一ノ駅【STARS】
見上げた夜空に星が流れると人はその星に願いを乗せる。その星の光が描く軌跡に夢を願うのだ。
その行為こそが儚い夢物語だと知っていながら、それでも星たちは祈りを乗せて流れていく。
星は空に光っているからこそ星と呼ばれる。では光らない星は?
ここに生まれたての星がいる。星のゆりかごから出てきたばかりでまだ呼ばれる名前もない、大きな体だけど光ることができない小さな子供の星だ。先に生まれてきた兄弟星たちは明るく輝きながら小さな星を見守り、励ました。小さな星はその中で声なき産声をあげながら心臓のように脈打っていた。
「これは大きな星だね。いつかきっと美しい光を放つだろうね。」
兄弟たちが囁き合う。しかし、どれだけの時間が過ぎても生まれたばかりの小さな星は光ることができずにいた。
小さな星は周りの星に聞いた。
「どうしたらあなたたちのように光ることができるの?」
一番近くにいた光る星が答えた。
「大丈夫、みんな最初から自分で光っていた訳じゃないんだ。そうして大きく呼吸をしていればいつか必ず光ることができるよ。」
それを聞いた小さな星は嬉しそうに笑ってまた小さく小さく脈打った。だけど、光らなかった。
答えてくれた兄弟星が流れていってしまってもまだ光ることができなかった。
「このまま光らなかったら僕はどうなるんだろう。」
小さな星はときどき、そんなことを考えるようになった。キラキラ光る兄弟たちは次から次へと流れてどこかへ消えていく。小さな星は聞いた。
「星は流れたらどうなるの?」
光る星が答えた。
「あそこに大きな青い星があるだろう?あの地球という星の生き物が僕たちを見つけて願いという魔法をかけてくれたら僕たちは願い星になれる。」
「願い星って?どうなるの?」
「僕たちが空から落ちて姿が見えなくなっても、その願いが僕たちを忘れずにいてくれる。永遠に消えることのない星になれるのさ。でもお前は光ってないからきっと消えてなくなるだけだな。」
光る星はからかうようにそう言った。それを聞いた小さな星は悲しくなった。ぎゅっと小さくなったきり動かなくなった。
答えたその星もいつしか遠い空に流れていったが、小さな星は悲しみに胸を痛めて、流れていった星の姿も、自分のことも見えずに小さくなったまま、空から流れることもできず宙を彷徨っていた。
やがて大きな太陽が見えてきた。いつも明るく、決して動くことのない星。
しょんぼりと俯く小さな星に太陽は言った。
「どうしたの?そんな悲しそうにして。」
「僕は光らない星だ。だから願い星にもなれない。」
泣きそうに小さな星は言った。太陽は笑った。
「君はもう十分に光っているじゃないか。」
そう言われて顔を上げた小さな星は気付いた。生まれたときより小さくなってしまった星はいつの間にか明るく光っていた。
小さな星は喜びに膨らんでまた小さくなり更に明るく光った。
「もう少し私の周りを回ったら地球に引かれるまま近付いてごらん。」
小さな星は頷いてお礼を言い、太陽とお別れした。そして月に出会った。月は太陽のように光っていないが明るく輝いていた。
「あなたの幸運を祈ってるわ。」
月が優しい声で言った。
「もし、誰にも見つからず、願い星になれなかったらどうしよう。」
小さな星は言った。月は微笑んだ。
「私がどうしてこんなに明るいか知っていて?」
「ううん。どうしてなの?」
「あの太陽の光が私を地球まで光が届く明るい星にしているの。この宇宙のどの星も私と同じように太陽の光に照らされているわ。」
「じゃあ、僕も?」
「光ろうと頑張っていた君も、今光っている君も、誰かが見ていたわ。大丈夫。怖がらないで行ってごらん。願いをたくさん集めて大きな願い星になりなさい。」
小さな星は頷いた。そして地球に向かってゆっくり進みだした。




