ガダルカナルに想いを馳せて
夏の夜。〇×高校の片隅に、二人の生徒がいた。
女子生徒の名は三珠清子。男子生徒の名は勝浦道治。
「ここはさぁ、名門校だから戦前からあるらしいよ。戦争の時には負傷者がたくさん運び込まれたんだって」
道治が恐ろしげな顔をして清子に言った。
「そっか……痛かっただろうな」
清子は顔をくもらせる。
「で。肝試し、続ける?」
「……うん」
清子は正門から学校の中を見やった。
古びた学校の建物は、今日は一段と人気無く茫洋と立ちすくんでいるように見えた。
懐中電灯も無い二人は、門をよじ登って越える。
「さて、何か話をしながら行こうか。うんと恐い話ね」と道治。
「分かった……」
すこし怖気づいた様子の清子が話しだした。
「じゃ、わたしから。ええと……」
清子がふと思いにふける。思いついたとき、彼女は別人のような顔つきになっていた。
「ガダルカナル戦のことを話そうか」
「何? 今なんて」
「ガダルカナル戦」
それは、清子の声ではなかった。成人した男性の落ち着いた声だ。
「あれはひどかった。ジャングルがそこらじゅうにあってね。敵も味方も分かったものじゃない。補給部隊が来られないからすぐに食糧難になってしまったんだ」
「清子……?」
「今は三珠清だ。話を続けてもいいかい」
清子がふざけているのか、本気なのか道治には分からなかったようだ。
とりあえず話を聞くことにした道治は「どうぞ」と怪訝な顔をして言った。
「食べるものが何も無い戦場ほどひどいものはない。ついに人が人を食うくじ引きが始まってしまったんだ」
「人が、人を食う?」
「そうだよ。戦争のないときなら信じられないだろう」
「それで?」
「当たってしまった僕は食われる前に逃げ出したんだ。敵前逃亡だから、銃殺されるか敵に殺されるか、ひもじい思いをしてジャングルで死ぬかのどれかになってしまうのだけどね」
「ふうん」
「僕は病気になった。三日三晩熱が出て、そのまま死んでしまったんだ」
「え……?」
「心残りは家族のことだったんだ。今、とりあえず不幸ではない孫の姿が見られて安心したよ」
清子、いや、清子の親族らしき男は微笑んだ。
「それでは、いつでも君たちを見守っているよ。さようなら」
「清子……? 清子!」
道治は清子の肩を揺さぶった。
「あれ? 道治くん」
「帰ろう」
「え? 始まったばかりじゃないの?」
「帰ろう!」
道治は強く言い、清子の手を引っ張った。その顔は蒼白だった。
門を乗り越え、外に出ると道治は清子に言った。
「俺さ。さっき、清子のおじいさんに会ったかもしれない。これから話すことは、信じられないかもしれないけれど……」
二人の帰宅まで話は続くようだった。
本作品を書くまでは、ガダルカナル戦というもの自体を知りませんでした。ふと思いつき、言葉の紡がれるままに書いた作品です。どこから湧いてきた知識なのだろうと思うと、それがホラーだったりします^^;