第二十六話 祭り巡り
その頃、射的の屋台では。
「よし。また1等!」
「連夜様、もう勘弁してください。このままじゃ商品なくなってしまいますよ」
「連夜スゴ~イ」
腕におさまりきらないほど大量の商品を抱かかえている優香が満面の笑顔を浮かべる。連夜は得意げに笑って
「次はどこ行く?」
「わたあめ食べたい」
ポッケに入れといた袋に商品をつめながら楽しそうに言う優香。連夜は頭を押さえ、呆れまじりの声で
「これで何個目だよ。食いすぎだろう」
「だって美味しいんだもん」
子供のように頬を膨らませる優香。連夜はぽんぽんと優香の頭を叩いて
「はいはい、わかった。わかったから」
「わーい。わたがし屋へレッツゴー!」
無駄にはりきって走っていく優香を、出来れば見送りたい心境な連夜は
「行ってらっしゃい」
そう言うと同時に優香は戻ってきて
「連夜も行くんだよ。ほら、早く」
ぐいぐい手を引っ張られる。今ならこういう落ち着きのない子供を持つ親の気持ちが痛いほどわかる。連夜はそんな事を思いながら仕方なく足を動かす。
一方、こちらは金魚すくいの屋台。
「私って才能ないのかな」
「いや。金魚すくい出来る才能あってもあんまし得しないと思うよ」
落ち込む凪を慰める竜也。
「そうかもね。でもそういうのはまったく取れてない人が言うものであって、竜也みたいにたくさん取れてる人に言われても空しいだけだよ」
そう。凪は一匹も取れてないのに、竜也は十匹以上も取れているのだ。竜也は困ったように笑って
「えっと・・・ごめん?」
「なぜ疑問形」
「ごめん」
「謝んなくていいよ。別に怒ってるわけじゃないし」
竜也は数秒考えた後、店主にお金を渡し
「もう一回」
そして、凪に微笑みかけ
「一緒にやってみようよ。上手く出来るかもよ」
「これで最後ね」
「よし。まずはここをこうやって」
出来るだけわかりやすいように教えようと悪戦苦闘している姿を見て
ちょっとだけ可愛いかも。
そう心の中で呟いて、その考えが可笑しくて小さく笑うと、竜也は耳まで真っ赤にして
「笑うなよ」
どうやら自分の説明のし方を笑われてのだと思ったらしい。凪は口元を隠して
「ごめんごめん」
竜也の説明を聞きながらやってみると・・・・
「取れた!」
「すげぇじゃん」
竜也も自分の事のように喜んでいる。凪にしては珍しく子供のような無邪気な笑みを浮かべて
「ありがとう、竜也」
「どういたしまして。次はどこ行きたい?」
「そうだな。のど渇いたから飲み物でも買わない?」
「そうしよっか。確か飲み物の屋台は零さんが店出すって言ってったっけ?行こうか」
「うん」
こちらはかき氷屋さん。
「はぁ~お茶が美味しいね~」
「そうだね」
お茶を飲みながらかき氷を食べている美麗と、のほほんとした雰囲気で同じくかき氷を食べている優也だ。
「やっぱりシロップは宇治金時でしょ」
「俺はレモンのが好きかな」
「レモンも美味しいよね。あっ、お茶飲むかい?」
冷たいお茶を差し出す。優也は微苦笑を浮かべて
「じゃあもらおうかな」
「どうぞ~」
「いただきます」
冷たいお茶が臓腑にしみて美味しい。ふぅと一息ついて
「このあとはどこ行こうか」
「優君が決めていいよ。どこ行きたい?」
そう言われると迷う。駄菓子屋にも行きたいし、焼きそばも食べたい。焼き鳥でもいいかも。顎に手を当て悩んでいると、美麗が
「お悩みのようなんでお昼時だし、昼ごはん食べれるとこ行きませんか?」
「いいね。それじゃあ焼きそばと焼き鳥んとこ行かない?」
「そうしましょうか」
かき氷の容器を捨て、焼きそばと焼き鳥屋を目指して歩き出した。
そしてここは焼きそば屋。
