第三話 優香の守護者?
ここは六階の工作員部隊隊長室
「はぁ~。」
机には資料が山積みになっていた。しかし、その資料を片付けるはずの人、凪は何回目かのため息をつき、ボーッとしていた。なぜボーッとしているかと言うと・・・・・・・。
《二時間前》
美麗がのんびりした声で
「出血の割には傷が浅い、上手く避けたねぇ、優香ちゃん。」傷口の上に手をかざし、治療を開始した。
凪は、泣きそうになりながら優香に近寄ろうとして、竜也に止められてる。優也は、こうなった経緯を話しつつ、右往左往している。魅希は、優香を斬った奴を追いかけたまま戻ってない。
そして治療が終わり美麗は
「絶対安静・・・だけど優香ちゃんは脱走の名人だから無理だね。」
その言葉通り優香は三時間後いなくなっていたのだ。
「はぁ~。」
優香は昔からそういう奴だった。怪我をしたり怒られた後は、何も言わず必ずいなくなるのだ。
「どこ行っちゃったんだよ・・・・・」
優香は、紅蓮の背中に乗り『紅の森』に向かっていた。走りながら紅蓮が
『優香。もうじき着くぞ』
「・・・・・ありがとう・・紅蓮」
優香は労うように紅蓮の頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細める紅蓮。
そうこうしているうちに『紅の森』に着き、中に入っていく。優香は記憶を頼りに紅蓮に指示する。そして、昔あの無愛想な男の子が座っていた木の根元にたどり着いた。するとそこには先客がいた。竜也とそっくりな顔だが、髪の色が違う男の子。
「竜也?」
少し掠れた声で声をかける優香。
「俺は竜也じゃない。何度も間違えるな」
呆れ混じりに立ち上がる男の子。
「ごめん。えっと・・・・神弥だっけ?」
「それは弟の名前だ!俺の名は克弥」
「そうだったっけ?久しぶり・・克弥君」
薄く笑って紅蓮から降りる。
「お前・・・・えっと・・優香だっけ?背中の傷大丈夫なのか?」
優香を木に寄りかからせながら心配そうに顔を覗き込み、血の気の失せた顔を見て
「おい!こんな状態でこんなとこに来るバカがどこにいる」
「ここにいるじゃん」
傷を治療しながら笑う優香。さすがに二の句が継げない克弥。金魚みたく口をパクパクさせてる。(ちょっと面白い
かも)克弥には悪いけどそう思ってる優香に
『優香、こいつは闇の最高指揮官だぞ。何故敵の大将と親しげに話してるんだ』
全身の毛を逆立てて唸り声をあげる紅蓮。克弥は気まずそうに目をそらした。
「だって克弥君は私の友達だもん。闇だろうが指揮官だろうが関係ない。克弥君は克弥君だ」
はっきりそう言い切った。その顔にも瞳にも迷いはまったくない。
『そいつは、優香を殺すためにここに来たかもしれないんだぞ』
「ないない」
即答で紅蓮の言葉を否定した。だって
「私は昔の克弥君を信じてるから」
克弥の目を真っ直ぐ見て微笑む。すると恥ずかしそうにそっぽ向く克弥。首をかしげて克弥の顔を覗きこみ
「どうしたの?顔赤いよ?」
そう問うと克弥は不自然なほど早口に
「もう帰んないと。それから俺、光に行くから・・・受け入れてもらえないかもだけど・・・さ。優香が見てる世界が見てみたくなったし。じゃあね」
最後まで言ったらものすごい速さで走っていった。
「光に来るって簡単に言ってたけど・・確か試験受けなきゃダメなんじゃ・・・。試験内容は何だったっけ?うーん・・思い出せない・・」
『光から闇に行くものは光の自分を、闇から光に行くものは闇の自分を倒さなくてはならない。だろ?お前まだ覚えてなかったのか?しっかりしろ、見えないけど一応最高指揮官なんだから』
「その物言いはなんだ!私は剣技と攻撃魔法と体術なら光の中で上位に入るぞ」
『知力は?』
「・・・・・・・ないです」
悔しそうに紅蓮を睨む。紅蓮はというと勝ち誇ったように優香を見下している。怒るかと思ったが優香はため息をついて
