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闇と光  作者: 桜咲 雫紅
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第二十九話 覚悟

翌日の九時半。


「くぅ~。よく寝た・・・・・あれ?」


伸びをしつつぐるりと視線を廻らす。紅蓮と紅輝はいる。だが、いつも起こしてくれている連夜がいない。


「珍しい・・・寝坊でもしたのかな」


昨日の騒ぎをまったく知らない優香は、自分の言葉に納得して着替える。


「さ~て。朝食朝食」


軽い足取りで部屋から出る。と


「なっなんじゃこりゃ」


刹那、我が目を疑った。優香の目の前には穴だらけになった廊下と、粉々に砕けて元がなにかわからない物が散乱していた。さらに


「克弥っ。何でこんなとこで寝てんのさ」


仰向けに倒れている克弥を小突く。いくら初夏だからといってこんなとこで寝てたら風邪を引く。


「わ~、穴だらけ。修理費が心配になるなぁ。あっ、おはよう。優香ちゃん」


「美麗。もう少し緊張感を持とうよ。おはよ、優香」


部屋から出てきたのは美麗と優也の二人だ。優香は満面の笑みを浮かべて


「おはよう。美麗ちゃん。優也」


克弥を引きずり美麗達の元へ穴を避けて走り寄る。


「ぅ~ん?・・・・・ここは・・・ってなんじゃこりゃ!!」


「起きるなり騒がしい奴だな」


克弥は目の前の惨状を何度も見回して深呼吸をする。


「そうか。これは夢なんだ。あぁ、そうに決まってる」


ぶつぶつ独り言を言いながら頬をつねったり頭を振ったり目を閉じたり。


「よし。目を開けよう。そしたら・・・・」


克弥が目を開けた。そこには変わらず変わり果てた廊下が。


「――――――――――夢じゃ・・・・・ない」


「現実逃避は終わったかな?チャラ男君」


「美麗。ちゃんと名前呼んであげよ「そんな事はどうでもいいから朝食食いに行こう」


脳内の八割以上がすでに朝食で一杯の優香。その言葉を合図に一同は食堂へと歩き出した。





「はよっ。優香、美零、優也・・・・・・・・・克弥」「その間はなんだっ!三枚におろして食うぞコラ」


「ヒィッ」


「いや。突っ込むとこはそこじゃない気が・・・どうしたの?その怪我」


昨日より竜也の体に巻いてある包帯の箇所が増えている気がする。気のせいか?竜也は苦笑を浮かべているだけで答えない。


「朝っぱらからテンション高いね。ふぁ~ぁ眠」


凪が眠そうに目を擦る。私の勘違いかもしれないが、いささか・・・・・いや訂正。かなり不機嫌みたいだ。


「寝不足かい?」


美麗が紅茶かコーヒーをそれぞれに配りながら問うと、凪が竜也の方を一瞥して


「まぁね。どっかの馬鹿共の馬鹿騒ぎのせいで」


竜也は表情かおを強張らせて申し訳なさそうに凪を見る。


「そういえば連夜見なかった?部屋にいなくてさ」


竜也が意味ありげな視線を凪へと流す。凪は竜也の視線に気づき、睨みつける。まるで(余計な事言うんじゃねぇぞ。あ゛?)と脅迫してるみたいだ。おっかね~。


「おっはよ~魅希の克、竜、優、守弥、優香、美零、燈架」


滅茶苦茶騒がしい奴が来た。しかも今日も一段と派手な格好だ。


「おはよう、魅希さん。コーヒーと紅茶どっちにする?」


「今日美麗が当番だっけ?コーヒーでミルクた~っぷり」


「妙に機嫌良くない?不気味なんだけど。何かの前兆?」


「その言い方はちょっと酷いかな・・・内容的には同意見だけど」


優香と燈架がヒソヒソ話していると、後ろから優也が遠慮がちに


「二人とも・・・・飲み物のおかわりいる?」


「私はいいや」


「私は紅茶をもう一杯お願い出来るかな?」


「わかった」


優也は優香のコップに紅茶を注ぐ。優香はお礼に言いつつ紅茶を口に含む。そこへ


「ぉはよ、皆」


「「失礼ですが、どなたですか?」」


一糸乱れず問いかける。服装と声から推測するに多分連夜だ。だが、頬が腫れているせいで確信がもてない。それに加え瞳が死んでる。この世の果てを見ちゃいました、的な?