「やっぱここの焼きそばは美味しぃ」
幸せそうな顔をして焼きそばを食べている橙架。その隣では、守弥が苦笑しながら
「美味しいのはわかるが、ゆっくり食べろよ。そんなに急いで食べなくたって焼きそばは逃げないから」
「焼きそばは逃げなくても美味しさは逃げる!」
「あ~はいはい。わかったから落ち着いて」
水を渡してため息をつく守弥。橙架は水を一息に飲み乾す。そして、ぐるりと首を廻らせて
「それにしてもすごい人だよね。去年より人多いんじゃないかな」
「そうだな。年々賑やかになっていくからな・・・・・なんだよ。俺の顔になんかついてんのか?」
橙架が顔に穴が開くぐらいまじまじ見つめてくるのでそう言うと、橙架は視線を逸らして
「違うよ。守弥ってみんなの前では敬語なのに、何で私の前では敬語じゃなくなるの?」
「あぁ、その事か。そりゃ俺がお前の守護者だからだよ。前にも言っただろう」
「そうなんだけど・・・・」
ふつりと黙り込んでしまった橙架を心配そうに見て
「どした?」
「優香に言われたんだよ。守弥が敬語でしか話してくんないよ~ってさ」
守弥は眉をひそめ困ったように笑って
「長年彩夜の元にいたからその時の癖が抜けないんだよ。努力はしてるんだけど・・・・・なかなかうまくいかないみたいだ」
最後のほうは自分を責める口調になってしまった。自嘲気味に笑っていると、橙架が勢いよく立ち上がり
「暗い雰囲気は苦手なんで・・・・よし、的当てか射的やろうよ。行こう、守弥」
「はっ?俺はそんな子供っぽいものやらなっ・・・離せ!」
「たまにはいいじゃん」
「よくねぇッ」
「守弥。お兄さんとおんなじ様な口調になってきてるよ」
「ほっとけっ」
軽口を叩きあいながら歩いていく二人を、眩しい昼の日差しが見守っている。
さて、残った最後の一人はリンゴ飴を買っていた。
「おばさん。リンゴ飴一つね」
「はいよ」
お金を払ってふらふら歩いていく。周りには刀を売っている店もあれば、魔法書を売っている店もある。
「そこのあんた。安くしとくよ~!」
「滅多に手に入らない『禁断の魔法書』。なんといつもの半額。買わなきゃ損」
そんな掛け声が飛び交っている間をリンゴ飴を食べつつ歩いていると
「わたがし美味しい♪」
「そりゃよかった。慌てずゆっくり食べろよ」
「うん」
親子のような会話を交わしながら歩いてきたのは
「優香と連夜か」
「ん?克弥じゃん。何食べてるの?」
「一人か。零さんはどうした」
「俺が食ってるのはリンゴ飴で、零さんなら店番に行くって」
優香は考え込むような仕草をしながら
「そういえば零兄、店番するから来てねって言ってたような・・・・」
「零さんが店番するってことは緋寒が店主の屋台だろう?確か飲み物とか売ってるとこじゃなかったか」
「じゃあそこ行こう。リンゴ飴買って」
「はいはい」
連夜が苦笑いして克弥に「お前も来るか?」と問いかける。
「もちろん」
気分が弾んだのがわかった。
「いらっしゃい、って優香達じゃん」
「よっす、零兄。ラムネ三つね」
「ハイハイ」
ニコッと微笑み三人分のラムネを水から上げる。優香がお金を出そうと財布をだすと
「お金はいいよ。奢るから」
三人は目を瞬き、同時に
「「「いやいや。それは悪い(っスよ)」」」
「いいからいいから」
水から上げたラムネをタオルで拭き、三人に押し付ける。優香は数回瞬きしてから「じゃ、ありがたく」と言って栓を開ける。連夜は更に数回目を瞬いてから「いただきます」と一言呟き、同じく栓を開ける。
「えっ?そこのお二人さん。奢ってもらうの?悪いとかいっときながら?」
克弥がラムネと零を交互に見ながら二人に問うと、二人は顔を見合わせて
