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闇と光  作者: 桜咲 雫紅
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第七話 腕試しPart2 竜也VS優香剣技対決

「克弥大丈夫?」


包帯を巻いてあげながら克弥の顔を覗き込む優香。


「大丈夫だ」


さっきまで着ていた自分の服を見てため息をつき


「服以外はな」


克弥の服は所々焼け焦げていて元の色は判別できない。雑巾としてなら使えそうだが、洋服としてはおそらく使い物にはならないだろう。


「そんぐらいですんでよかったじゃん」


慰めるように克弥の肩を叩く零。


「よかね~よ」


渋面を作り、そっぽ向く克弥


「美麗ちゃんに失礼なこと言ったんだから当然の報いだけどね」


包帯を巻き終わり、最後にそこを軽く叩く。


いてっ、なにすんだよという抗議の声を軽く聞き流す優香。


「よし。優香俺と勝負だ」


待ってましたといわんばかりの表情かおで近づいてくる竜也。優香も魔剣の柄に手を置いて


「いいよ。手加減無用本気で来いよ」


「当たり前」


二人は同時に抜剣して斬りかかる。夕空に火花が散る。


優香は身をさばき斜め下から魔刀を振り上げる。竜也は斬撃を難なく防ぎ、その勢いのまま踏み込んで横殴りの一撃。魔剣を立ててその一撃を防ぐ。



バチバチバチ



ものすごいスパーク音と共に火花が散る。桜色と紺の斬撃の跡が走り、幾度も衝突する。


優香は攻撃中心の剣技だが、竜也は無駄のない攻守両立されてる剣技だ。


「優香、腕上げたんじゃん?」


観戦しながら感心したように呟く凪。優也も頷いて


「そうだね。前より攻撃のキレが上がってる・・・いつの間にこんな」


「優香は負けず嫌いだからね」


微苦笑を浮かべて腕を組んでる零。


「まぁ前の腕試しのとき竜也に負けてたもんね」


あの時は大変だったとボヤく凪。


「優香ちゃんは元気だねぇ」


「美麗・・・それはちょっと違う気が・・・・・・」


優也が遠慮がちにつっこむが美麗はスルーしてお菓子をほおばる。


「優也、落ち込むな」


美麗にスルーされ俯いてる優也の頭を慰めるように撫でる零。小さい子供をなだめてるお父さんみたいだ。


「零さん、優也も一応男なんだから子ども扱いはやめてあげなよ」


凪がなぜか俯いて小さく肩を震わせながらそう言うが、説得力がない。なぜかというと


「笑いながら言われても」


そう凪は笑っていたのだ。これじゃあ説得力の欠片もない。優也は凪を軽く睨む。


「ゴ・・ゴメッ・・・・・ちょっ・・まって」


何度か深呼吸して笑いをかみ殺す。


そんなやり取りを横目で眺め


「前もこんなことしてたんだ」


「そうだよ。まぁあんまりいい思い出じゃないけどね」


声音には若干疲れが滲んでいる。その時の事を思い出しているのだろう。声のした方を見て


「お前は・・・燈架だっけ?」


「正解。よく出来ました」


にこやかに答える燈架。


お前は先生か何かかと嫌そうに言いながら


「前の腕だめしでなんかあったのか?」


燈架は赤く染まっていく空を見ながら


「半月前の話だけどね。その頃は二人とも勝ったり負けたりを繰り返してて、その日竜が二勝してね。悔しかったんだろうし、なにより許せなかったんだろうね。竜に二回も連続で負けた自分自身が・・・・・その日の夜から一ヶ月前までずーっと修行してたよ。美麗ちゃんと零さんが止めなきゃいまも続けてたかもね。負けず嫌いでもあそこまで

するかって私も思ったよ」


克弥は驚いて竜也と戦ってる優香を見つめる。負けず嫌いなのは知ってたがさすがにここまでとは思わなかったの

だ。燈架の話は続く。


「二人に連れられて帰ってきたときの優香ちゃんは、全身血だらけで火傷もあった。多分剣技と魔法の修行してたんじゃないかな。それにあの傷は複合魔法の「ちょっと待った」


燈架の話を遮り、ありえない事を聞いたような表情をした克弥は


「複合魔法だと?・・・・・あの年で?ありえねぇよ・・・あれは、大人でも出来る奴は二、三人だぞ」



複合魔法とは


二種類の魔法をあわせる魔法。もちろん威力も普通の攻撃魔法や防御魔法より断然強い。しかし、この魔法は相当な魔力と体力を消費する。それに加え扱いも難しく、悪くすれば自らに襲い掛かってくる諸刃の剣。


