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英雄の孫 13話

13話


 結局、洗いざらいを話すことになった。

 三人の素性から、村で何が起こったのか、マコトのことから、謎の少女サクラのことまで。

 はぐらかそうともしたが、曖昧なことを言えばすぐに聞き返され、結局隠すことも出来なかった。


「国軍レベルの襲撃者ですか…」


「最初は本当に国軍が襲い掛かってきたのだと思っていました。そして今もその疑いは晴れていません」


「確かに、言い渋るのも仕方がありませんね。私があなたでも話さないでしょうね」


 四人は既に移動を始めていた。急ぎ足程度の速さで馬を駆る。


「私が知っている限り。というより、私が知らないということはこの地域で軍事行動を起こしている正規軍はいません。そもそもこの辺りに部隊を展開する理由がありません。山賊程度なら常駐部隊で十分です」


「先ほど話した、真っ黒な鎧を身にまとった集団については」


「それも、知りません。この国の軍隊にそのような兵装を配布されている部隊は存在しません。もっとも」


 息を一つ置いて。


「この国に特殊部隊でもあれば別ですが」


 夜はまだ明けない。月明かりで何とか視界は確保できるが、森の中などはほとんど見えない。


「それと、その少女。サクラ、と言いましたか」


 シズルの腰に回された腕に力がこもる。


「言葉も通じないというのは困りますね。異民族、というのはもはや存在しないはずですが。ふうむ」


 考え込むような仕草。


「今日はどこまで行くのですか。サクラは旅にも慣れていないので」


「夜が明けるまでは最低限駆けます。ララ=ズールまではだいぶあります。ララ=ズールに着けば海路で王都までは四日で着きますが、それまでは陸路を行くしかありませんから。少しきついでしょうが、我慢してもらいましょう」


 承服しかねる。そう言いたい所だが、一理ある。少なくとも今は追っ手が出ている公算が高い。それと距離を空けるのが最優先だ。

 後ろをちらと見る。サクラの黒い眼と合う。そのままサクラは首を横に振って、微笑む。


「心配しないで。大丈夫」


 そうとでも言っているのか。つらいはずだ。

 きっと前の暗闇を見つめる。こんなに涙もろかったかと、おかしくなる。


「シズル後ろッ!」


 エリスの声。振り向くと、そこには月明かりの夜。しかし、その奥からは馬蹄のかすかな確実な轟きが響いている。


「走りますよッ!」


 リン中佐が一気に馬足を早める。それに負けじと馬の脇を蹴り、駆ける。


「敵!?」


「味方なんて居ません。少なくとも私はそんな命令出してません」


「振り切るのは無理だッ!」


「知ってますよ。だから、こうします」


 ちょうど道幅が狭く曲がったところに差し掛かると、中佐が馬を急停止させる。


「何をッ!?」


「シズルさんは森の中に隠れてください。合図をしたら飛び出してください。迎え撃ちます。エリスさんはサクラさんを載せてそのまま道なりに進んでください。夜が明けても私たちが来なかったらそのままひたすら駆けてください」


「無茶です!」


 エリスの声。


「今しかないんですよ。あちらは『追う』側と考えています。『襲われる』危険は考えてないでしょう。馬蹄から数はそう多くないようですが、こちらの戦力は少ない。シズルさん、馬に枚を噛ませるのを忘れないでください」


「やるぞ、エリス」


「シズル!?」


「行けッ!」


 サクラをエリスの馬へ移し、すぐに走らせる。

 そして、手早く馬を森の中に隠し、結ぶ。鞄から枚を取り出し、それを首に結び噛ませる。

 中佐は西側に、こちらは東側の暗闇に隠れる。

 時期の割には寒い夜だ。風は無いのに、手が冷たく感じる。

 馬蹄の音は段々近づいてくる。少なくとも五騎はいる。もっと多いかもしれない。こちらの戦力は二人しかいない。どうするか。やはりあのまま逃げていた方が。いや、逃げ続けていても捕捉されていただろう。いかな名馬といえども、二人を乗せていれば足が鈍る。追う側は、追うために軽装であるはずだ。結局はその差で捕まっていただろう。

 向こう側から縄が投げられる。それを近くの木に弛まぬようにきつく結び付ける。単純な罠だが、この暗さだ。早々気づかないだろう。


 じっとりと手に汗をかく。

 逃げるには。

 殺すしかない。全員を。


 ふっ、と息を吐き出す。人を殺すのは初めてではない。勝手は分かる。

 躊躇わず。迷わず。

 考えない。


「『気』に重要なのは自分との関わり方だ。中へ、中へ入れば力は高まる。しかし、戦いの中でそんな真似はできない。それはそのまま隙になる。中間を目指せ。自分と他人の間、」



 黒い影が目の前を横切った。

 飛び出す。

 目の前で転倒している影に剣を突き刺す。大抵の鎧は首が無防備だ。首らしき、箇所に突き刺す。


 抜けない。抜けた。


 頬を槍の穂先が掠める。

 引き終わる前に、柄を。斬る。

 穂先の無い槍はただの棒だ。慌てる相手の、脇を下から振り上げる。

 人の、腕が。飛ぶ。


 轟音と熱。一瞬の光だったが、そこには知った顔。ゲイリー・リン。

 

 残るは二人。一人は馬上で、逃げかけ。

 無視だ。もう一人。

 でかい。高さも幅もある。

 上段。

 いなす。

 重い。

 二撃目。早い、下からの突き。狙いは、上。


 顔は。   死。


 峰で受ける。

 手放す。鞘を手に取る。相手の驚く顔。

 わき腹に振り上げる。

 音と感覚。鈍く痛い。

 生きてる。


 鼻に。

 ショウ、ゲキ。


 黒い世界。

 

 前だ。


 膝を着く大男が一人。

 生きてる。


 悪寒。

 

 暗闇に。敵が。

 弓矢。

 つがえた矢が。

 輝く

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