第六話 腕試しPart1 燈架VS優香弓矢勝負
「・・・・ぅ・・っ・・」
優香は小さく呻いて薄く目を開ける。窓から差し込んでる日差しが眩しい。
「・・・朝か」
少し掠れた声で呟く。体を起こそうとするが起き上がれない。多分血が足りないのだろう。周りを見回すと白一色ってことは
「病室か」
「その通り。ようやく起きたか」
隣のベットから声が聞こえた。横をみると克弥が手をあげて
「よっ。おはよう」
「相変わらず能天気な顔だね」
「なんだと」
ムッとしたのか優香を軽く睨む。優香は気にせず
「気にするな。他意はない」
「そういう問題じゃない」
「ハイハイ。悪かったよ」
心のこもってない謝罪をしてから不思議そうに
「克弥はなんでここにいるの?怪我したの?」
すると一気に不機嫌になった克弥。優香は首を傾げて
「どうしたの?」
「胸から腹にかけて浅い怪我した・・・・」
顔をしかめてものすごく嫌そうな声で
「この傷は・・・・守弥にやられたんだ」
「守弥に?」
目を見開いて克弥を見る
「一瞬でも隙をみせた俺が悪かった・・・っ」
その声音には悔しさが混ざっていた。それと同時に敵に隙をみせた自分に対する怒り
「なら次は一矢報いれば?」
克弥が驚いたように優香をみる。優香は不敵に笑って
「私ならそうする」
あくまでも自分だったらだ。克弥に強制する気は毛頭ない。克弥はしばらく考え
「いいかもな」
小さく呟く。優香には聞こえなかったのか取り繕うように
「別に克弥にやれって言ってるんじゃないからね」
口調が面白いぐらい必死だ。なのに、顔は無理して普通にしようと努力してるので余計笑いを誘う。おまけに本人は無自覚ときた。
「なに慌ててるんだ」
口元を手で隠しつつ訊ねる。
「なっ」
面白いように顔色が変わる。
「慌ててないよ!」
思わず大声を出す。克弥は意地悪げに笑んで
「病室ではお静かに」
わざとらしく人差し指を口に当て、注意する。多分・・・いや、絶対面白がってる。
黙ってそっぽ向く。こういうときは何も言わないほうが身のためだ
「悪い悪い。拗ねんなよ」
笑いながら謝る
「それで謝ってるつもり?」
胡乱げに聞くと真面目な顔で
「もちろん」
声には笑みが含まれている。すなわちからかってるのだ
「・・・・・・」
あえて沈黙する。ここで何を言っても無駄だという事をわかりすぎるほどわかってるからだ。それこそ時間の無駄だ。話題を変えるように
「怪我も(一応)治ったし、久しぶりにみんなと腕試ししようかな」
口に出すといてもたってもいられなくなって、首にかけてある笛を吹いて紅蓮を呼ぶ。数秒後
『呼んだか?優香』
「紅蓮に頼みたいことがあって・・・」
『頼み事?』
紅蓮の目を見つめながら頷いて
「美麗ちゃん達に伝えて、久しぶりにみんなで腕試ししないって・・・・あと竜也には」
そう言ってからニヤッと笑い
「私に負けるのが怖いんなら来なくていいよって伝えといて」
『承知。時に優香、最後の言葉は挑発か?』
「そうだよ。いまんとこ剣術は互角だから今日こそ決着つけてやる」
さっきまでは血が足りず起き上がれなかったのに、気分が高揚しているのか上半身を起こしてる。元々血の気は多いのだ。
『相変わらず負けず嫌いだな・・・まぁそのほうが優香らしい』
呆れたようにそう呟き音もなく出て行く
「余計なお世話だ」
子供みたいに頬を膨らませる。
そしてベットの近くに立てかけられてる二振りの刀を、いつも通り左肩と腰にさげる。
「お前って二刀流なのか?」
克弥は疑問に思っていたんだろう。刀を二振り持っていれば誰でも疑問をもつことだろう。
「二刀流じゃないよ」
優香の答えに克弥は驚いたように