そのため、この魔法を使える人は光と闇をあわせても五人にも満たない数しかいない。まして成人にもなっていない子供がこの魔法を使うなど自殺行為だ。



「それに複合魔法を使うには少なくとも二つの属性をもってないと・・・」


そう。複合魔法を使うには、生まれながら二つの属性をもってる者か、修行してもうひとつの属性を身につけるかしないといけないのだ。属性は、火・風・水・雷の他に氷・土・木などがある。


「優香ちゃんは生まれながら火と風の属性をもってるんだよ。竜も生まれながら水と氷の属性をもってる。でも竜は氷の魔力の容量が小さいみたい。あとは・・・っ・・・なんでもない」


語尾を濁した燈架。克弥はそれに気づいた様子もなく大声で


「火と風!?」


複合魔法の中で一番危険な組み合わせが火と風なのだ。なぜかというと、二つとも攻撃魔法専用だから。しかもお互いの魔法を強めあう魔法だからだ。この組み合わせの複合魔法を使い、暴走し、自滅した魔導師は何人もいる。逆に一番よい組み合わせは氷と水。


「克弥君うるさいよ」


燈架は耳を塞ぎそういうが克弥は聞いていない。


「あいつ大丈夫なのか?」


「優香ちゃんなら大丈夫だよ。それに・・・っとなんでもない」


言いかけた言葉を飲み込む燈架。克弥は不思議そうに燈架を見るが燈架は答えず


「優香ちゃんが血だらけで帰ってきた話に戻すけど、あれは多分複合魔法の修行で失敗したときに出来た傷。全身血だら・・いや傷だらけだったのは風の魔法、火傷は火の魔法特有の傷だからね」


そう言って自分が傷を負ったような表情をする燈架。


「失敗・・・」


「一回で成功したら誰も苦労しないでしょ。何回か失敗するに決まってる」


「何でそこまで」


克弥は半ば唖然としながら声を搾り出す。燈架は困ったような笑みを浮かべ


「優香ちゃんは・・・・・・大切な人を守りたいって言ってた。もう誰も・・・いなくなって欲しくないって。もう誰にも悲しんで欲しくないからって」


「もう誰も?」


克弥が聞き返すと、燈架はしまったといわんばかりの表情になって口を覆う。いつもの柔らかい雰囲気が消え、触れれば切れそうなほど鋭い空気をまとっている。


「もう誰もってどういう意味だ?」


「聞かなかったことにして!」


悲鳴に近い声で言い捨てると燈架は走り去っていった。追いかけて問いただしたかったが、あの燈架の変わりようが克弥の足を大地に縫いとめた。





「腕上げたな。優香」


嬉しそうに笑う竜也。優香も笑みを向け


「竜也は腕がおちたんじゃん」


「言ってろ」


肩で息をしながらいったん間合いをあける竜也。優香も肩で息をしている。だが両者とも瞳は戦意を失っていない。

優香は竜也の脇腹目掛けて蹴りを放つ。それを腕で防ごうとすると驚くほどの速さで膝蹴りに変化。お腹に直撃して痛そうに顔をしかめ地面に倒れこむ、と見せかけて優香の足を払う。


「ヤバッ」


思わぬ反撃に体勢を崩す優香の無防備な腹にお返しとばかりに拳を叩き込む。


「・・・っ・・」


そんまま地面に倒れこむ優香。受け身をとったが立ち上がれない。


「降参かい?」


余裕そうな笑みを浮かべている竜也。痛みを堪えて起き上がりざまに魔刀を逆手にもち斜め下から斬りあげる。目を見開いて上体を反らすが避けきれず服が浅く裂かれる。


「あぶね~」


「浅かったか」


構え直す優香に斬りかかる竜也。竜也は優香の胴を真っ二つにしそうな勢いで魔剣を振り下ろす。何とか防いだが一瞬腕に痺れがはしった。それほど重い斬撃だったのだろう。竜也の攻撃はそれで終わらず、そのまま踏み込み再び腹へ拳を叩き込もうとする。竜也の魔剣を押し返し飛びのく。間一髪、一秒前まで優香がいた所に拳が空をきる。