「てめぇら・・・・全員目が腐ってんじゃねぇのかッ!連夜だ。暁 連夜」


瞬く間にいつものように戻った連夜。さっきのは幻だったのだろう。


「ごめんごめん」


全然悪びれず適当に謝る優香。連夜の眉間にしわが寄る。


「悪いと思ってんならちゃんと反省しろ。ったく」


悪態をつきながら席につく。朝食を食べだした連夜に何気なく


「悪いと思ってないから反省しなくていい?」と聞いてみた。実際反省する気は毛頭ないのだ。


「優香。後で説教一時間ね」


「すみません。反省するから許して下さい」


「よろしい」


黙々とご飯を食べていく連夜。優香はほっと胸を撫で下ろし、紅茶を一気に飲み干す。そろそろ城に行って仕事をしなくてはいけない。面倒だけど。


「お先に」


食器を片付け食堂を出る。


外に出ると眩しい朝日が瞳に突き刺す。


「おはよう。後継者さん」


「おはよ」


「火の後継者さん。帰りはうちに寄ってくださいよ。いい魔剣が手に入ったんですよ」


「売れてなけりゃな」


それもそうだ、と隣の店のおっさんが刀売りのおっさんの肩を叩く。思いっきり、力一杯。


「じゃあ帰りな~」


やんのかコラ、とか言い合ってる二人に手を振り、城へ向かう。


「仕事か。きっと机に山になってるんだろうな」


『当たり前だろ。仮にも最高指揮官だ』


定位置の肩にいる紅輝が顔をすり寄せてくる。その頭を撫でながら想像すると・・・・頭が痛くなってくる。だいたい、なんで私が全部の書類のまとめ役なんだよ!いまだに納得できない。あ~考えるだけで腹が立ってくる。


「そうだ。なにも真面目にやることないじゃんか。サボろう」


『サボるの?賛成』


『お前ら・・・また緋寒にどやされるぞ・・・って聞いちゃいねぇし』


それはとても魅力的な提案に思えた。優香は顔を輝かせて、早速足元にいる紅蓮と計画を立て始めた。


「う~ん。何時がいいかな・・・十一時は早すぎる。三時じゃ遅すぎる。難しいな」


そうこう言ってる間に城に着き、階段を上っていく。その間も計画を練る頭は休めない。だが、考え事をしていると足元が疎かになる。転けないか心配だ。


六階を過ぎた頃もまだあーでもないこーでもないと言っている。そして最後の一段を踏み外し、後頭部から床に激突。


『アホか、お前は。階段踏み外すとか・・・』


『優香の間抜け~』


くるりと華麗に回転し、見事に着地した紅輝と被害を被らないように壁際に逃げた紅蓮。


「うっせ~よ。って~。まさか階段から落ちるなんて・・・我ながら無様だ」


痣にならないといいけど。と続けざまに呟く。仕事部屋に着いたら冷やしておこう。パンパンと服の埃を落とし、部屋を目指す。


「やっと着いた。ったく、朝から散々な目にあった」


『優香がアホ(間抜け)だからだよ』


「なんだとっ!言わせておけば」


怒りの焔を瞳に灯しながら二人を睨みつける。睨まれた二人は平然としている。扉を開けつつ話を続ける。


「だいたいなぁ・・・・」


扉を開けて最初に飛び込んできたのは、今のも崩れそうなぐらい高く積み上げられた書類の山。次に視界に入ってきたのは足の踏み場もないほど散らかった本。


「あ~らら。こりゃ仕事する前に片付けだな」


足元にある本から順に拾い上げていく。それにしても、一応女の身でありながらこの散らかり様はさすがに酷すぎる気が・・・。竜也の爪の垢を煎じて飲んだら少しはマシに・・・・・・ならないか。昔からこんなんだし。

