番外編1
「さて、まずはどこ行く?」
「ん~じゃあ一階に行って、そこからぐるりと回らない?」
「賛成」
ということで船首にやってきた竜也と凪。眼前には少し雲の広がった空と眩しい太陽、そして青く澄んだ美しい海が広がっている。
「綺麗」
感嘆の声をもらす凪。竜也は眩しそうに顔の前に手を翳し、目を細め
「晴れてよかったな」
「うん」
手すりにつかまりあちこちに視線をめぐらす凪。右側ではイルカが飛び跳ね、左側ではクジラが飛沫を上げる。しばらくその景色を堪能した二人は、船内に戻る。
「次はどこ行く?俺としては下に行きたいな。水中散歩したい」
「そうだね。じゃあ行こうか」
そしてやってきたのは船底?的なとこ。床を含めてすべて魔法のシールドで覆われていて、外が丸見え。つまり海の生き物が見えるようになっている部屋だ。
「ここは私達後継者か守護者。それか私達に認められた人しか入れない場所だからね。優香みたいに騒がないように」
「わかってるよ。てか俺と優香を比べんな。あいつほど馬鹿じゃない」
「それ、優香に言っとくね」
「やめてください。でもお前だっていっつも馬鹿って言ってんじゃんか」
「それはそれ。これはこれ」
「どういう屁理屈だ!」
扉の前に立つと、扉の前に火・風・雷・水・光のそれぞれの刻印が浮かべあがった。凪が水の刻印に触れると青い光が数秒輝き、重い音を立てて扉が開いた。
一面青が広がっている。その中を大きさも形も色も違う魚や同じ種類の魚が群れをつくり泳いでいる。
「この光景を見られない優香がちょっと可哀想かも」
それほど綺麗な光景なのだ。竜也も頷いて
「ここならずっと厭きないかも」
二人はしばらく神秘的な世界に見とれていた。
所変わって優香が寝てる部屋。
「う゛~早くこの船から降りたい。気持ち悪い」
「優香ちゃん。酔い止めのお茶だよ~これでちょっとはマシになるはず」
「ありがとう。美麗ちゃん」
美麗からお茶を受け取り一気に飲みほす。少し苦いが、そこらで売られているのよりは遥かにマシだ。ほっと一息ついていると優也が遠慮がちに入ってきた。
「えっと・・・・・失礼します。優香、大丈夫?」
「大丈夫だよ。美麗ちゃんの薬のおかげでね」
「よかった」
楽しく談笑していると、突然ドアが蹴破られ
「優香~魅希と一緒に散歩しよ♪」
「却下!」
即答するがまったく聞いておらず、抱きついてきた。
「うわっ。気持ち悪いから離れろ」
顔をしかめつつ魅希を押しやると、魅希が潤んだ瞳で
「魅希の事・・・・・・嫌い?」
とか言ってきたので迷わず
「あえて言うなら苦手かな」
「優香の意地悪~」
「なんでそうなる」
なんとか魅希を引き剥がし服の埃を払っていると、連夜が顔を寄せてきた。
「一緒に甲板に出ない?魅希がうるさいし逃げるのにちょうどいいじゃん」
「賛成」
こうと決めたら行動は速い。なおもしつこく追ってくる魅希を振り切り甲板へと走る優香と連夜。後ろからのんびりした声で
「あんまり走らないように~凪さんが怒るよ。この船凪さんのだし」
「わかってるよ。努力する」
甲板へ出ると心地好い潮風が吹いている。船が揺れると気持ち悪いが、そこまで酷くはない。美麗の特製酔い止め茶のおかげだ。心底から感謝していると、連夜が手を引っ張ってきた。
「優香。ぼけ~っとしてないで来いよ」
「ちょっ・・・引っ張るなって。おい、人の話を聞け!」
「聞いてる聞いてる」
「絶対聞いてない」
言いながらも足を動かす。手摺につかまり海を見る。青く澄み太陽の光を受けてきらきら輝いている。
「綺麗」
