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過去・現在・未来

作者: 秋扇

 昨日の私にさようなら、今日の私よろしくね、明日の私こんにちわ。

 過去、現在、未来。すべての場所に私が居て、すべての場所で私は私に出会う。


 目の前が真っ白になった。一瞬の出来事で何が起きたかなんて理解出来なかった。それは過去の私には予測出来ない事で、現在の私には既に起こった事で、未来の私は記憶を失っていた。私は土手の上で車と接触して草原の上に倒れていたと後に聞かされ、実感の湧かないまま過去の傷を癒している。

 退院をすると、更に困った事が起きた。家族との対面だ。記憶を失ったらしい私には見ず知らずの他人と初めて出会った事と何ら変わりはないのだ。しかし、記憶を失った私は過去の私に出会えない。その為、希薄な家族関係を捏造する。過去の私とはもう会えない。

 数ヶ月を家族と過ごした私は一般的な常識というヤツを徹底的に覚えた。私の過去は無くて、記憶の空きは十八年分余っていたのですんなりと覚えられた。

 その日、私は過去の私の家族と別れた。

 その後一年程。一人暮らしを嗜んでみると以外にも人は一人で生きてはいけないという事を学んだ。どうしても、他人との干渉が強くなり、従って友人、知人、恋人。そういったものが出てくる。

 特に恋人は様々な形で強く干渉してきた。

「加夜さん。体の調子はどう?」

「別に問題はないけれど」

 彼は年下で、出会いは非常に珍しかったはずだ。なぜなら、彼とは病院で出会ったから。

 聞く所に寄ると彼も交通事故に遭い、一時的ではあるが記憶喪失に陥ったそうだ。それで、完全に記憶障害を起こしている私に好意と親しみを覚え声をかけたらしかった。

 彼は私の身体を酷く心配する。私は記憶障害を患ってから殆ど感情を表に出さなくなった。それが災いしてか体の不調というものが傍目には分かり難いらしく周りからは二言目には身体の心配をされる様になった。前に一度突然倒れて周りに迷惑をかけてしまった事があるので仕方ないが。

「加夜さんは僕が守ってあげるからね」

「えぇ、頼りにしてるわ」

 不意に口元が綻んでいるのを感じた。

 彼と付き合う様になってから随分と感情を操れる様になったと思う。今はまだそれは普通の人から見ればぎこちないだろうが、私は彼を通して過去の私に戻っていく。

 私一人では過去に戻れないけれど彼に支えられて私は過去に戻っていく。


 私は彼の肩を借りて過去、現在、未来。すべての私に出会う。そうすればきっとこの後の過去、現在、未来は幸せになれるだろう。

 未来の私、今は少し待っててね。現在の私、頑張って。過去の私、今行くよ。

 さぁ、幸せになってみようか

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しい話なのかもしれないけれど、加夜さんの前向きな態度に安心した。掌握小説楽しませてもらいました。
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