紅輝は遠い目をしながらそんな事を考えていると



むにゅ



「?なんか踏んだか?・・・・・・って紅輝!ごめん」


慌てて足を退かすと、背中に足跡をつけられた紅輝は全身の毛を逆立てて一喝。


『何してくれやがったんだ、この野郎ッ!!!!』


思わず耳を塞いでしゃがみ込んだ優香と伏せの格好をしながら『イライラにはカルシウムがいちば『うっせ

ッ。余計なお世話だ』


「まぁまぁ。悪かったって。わざとじゃないんだよ」


優香は紅輝の頭を撫でつつ本を本棚へ片付け、ようやく本題の仕事に移る。


「はぁ~どいつもこいつも全部私に押し付けやがって」


山になっている書類の五分の一は、優香が読んで判を押せば終わるものだった。他は優香の仕事が三分の一、残りすべて魅希と凪と克弥担当の書類だった。


怒りをため息に変え、黙々と判を押していく。今のところ読む気はこれっぽっちもない。こんなの読んでいたら日が暮れて朝になっちまう。


『俺ら暇だから書類読んでいいか?』


「いいぞ~後で教えてくれ」


『ラジャー』


それにしても、判を押すだけなんて単調すぎて厭きるな。音楽でも聴きながらやるか。緋寒に見つかんないように工夫しないと。


優香の気持ちは少し弾んだ。





予感はあった。


少しずつ、その瞬間が近づいているのを私達は感じていた。だが、代々の当主達が恐れてきた瞬間が自分の代に訪れたことも心のどこかでやはり、と納得している自分がいた。


とはいえよもや自分の代で、と思っていた。覚悟は、出来ていた。・・・・はずだった。


「なぜこの時代なのだ。何故、優香なのだ」


何度目かわからない言葉を呟く。言ってもせん無いことだとわかっているが。


「成人になるまでに・・・・」





九月末の雨の日。


「やっと暴れられんのか。血が騒ぐぜ」


ニヤッと冷酷な笑みを浮かべ、肩を揺する風牙。氷は黙ったままなにも言わず、雷音は


「ようやくこの時が来て、この雷音いたく感激しております」


春花は戸惑いながら小さな声で「がっ頑張ります」とだけ呟く。彩夜は今までにないくらい冷たい笑みを浮かべた。その笑顔を見た四人は背筋を氷塊で撫でられたような感覚に陥った。こんなに冷たく笑う彩夜は初めてみた。


その笑みを顔面に張り付けたまま彩夜は高らかに宣言する。


「光の時代はもうすぐ終わる。闇の時代の幕開けも近い。まずは、優香のあの力を奪う」


「御意」


雷音が膝を折り礼をとる。春花も雷音に習って慌てて膝をおり「ぎゅ・じゃなかった・・御意?」


「戦争の始まりだ」


この宣言により、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。





同時刻。最高指揮官室に守護者と後継者が集められた。


「おそらく、彩夜は戦争を仕掛けてくる」


「そろそろ来る頃だとは思っていたが・・・・・案外早かったな」


凪はきつく目を閉じる。また人死にを見ることになるのか。だが、次の優香の台詞を聞いた瞬間、そんな考えが吹っ飛んだ。


「この戦争、一般人を巻き込まないために私達だけでやるよ」


「はぁ!?」


「どういう・・・」


優香は窓の外を見る。外は昼にも関わらず暗くなっていた。


「理由は今から話す。私の事も含めて」


「おい!それは・・・・」「緋寒から止められてるだろうが!忘れたのか?」


「私、隠し事とか好きじゃないんだよね。それにここにいる皆は私が一番信頼している人達だから知って欲しい。これを知った皆が私をどう思おうが・・・・・・覚悟は出来てる」


迷いなく言い切る。優香はこうなったら絶対退かないことをわかりきっている二人は、ため息をつき


「ちっ、勝手にしろ」


「優香がそう決めたなら俺はなにも言わない」


竜也はソファーに深く腰掛け不機嫌そうに美麗から茶菓子を盗り、天罰が下った。まぁ反対しないって事は私の気持ちをくんでくれたのだろう。連夜は優香の頭を撫で、小声で「頑張れ」と呟く。


無意識に呼吸が荒くなる。もしこれを知った皆が離れていったら自分は耐えられるだろうか。いや、耐えるしかない。覚悟したじゃないか。このことを知ったときから。


ごくりと唾を飲み込む。らしくもなく緊張しているみたいだ。


「じゃ、話すよ」

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