「やっぱり紅蓮には勝てないよ」
すると紅蓮は得意げに笑って
『当たり前だ。俺に勝つには百年早いよ』
《それから三日後》
「はぁ~。やってらんねぇ」
つまらなそうにベッドに寝転がってる優香。せっかく傷も塞がったのに、自室待機を命じられているので外にも行けない。なぜかって?理由は簡単、みんなに説教を食らったからだ・・・・。話は昨日に遡る。
昨日、克弥と別れて光城に帰ると魅希以外の全員が正門に立っていた。なぜかみんな険悪な雰囲気だ。なんでだと思いつつ
「みんななんでここにいるの?」
すると間髪入れず
「お前(優香・優香ちゃん)が勝手に病室抜け出すから(だ・だよ・だよ~・ですよ)」
その後はもう説教の嵐。もう思い出しただけで頭が痛くなる・・・・・・・・
「暇だなぁ」
これ以上思い出さないように頭を左右に振る。そろそろ我慢の限界だ。
ドアと窓を開け、周りを確認。幸い誰もいないようだ・・・
「よし。逃げますか」
悪戯好きの子供みたいに笑って、窓から近くの木へ飛び移る。そのまま枝を伝って地面に着地。
「よし。余裕余裕」
得意げに笑って走り出そうとしたとき後ろから
「何が余裕なの?」
慌てて振り返って
「れ・・・・零兄!」
「優香の行動ぐらい読めないと思った?」
意地悪げにクスクス笑う零。そして優香の頭を撫で
「どこ行く気?自室待機じゃなかったけ?」
「えっと・・・それは・・・・その」
「どうせ逃げようとしてたんでしょう」
「そ・・そうですよ。悪い?」
「まぁ見逃してあげるよ。行きたいとこに行ってきな」
手を振りながらどこかに歩いてく。
「ありがとう。零兄」
そして正門に向かって走ってく。そして正門から出た瞬間、誰かとぶつかり優香はしりもちをついた。
「ってぇ・・・・。誰だよ」
ぶつかった相手を睨みつけようと、その相手を見上げた。そしてそのまま固まった。相手は
「あぁ。ごめんごめん・・・大丈夫かい?優香ちゃん」
「・・・・・・優香ちゃんって言うな!バ克弥!てかなんでここにお前がいるんだよ!?」
「ん~?俺試験に合格したんだ。」
「へ?もう?マジで?大人でも最低十日はかかるのに・・」
「うん。マジで」
「凄い。でも、なんでここに?なんか用?」
そう言うと困ったように笑って
「俺、光に来たの初めてなんだ。だから光のこと優香に聞こうかと思って」
頭をかいて目をそらしつつ言う克弥。優香は突然
「住む所あんの?」
「ないに決まってんだろ。喧嘩売ってんのか?」
「克弥はなんの後継者だったの?」
「火だよ。ほら」
服の袖をめくって刻印のついた右肩を見せる。優香は
「じゃあ私の守護者にならない?」
「へっ?」
彼に似合わず素っ頓狂の声をあげる。優香は爆笑しながら
「嫌ならいいけどさ」
「嫌じゃな「優香!お前そいつを守護者にするつもりか!?」
克弥の言葉を遮って駆け寄ってきた竜也。
「そうだけど?何か問題が?」
「あのなぁ・・」
頭を抱える竜也。彼としては、突然やってきた元闇の最高指揮官が優香の守護者になるのは危険だと思っているのだ
が、当の優香はまったく気にしてない。そもそも
「そいつが本当に強いかまだわかってないんだから」
「おっと。そいつは聞き捨てならねぇな。俺をそこらの雑魚と一緒にすんな。」
「ふーん。じゃあ試してみようかな」
「試させてやるよ。優香下がってろ」
「ハイハイ。二人とも怪我しないでね」
内心ワクワクしながら素直に下がる。優香が下がった瞬間、二人は抜剣して交差した。
「ちっ」
「くそっ」
赤と紺の魔刀と魔剣が交差する。同時に声をあげ、めまぐるしく体勢を入れ替え互いの急所を狙う。動きに一瞬の遅滞もない。克弥は体を捻り横殴りの斬撃を。竜也は下からすくいあげるようにその斬撃をはじきく。
克弥は肩を、そして竜也は二の腕に浅い傷を負い血が滲む。