海に来たのは二十回未満だが今日の海はその中で一番鮮明に脳に刻まれた。きっとこんなにのんびり出来る時間は限られている。
だからこそ、この限られた平和な時間を満喫しに海へ来たのだ。緋寒達には内緒で。風華は知ってるが。
「風が気持ちいいな~おっ、イルカ発見」
「どこどこ」
子供のようにはしゃぎながら指差す連夜。優香は連夜の指差す方向を見て
「イルカだ!カワイイ」
身を乗り出してイルカに見入っている優香。連夜は優香が落ちないように支えて、ため息をつく。
「後先考えず行動するくせを直せ。お前のお守りをする俺の身にもなってくれ」
文句を言うが、まったく聞いてない。イルカに夢中だ。一発殴ってやりたくなったが、深呼吸をして抑える。堪えろ。こんなの日常茶飯事じゃないか。我慢するんだ。俺。
必死に自分に言い聞かせている連夜など気にも留めず、イルカに手を振っている。
まぁ、こんなにのんびり出来んのは今だけだろうし許してやる「優香~魅希と一緒に遊ぼう♪」
最後の言葉を言い終わる前に優香の手を掴み、問答無用で引きずっていく魅希。優香は振り払おうとしながら
「離しやがれ!お前なんかと遊ぶぐらいなら海に落ちたほうがマシだ!!」
「もぉ~優香ったら~恥ずかしがっちゃっ「誰が恥ずかしがってるって言った!この馬鹿」
「え~魅希に決まってんじゃん。優香って馬鹿なの?」
「お前はっ」
怒りのあまり瞳が真紅に変わっている優香はガミガミ魅希を怒鳴りつけている。だが魅希が聞く訳もなく、会話がまったくかみ合ってない。第三者からの視点から言わせてもらうと、見世物以外の何物でもない。
競り上がってくる笑いの渦を押さえ込むのに、全神経を使った気がする連夜。今笑ったら確実にとばっちりを食う。それだけは避けなければっ。
話し声がだんだん遠ざかっていく。その声も聞こえなくなり、連夜はようやく思う存分笑うことが出来たのであった。めでたしめでたし。
さて、こちらではまだ凪と竜也が水中を眺めています。そこへ
「なんか外が騒がしくない?」
凪が顔を顰める。竜也が耳を澄ますと確かに騒がしい。しかもその騒がしい何かがこちらに近づいてきている。
「確かに騒がしいな。ちょっと見てこようか?」
「いいよ。どうせ魅希と優香あたりが騒いでるんだろうし。ほっときなよ」
冷たく言い放ち、再び視線を戻す凪。竜也は扉を一瞥して視線を戻す。
ほっとけば聞こえなくなると思っていた騒がしい何かは、確実にこっちに向かってきている。そして
「ほ~ら。ここの景色超綺麗だから~。魅希には負けるけど」
「お前はその自称発言いい加減やめたら?軽く殺意が湧くんスけど」
この声は。
二人の脳裏にいつも騒ぎを連れ歩いている奴等の姿が鮮明に浮かんだ。
「なぁ、物凄い嫌な予感がすんだけど・・・・・さ。気のせいかな」
「私も物凄い嫌な予感がする。多分気のせいじゃないと思う」
二人は同時に顔を見合わせ、同時に扉に視線を向ける。
ドカッ
扉が真っ二つに割れ、粉々に砕け散った。その扉の残骸を跨いで入ってきたのは二人の予想通りのあの二人。
「魅希と優香」
「何してんだよ」
「凪と竜也!二人してデートかい?」
「騒がしい」
竜也は優香の言葉に頬を赤く染め顔を背ける。凪は物凄く迷惑そうに顔を顰めると文句をたれる。魅希は今までにないくらい楽しそうな笑い声をあげる。
「きゃ~。凪と竜がデートしてる~。邪魔してごめんね」
「うわっ!?何しやがる。コラ!魅希」
小悪魔のような笑みを浮かべてウインクするとぎゃあぎゃあ喚く優香の襟首を掴むと引き摺って出てく。竜也は更に頬を赤く染め、凪は魅希の微笑みに見惚れていた。
「
バタバタしてすみまでん。