(後編)
シャンドラは――――大波にさらわれた!
「お嬢様ー!!」
フィリップは驚いて飛び上がった。もう少し早く決めていれば……シャンドラを救えなかったら自分のせいだ。
フィリップは上着を脱ぎ捨て、荒れ狂う海の中に飛び込んだ。
嫌な予感がする……
さっきの大波は―――あれは大波だったのか? せめてもっと視界がよければ……
最悪の視界の中、フィリップは目を凝らした。何かが目の前を塞いでいる。港にいるときは気がつかなかったが、大きな船がそこにあった。
見事に嵐の中に溶け込んでいる。こんなにも近くに来るまで気がつかなかったのも、この色のせいだ。
船は、濃い青色だった。
大型の貿易船が嵐で座礁してしまったのだろうか? それとも助けを求めに……?
それにしてもおかしい。なにかがおかしい。
苦しくなったフィリップは水面に顔を出した。
貿易船ではない。
ずらりと並ぶ大砲。大型の割りに喫水の浅い船。――――海賊船だ!!
フィリップは困惑した。なぜこんなにも港に近いところに海賊船が?まさか、シャンドラをさらいに……?
ありえなくもない話だ。シャンドラはほぼ毎日桟橋に腰を下ろしている。目をつけられてもおかしくない。
フィリップは悪態をついた。そして少し離れ、船の上が見えるような位置に移動した。相変わらず視界は最悪だが、船尾がなにやら騒がしいのが見て取れた。風と波のせいで、音が消されてしまっている。
―――と、船尾から何かが落ちた。ふわふわしていて、雨の中でも落下速度はわりとゆっくりしている。
でもあれは……―――
海賊船が急速に港を離れていく。フィリップは波に巻き込まれないように近くの岩にしがみついた。
海賊船が見えなくなったころ、フィリップは先程落ちたものが気になってその辺りへ行ってみた。
なんとそれは、シャンドラのドレスだった。