「二人とも凄い・・・。顔も似てるけど剣技も互角だなんて・・・・いいなぁ・・・私も混ざりた「きゃー。魅希の王子様が一人増えた♪しかも魅希を取り合ってる~」
優香は頭を抱えたい気分になったが、それを重いため息に代え
「魅希・・・あの二人はお前を取り合ってるんじゃ「もぉ~優香ったら誤魔化さなくていいんだよ♪いくら魅希が可愛いからって」
「・・・・自分で言うな!このナルシストが」
自分の言葉を二度も遮られ(もともと短い)堪忍袋の尾が切れ魅希に詰め寄る。当の魅希は
「なんで突然怒るの~?魅希マジわかんな「わかんなくて結構!それとその喋り方やめろ!」
「え~。いいじゃんか♪魅希超可愛いから~」
「関係ないし、私はお前を可愛いと思ったことはない」
「照れなくてもいいんだょ~」
「お前はっ」
果てがなさそうな二人の隣で、竜也と克弥は相変わらず斬りあっていた。騒ぎを聞きつけて来た美麗達は
「青春だねぇ」
「魅希と優香の口喧嘩って見てるとかなり面白いんだよね」
「二人とも。そんなこと言ってないで止めてよ」
お茶を飲み、お茶菓子を食べてる美麗と、この状況をあきらかに面白がってる凪を尻目に、優也は右往左往してる。
「あぁ、お茶とお茶菓子が美味しい」
「ほっとけばそのうち収まるよ」
もはや喧嘩など眼中になくお茶菓子をほおばる美麗と、喧嘩を見ながら素っ気無く言う凪。優也は
「どうしよう・・・・よし。優香!美麗が一緒にお茶菓子食べようだって!」
呆れるほどすばやく喧嘩を終わらせ美麗の隣に座り、お茶菓子を食べる優香。凪が
「優香たちの喧嘩終わっちゃたよ。で、竜也と戦ってるのはどなた?」
「克弥って言う元闇の最高指揮官さんだよ」
美麗は変わらずお茶菓子をほおばり、凪は普通に
「ふーん。そうなんだ」
優也は斬りあいをみながら感心したように
「凄いなぁ。克弥君って、あの竜也君と互角に戦えるなんて」
「でもそろそろ止めなきゃね。優香止めてきなよ」
凪は冷静に呟く。美麗も
「私も久しぶりに優香ちゃんのあれ見たい」
「仕方ないな。んじゃ、いっちょやるか」
「気をつけてね」
優也が不安げに優香に話しかける。優香は
「余裕♪」
腰にある魔刀と左肩にある魔刀の柄に手をかける。そして一気に克弥と竜也の間に入り、左手に持った魔刀で克弥の魔刀を止め、右手に持った魔刀で竜也の魔剣を止める。二人は唖然としつつ
「危ないぞ!優香、早く退け」「何してんだ、優香。死にたいのか」
「うるさいよ。竜也、もういいでしょ?克弥を認めてあげてよ」
「ちっ、わかったよ。優香のことちゃんと守れよ」
「わかってるよ」
まだ唖然としながら答える克弥。
「そうだ。ちょっと質問していい?克弥」
「なんだ?」
「克弥のパートナーは?ほら、龍とか国の動物とか・・・」
「あぁ。それなら」
口笛を吹き待つことしばし、火龍と狼が一頭ずつやってきた。火龍と狼が
『呼んだか?克弥』
『お久しぶりです。克弥さん』
「こいつらが俺のパートナーだよ。名前は龍の方が烈火で狼が紅葉だ。」
二頭の頭を撫でながら嬉しそうに言った。
★★★★★★★★
余談だが、パートナーとは人が生まれたときから各光の属性の龍の卵を一個(闇の場合は闇の属性の龍の卵)と、各国の動物達を与えられる。
龍の卵は、持ち主をパートナーと認めない限り孵化しない。
各国の動物達は、生まれてから一ヶ月以内の動物が認めた人がパートナーになれる。
しかし、必ずしも龍の卵が孵るとも動物達に認められるとも限らない。その場合は、成人(十八歳)になったらどんなときでも孵化するし、パートナーも決められる。
それから、各光属性の龍というのは火が火龍、水は水龍、雷は雷龍、風は風龍だ。闇属性の龍は属性の前に闇をつければいい。
もうひとつ余談だが、各国にいる動物たちは、火の国は狼、風の国は白虎、雷の国は猫、水の国は川獺だ。
以上余談終了
★★★★★★★★