「ギリギリセーフ」


ニヤッと笑って汗を拭う。


「よく避けたな。当たると思ったのに」


笑みを浮かべ手を左右に軽く振る。優香は答えず斬りかかる。竜也は避けてがら空きな左腕に斬り付ける。優香の左手が動き、左肩にある柄に手をかけ抜く。鮮やかな紅い魔刀が現れる。血のような赤ではなく、燃え上がる炎をそのまま閉じ込めたような真紅。


「久しぶりに見たなぁ。その太刀」


相変わらず綺麗だと魔刀を眺める竜也。


「褒めたって何も出ないよ」


そう言って竜也の魔剣を弾き、真紅の魔刀で突きを繰り出す。竜也は下から魔剣を振り上げ、軌道を変える。読んでいたのか間合いを詰め胸に魔刀を突きつける。


「勝負ありだね」


零が近寄ってきた。凪と優也、克弥も近寄ってくる。


「そうみたいだね」


悔しさが混ざった声でそういう竜也。優香は得意げに刀を納めて鞘で肩を叩く。心なしか嬉しそうだ。


「疲れた。でも勝ててよかった」


そして凪に向かって


「なぁお前って防御の魔法得意だったよな?」


「そうだけど」


嫌な予感がしたのか、凪は一歩後ずさる。予感は的中した。


「今から防御の魔法を使って」


「はぃ?」


驚きを隠さず声をあげる凪。珍しい事もあるもんだ。


「いいから。ちょっと試したい事があるんだけど」


「わかったよ」


ため息をついて了承する。


「竜也も手伝ってあげて」


優香がそういうと凪が不機嫌そうに


「私だけじゃダメって事かな」


「えっと・・・そうじゃなくて」


助けを求めて竜也を見る。竜也は頭をかいて


「優香は凪に怪我してほしくないんじゃん?」


優香はそっぽ向く。頬が赤い。図星だったようだ。


竜也め、余計なことをと呟く。凪は喜色満面で抱きついてくる。


「うぉ、離れろ」


バタバタ暴れるが凪は離れない。克弥が


「こいつってこんなキャラだっけ?」


「気にしないほうが良いよ」


零が腕を組んでいつものことだしねと付け加える。優也も零の横で頷き


「俺も最初は驚いたけど、もう慣れたよ」


「凪さん可愛らしいねぇ」


「美麗、それはちょっと違うよ」


零がそういうと美麗は


「私以外のすべての人は可愛いよ」


「美麗も可愛いよ」


優也が小声でそういうが聞こえなかったらしくお茶を飲んでる。


そうこうしているうちに凪と竜也がシールドを張り、その他の人は安全圏に避難。優香は周りを見てから


「炎よ」


声に反応したように燃え盛る炎が出現し、優香の周囲を回る。


「風よ」


炎と同じように風が出現した。準備は整った。目を閉じて集中する。ここからが本番だ。


「共に混ざり合い」


言下に炎と風が混ざり合っていく。一番体力と魔力を奪われるのがここだ。


ものすごい脱力感と共に意識が遠のきかけたが、手のひらに爪を立て、痛みで意識を引き戻す。


私はこんなとこで倒れるわけにはいかないんだ。懐かしい面影が脳裏をよぎる。いつも無茶をする私を気遣ってくれてた瞳を。優香は真紅に染まった目を開き


「我が刃となれ!」


炎と風が完璧に融合し、凪と竜也の張ったシールドに殺到。複合魔法の直撃を受けた数秒持ちこたえたが虹色に変色し、亀裂が入る。


「くっ」


凪の瞳の色が変わり、無意識に魔力を全開にする。そうしないとシールドがもたない。竜也も瞳の色が変わっていく。予想以上に強力な複合魔法に二人の魔導師がおされている。


「零さん、手伝って」


いつもの冷静さをどこかに吹き飛ばした凪が零を呼ぶ。零が二人の後ろに行き、背に手を当てて魔力を流し込む。なんとか複合魔法を防ぎきり


「危なかった」


安堵のため息を漏らす凪と竜也。零は地面に座り込み


「もう二度とやりたくない」


そんな三人を尻目に優香は美麗と優也に駆け寄り


「どうだった?これなら実践でも使えるかな?」


「充分使えると思うよ。威力もあるし」


美麗も頷く。そして疑問に思ったのか優也は


「これ身につけるためには結構修行しなきゃいけないんじゃん?」


「まぁね」


気まずげに視線をそらす。修行方法を聞いたらみんな怒るだろうから。


「そろそろ帰ろうよ」


その一言ですっかり暗くなった空を見て慌てて寮へ帰った。

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