「じゃあなぜ・・・」
「う~ん・・・何故って言われても・・・・・生まれながら刀を二振りもってたからとしか・・いいようがないんだ
けど・・・・」
困ったように頭をかく。
光も闇も変わらず生まれたときに自分の魔力が武器の形に具現化し、自分だけの武器を創るのだ。自分にもっとも適した武器を。
そして、魔剣の色はその人の魔力の色。
優香は真紅と桜色の魔刀と鞘と帯、真紅と桜色の短剣
克弥は緋色の魔刀と鞘と帯、同色の短剣
零は夕焼け色の魔剣と鞘と帯、同色の短刀
凪は蒼い魔刀と鞘と帯、同色の短剣
竜也は紺の魔剣と鞘と帯、同色の短刀
美零は黄緑の魔刀と鞘と帯、同色の短剣
優也は深緑の魔剣と鞘と帯、同色の短刀
燈架は純白の魔剣と鞘と帯、同じく純白の弓矢
魅希はピンクの魔剣と鞘と帯、同色の短刀
それからこれも光と闇関係なく、戦意を高めると魔力と同じ色に瞳が変わるのだ。光はそのままのいろだが、闇の者は魔力も黒が混じった色になるから瞳も黒が混じった色になる。
「ふーん・・・珍しい奴もいるもんだ」
そんな会話をしているうちに、紅蓮から優香の伝言を聞いた竜也達が病室に入ってきた。
「竜也、来たのか。今日こそ決着つけるぞ」
「望むとこだ」
お互いに笑い合う。凪は少し心配そうに
「無理しないようにね」
「大丈夫だよ凪さん。優香ちゃんは殺しても死なないくらい強運なお方だから」
そういって拝む仕草をする。優香は美麗の頭を軽く叩き
「拝んでもいいことないぞ」
優也も少しおどおどしながら
「美麗・・やめなよ・・・」
「おどおどしながら言っても説得力ないぞ」
竜也が薄く笑いながら優也の背中を叩く
「確かに」
口元を隠して笑う燈架。優也は竜也と燈架をみて
「そう言われても・・・」
零が優也の肩を叩き
「気にすんな。こいつらはお前をからかって楽しんでるんだから」
「失敬な。楽しんでなどいないぞ・・・これは弄ってると言うんだ」
竜也は人の悪い笑みを浮かべながらそんなことを言う。
「余計悪いじゃん」
凪が呆れ混じりに笑う。今度は優香が優也の肩を叩く。克弥はそんな七人を眺めて
「あの魅希とかいう奴は?」
黙り込む優香に諦めのため息をつく竜也、明後日の方向を向く燈架、お茶を飲む美麗、意味もなく右往左往する優也、苦笑いを浮かべる凪、その反応を面白そうに眺める零。
「なんで誰も答えないんだよ」
誰も答えないのを疑問に思ったのだろう。優香は黙ったまま外を指差す。
そこには数十名の男を連れた魅希の姿が・・・
「・・・・・・・さて腕試しするんだろ・・・俺も一緒にやりたい」
今見た光景にはいっさい触れない克弥。
「そうだな」
竜也が頷き、みんなは光城の中心にある中庭に向かう。
「よし。まずは燈架、勝負だ」
「望むとこだ。今日こそ優香に負けを認めてもらわないと」
「なんだと」
「あんまり騒ぐと勝負しないよ」
食って掛かる優香を軽くいなす燈架。零は優香の頭を撫でて
「落ち着け優香。なんの勝負をするんだ?」
「決まってんじゃん。弓だよ」
凪がはっきり
「勝ち目無いよ」
美麗もお茶菓子を食べて
「私もそう思うな~いくら剣術では無敵の優香ちゃんでも、弓で燈架ちゃんに勝とうとするのは」
「おい、美麗。それは聞き捨てならないぞ。優香は無敵じゃない。俺のが強い」
竜也が美麗に言うが、美麗は見事にスルーしてお茶を飲む。
「とにかく弓で勝負だ」
「ハイハイ。わかりました」
そして二人は的から100メートル離れた。まずは燈架が矢を放つ。見事的のど真ん中に命中。
負けじと優香も矢を放つ。これも真ん中に命中。
「まずは同点だね」
「そうみたいだ」