「だっていつもの事だ「断る言葉を考えるのがめんどくさい」
連夜の言葉の途中で自分の言葉を言う優香。
「断る理由を考えるのがめんどくさいって・・・・・なんて適当な理由」
克弥は呆れたように笑い、零に「じゃあ、いただきます」と言い飲む。連夜は優香の頭を軽く叩き
「俺の言葉を遮るな」
「ごめんごめん。これからは気をつけると思う」
「思うかよ」
頭を今度は少し強く叩く。優香は頭を押さえて連夜から離れ、克弥の背中に隠れて
「間違えた。これからは気をつけようと思う」
「同じじゃねぇか」
連夜が優香を追いかけ、優香が逃げる。自然に克弥の周りをぐるぐる回るようになり、克弥は最初こそ黙っていたが
「おい!退け馬鹿克弥。優香を捕まえられないじゃんか」
「退かなくていいよ、克弥。連夜に捕まっちゃう」
好き勝手言いまくる二人。克弥はさりげなく連夜の前に足を出し連夜を転かす。連夜は優香を追うことに躍起になっていたのでまともな受け身すらとれず、派手に転んだ。結構痛そうだ。
「っ・・・・・・何しやがる!!」
モロにぶつけた額を軽く撫でながら連夜が怒鳴る。まぁ怒る気持ちはわからないでもないが、自業自得な気がするな。零が成り行きを見守りながら心の中で呟く。間違っても声には出さないよう細心の注意を払って。とばっちりを食うのはごめんだ。
「それはこっちの台詞だ。本人無視してよくも勝手に言ってくれやがりましたね、君達」
「克弥君?ちょっと言葉遣いおかしいよ」
優香がゆっくり後ずさりながら言うと、不自然すぎる笑みを顔に張り付け
「そんなことあるわけねぇじゃないですか」
「うん。訂正。かなり変だよ」
「なにしてんの?優香達」
声のした方を見ると、凪と竜也が不思議そうにこちらを見つめていた。優香は助かったと言わんばかりの顔で竜也の後ろに隠れ
「克弥が壊れてるんだよ」
「俺は機械か!」
「克弥が壊れてる?そんなのいつもじゃん」
竜也がさらりと普通に言い放った。克弥は標的を変更し、竜也を追いかけ始めた。竜也は「ホントの事言ってなにが悪い」と言いつつ逃げている。
「うっさいなぁ」
凪が心の底から迷惑そうに呟く。優香は困ったような笑みを浮かべている零に
「私お腹減ったから焼きそば買ってくる。零兄もいる?」
「頼むよ。この調子じゃ長引きそうだし、お客もこないだろうし」
「連夜と凪はいる?」
二人が頷いたので「めんどくさいから克弥と竜也分も買ってくる。どうせお腹減ってるだろうしさ」と言い、焼きそば屋へ走っていった。
「行ってらっしゃい」
後ろから聞こえる何かを殴る音や罵り合いを綺麗に無視して優香に手を振る凪と連夜。零は後ろを見て「やっ・・・やめなよ。二人とも」と言っているが、頭に血が上っている二人の少年には届いていない。
「これ、どうすれば止まるかな・・・・・連夜、凪、いい案ある?」
「う~ん。俺はこのまま見てるのが面白いと思いますよ」
「まったく思いつかないですね。零さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ほっとけばそのうち止まるよ」
これに小指の先ほどでも感情がこもってれば「あぁ、凪は心配してるんだけど素直に言えないのか」とか思ったかもしれなかったが、まったく感情がこもってない。それどころかもはや、後ろの喧嘩など無きものにしてのんきにラムネを飲んでいる。
「・・・・・・・・・・・・・・そう」
引き攣った笑顔を浮かべて苦笑いする零。近くに置いといたお茶に手を伸ばし、一口口に含み
「優香が戻ってきたら止めさせるか」
更に騒ぎが大きくならないよう祈りながらお茶を飲み込んだ。