魔法隊の隊長が勇者を毛嫌いしてるからなぁ」


 白面を付けた魔法使いの集団と、それを指揮していた金髪の女が思い浮かぶ。

 敵は同じでも味方とは限らないのか。


「いらっしゃーい!」


 『いっとう庵』店主の威勢のいい声に反応すると、入店するエリーの姿があった。どうやら会議が終わったみたいだ。

 常人に比べて異常なまでの回復力で、獣刃に負わされた傷は一部を除いて癒えている。それでも左目には眼帯が巻かれており、痛々しい姿に変わりはない。

 彼女は無言で席に深々と腰を沈めた。その顔色を見る限り、楽しい会議ではなかったのだろう。


「……ずいぶんと嫌味を言われたわ」

「ミヒャイに厳しく責められたみたいだね」


 嘆息するエリーに対してルイーズが言う。


「五代目はまだ会ってないけど、このミヒャイってのが魔法隊の隊長でね。四代目とは犬猿の仲」

「わたしは目の敵にされてる感じね」

「ミヒャイは自分がいない間に五代目を召喚したことを許さないだろうしね」

「まさにそれよ。会議で散々追求されたわ」

「あの子は根っからのS嬢だからねぇ。俺なんて目が合うだけで、ゾクゾクするよ」


 ルイーズが変態意見を言うと、それに対して鋭い言葉が飛んできた。


「それは聞き捨てならないわね」


 『いっとう庵』の入口にブロンドヘアーの女がいる。


「おっと、いらっしゃーい!」


 店主の声をよそに、ツカツカとこちらに歩いてくる彼女。

 金髪に細面、澄んだブルーの瞳は切れ長で、気の強さが前面に現れている。服装は露出が激しく、ミニスカートからまっすぐな脚を見せつけているが、いやらしさはなくて颯爽としたモデルみたいだ。


「お久しぶりですわ、ルイーズ王子。相変わらずのアホ面ですこと」

「ミヒャイはドSっぷりがさらにあがったんじゃないかい?」


 パシンッ


 と、冗談を言うルイーズの頬をはたくミヒャイ。


「そんなことばかり言ってると、ひっぱたくわよ」

「はたいてから言うセリフじゃないぞ、それ」


 仮にもオールランド国の王子にあたるルイーズをアホ面呼ばわりして、さらにビンタする彼女が対刃戦魔法隊隊長ミヒャイみたいだ。

 ミヒャイは俺の方を見ると、


「あなたが五代目勇者ね」

「はぁ、そうですけど」

「まぬけな顔してるわね」


 初対面の人間にひどいことを言う。


「四代目よりは役に立っているそうじゃない。どっかの四代目さんは一体も刃を倒せなかったからね」


 俺の横にエリーがいるのを知っているのに嫌味を言うミヒャイ。エリーはうつむいて黙っている。

 この二人はホントに仲が悪いんだな。


「そういえば、名前を聞いてなかったわ。なんて言うのかしら、五代目は?」

「…………チロウ」


 どうせ馬鹿にされるんだろうなと思いながら答える。


「チロウ、チロ……え!?」


 俺の名前を呟いたミヒャイが顔を赤らめる。


「あ、あなた!なんて破廉恥な名前なの!」

「悪かったな!」


 口元を押さえて、ミヒャイは自分が口にした言葉を恥ずかしんでいる。

 意外な反応をするなと思っていると、ルイーズが俺の耳元で囁く。


「ミヒャイはこんなに露出した服着たドSキャラのくせに超純情なんだぜ。面白いだろ」


 ミヒャイは目をウロウロさせて、


「ご、五代目は、わたしの想像を超えた、へ、変態のようですわね」

「どこを見てんだよ」

「あなたのような卑猥な人を見ていられませんわ!」


 裸でいるわけでもないのに、ひどい言われようだな。

 呆れる俺にルイーズが言う。


「ミヒャイにギャップ萌えするだろ?さらに教えてやるとな。こんなスレンダーでナイスバディなのに“ドテ高”ぐはっっ!」


 ミヒャイのひざ蹴りがルイーズの顔面に炸裂した。

 女子に“ドテ高”とか言っちゃダメだろ、そりゃ。


「クズ!ゴミ!ヘンタイ!死ね!」


 倒れたルイーズの顔面を踏みつけてののしるミヒャイ。

 俺はエリーと顔を見合わせる。


「この世界って変な奴ばっかなのか?」

「この二人が特別なのよ」


 ぜいぜいと息をきらせて、ミヒャイが俺に言う。


「明後日、対刃戦魔法隊の軍事演習があるから、五代目とルイーズ王子も見に来なさい。今日はそれを言いにきたのよ」


 いまだに踏みつけられているルイーズを見ると、


「五代目、ミヒャイのパンツはピンクだぜ」


 バチンッ!


 王子のいらない報告によってビンタされたのは俺だった。

 きっと明後日の軍事演習もロクなことにならないだろうと想像がつく。


 しかし、まさかその日が対刃戦魔法隊の最後の日になるとは、俺たちの誰も思っていなかった。



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