そして二回、三回と矢を放っていく優香と燈架。外野は近くの観客席で見物しながら
「竜君は混ざんないの?」
暇そうにしながら問いかける美麗。竜也は苦虫を噛んだような顔をして
「弓矢は苦手だ。なぜか的に当たらない」
「それはただ単にノーコン「うるさいぞ凪」
凪には珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべている。竜也は不機嫌丸出しの顔で凪を小突く。
優也もこれまた珍しく意地悪げに
「俺と弓で競わない?竜也君」
「お前キャラ変わってるぞ」
心底から嫌そうにしながら優也を見下ろす
「そんなことないよ」
克弥はそのやりとりを眺めて
「お前ら仲良いな」
「当たり前じゃん。幼馴染だし」
当然のことのように言う凪
「へぇ~何年の付き合い?」
「かれこれ十四年ぐらいじゃん?」
「そのくらいかねぇ・・・もうそんなに経つのか」
腕組みして記憶を辿る竜也に年寄りみたいなことを言う美麗。
「・・・まるでお年寄りみたいないい方だうぉ」
失礼なことを言った克弥の首ギリギリを何かが飛んでいく。語尾が変になったのはこの何かのせいだ。冷や汗をかきつつ後ろを見てみると矢が刺さってる。
ゆっくり前方を見てみると、瞳の色が変わりかけてる優香の姿が・・・。
「あ~ぁ。優香が怒っちゃった」
他人事のようにそんなことをいう竜也。零は腹を押さえて爆笑中。凪は安全圏に避難してワクワクした表情で成り行きを見守ってる。
「優香・・・・燈架さんとの勝負は?」
明らかに怯えつつ掠れた声で聞く優也。
「いま二十二回終わった」
克弥を睨みながらも低い声で答える。
「えっと・・・・俺なんか言った?」
何が優香の逆鱗に触れたかまったくわかってない克弥。必死に考えてるが思い至らないのか、微苦笑を浮かべてる。
「美麗ちゃんに失礼なこと言うな」
「それ?」
克弥はまじまじと優香を見つめる。
まぁ優香が美麗をどれだけ大切に思ってるか知らないものにとっては理解できないだろう。少しだけ克弥が気の毒・・。とか思ってる凪は相変わらず安全圏から見てるだけで、助け舟を出す気は毛頭ない。とばっちりを食うのはごめんだ。
「それ?じゃない!それ以外になにがあるって言うんだ」
がおうとほえる優香。言っちゃ悪いがしつけのなってない犬みたいだ。
「すんません」
口元に笑みを浮かべて謝る克弥。いささか真剣さが伝わらないのは私だけだろうか。
「笑いながら言うな!」
「そんなに怒んなくてもいいじゃん。もっと仲良くしようよ」
怒る優香をなだめる克弥。どうやらこの状況を楽しみはじめてるらしい。
「お前みたいなやつと仲良くするか」
そう言い捨てて燈架との勝負再開。克弥は小さく
「相変わらず弄りがいのある奴」
そう呟いた瞬間、快晴の空なのにどこからともなく稲妻が落ちてきた。有り得ないぐらい正確に克弥の方へ。
そして・・・直撃。
「「うわぁ・・悲惨」」
美麗を除いた全員から一糸乱れず声が漏れる。克弥は真っ黒焦げになって弱々しく痙攣してる。
「死んだかな・・・?」
「いや・・・・生きてるよ・・・多分・・・きっと」
「大丈夫・・・かな・・・・・?」
「明らか・・大丈夫じゃなさそうだね」
無責任な言葉が飛び交う。そして美麗をみる。当人は気にせず和紙を取り出し流れるような字で
「チャラ男死亡、享年十四歳。失言により天罰が下った」
とか書いている。美麗を除く全員は思った。
(やっぱ美麗は時々コエぇ)
「俺・・・・っ・・まだ・・死んでね・・・・ぞ」
小さく掠れた声で抗議する克弥。もちろん誰も聞いてない
「燈架。再開しようか」
「う・・ん」
若干引き攣った笑みを浮かべた優香と燈架は、勝負を続行した