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闇と光  作者: 桜咲 雫紅
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第二十話 優香VS彩夜

光があれば闇がある


闇があれば光がある


光と闇が合わさるとき この世の繁栄なり


光と闇が分かれるとき この世の終焉なり


選ばれし後継者達よ 己の信ずる道を行け


選ばれし守護者達よ 守るべき者と共に歩め


繁栄は光にある 終焉は闇にある





《それなんてうた?》


まだ幼い、一番初めに聞いた声だ


《うたじゃないよ。詩だよ》


《詩?》


《そうだよ。えっとね。とうさんがいってた。ずっとむかしからかたりつがれている詩なんだって》


《ふーん。わたしにもおしえてよ》


疑わしそうな目で睨み


《てかあんただれ》


《わたし?わたしは彩夜っていうの。よろしくね》





ギリッと唇を噛み締めて過去の記憶を振り払う。今はこんな事を思い出している場合じゃないのだ。すぐに大勢の人を集めて命令を発す。


「まずは壊された祭りのセットを直す。後継者と守護者は彩夜の探索。見つけたら攻撃はせず、場所を私に報告」


『了解しました』


四方八方に散っていく。連夜が場違いながら感心したように


「こういう時に優香の言動がリーダーっぽくなるな」


「そんな事言ってる場合か」


優香達のあとからやって来た竜也が頭を小突く。連夜は眉間にしわを寄せて竜也の腹に拳を叩き込む。竜也はギリギリで避けて、代わりにボーっと立っていた克弥の腹に直撃。


「ぐぇ!?」


カエルが潰れたような声を出す。連夜が目をパチパチさせて、自分の手を見下ろして


「悪い克弥。間違えた」


「許せるか!」


憤然と眉を跳ね上げる克弥。凪が必死に笑いを堪えている。燈架が気の毒そうに目を細め、零が克弥の肩に手を置く。若干引き攣った顔で


「落ち着きなって。俺らは彩夜を探すよ」


「こいつを一発殴ってからだ」


視線に殺傷能力がないことを物凄く後悔している克弥。視線に殺傷能力があったら、おそらく連夜は致命傷を受けている。


「うるさい」


ボソッと呟いた瞬間、雲ひとつない晴天の空から稲妻が落ちてきた。ありえないほど正確に克弥のとこへ。


「ぎゃ~!!」


プスプス煙を上げつつ倒れる半死半生の男一名。優也があわあわしながら恐る恐る克弥を突く。


「克弥君・・・生きてるかい」


「なにしてんの?優也。てかそれなに」


一部始終を見ていなかった優香が、優也が突いているものを興味津々に覗き込む。優也が微苦笑を浮かべつつ


「一応克弥君なんだけど・・・」


「はっ?この真っ黒焦げの屍があの克弥!?冗談でしょ」


目をむいて食い入るように真っ黒焦げの克弥らしい物体を見る。確かに克弥に見えないこともないが


「誰がやったか大方予測がつくけど、自業自得?」


「まぁ、ある意味自業自得な気もしないでもないような・・・・・」


燈架が困ったように頭を掻いてる。


「ふーん。まぁ軽く応急手当しといてやるか」


荒っぽいかつ大雑把に包帯を巻いて


「よし。じゃあ皆彩夜を探しに行くよ」


「「「おう」」」


「「「うん」」」





「彩夜、見つけたら顔が原型留めなくなるまでぶん殴ってやる」


物騒な唸り声を上げつつ神経を研ぎ澄ます優香。彩夜はおそらくここ(光)に留まっている。彩夜が祭りのセットを壊す意味は定かではないが、あいつの目的は光をのっとる事。なら光が浮き足立ってる今、事を起こすには絶好のチャンスだろう。


「あいつの考え・・・わかんねぇや」


昔は彩夜の思考はだいたい読めた。だが今はまったくと言っていいほど理解出来ない。まぁわかりたくはないけど。


「どうしてこんな事になっちゃったんだろう・・・・・」


叶わないだろうが幼少期に戻りたい。あの頃が一番幸せだった。なにも考えなくてよかったから。重い責任や立場、身分を考えずにすんだから。なら今不幸なのかと問われると、そうでもない。大切な友もいるし、口うるさいが父もいる。自分を慕ってくれる人々もいる。むしろ、昔より幸せだと思う。だが


「後継者とか、守護者とかじゃなかったら・・・・それと、この時代にあれがこなきゃ」


そう。後継者という見えない壁が目の前に立ちはだかる。この壁さえなかったら、彩夜もここまで。だからこそ自分が


「私が彩夜を止める。それしかないんだ」


少し悲しみが混じった声で自分自身に誓うように呟いた。


「出来るもんならやってみなよ」


「!!」


頭上から降ってきた声につられて顔を上げようとした時、鼻孔に甘い香りが入り込む。思わず息を呑み口を塞ぐが


ヤベッ少し吸っちまった。


自覚した途端頭の芯がぐらりと揺れた。舌打ちしたい気持ちを抑え、風で吹き飛ばす。清浄な空気が戻ってきた。


「やるね。でも、これは少し吸っただけでもアウトだよ」


「催眠系の・・・・魔法・・・・・っ・・か」


消えそうな意識を必死にたぐり寄せながら言う。彩夜は軽く目を見開いて


「まだ喋れるんだ。さすが火の後継者にして歴代最年少の最高指揮官だね」


彩夜の声が遠くから聞こえる。沈みそうな意識の中でボンヤリとそんな事を考えてる優香。体から力が抜け、片膝をつく。


これは本格的にまずいな。


力がうまく入らない手で、腰に差してある短刀をひき抜く。そのままの勢いで左肩に突き立てる。


「そうこなくっちゃ」


クスッと小さく笑みを零す彩夜。優香はうめき声をもらさないように唇を引き結ぶ。痛みで催眠魔法の効果を無効にしたのだ。


彩夜は優香の一歩手前に着地して、肩からぽたぽた滴り地面に溜まってく血を無感動な表情で見下ろす。


「余裕の・・・・・つもりか・・!」


短刀を横にふる。彩夜はとんぼ返りをして避ける。肩で息をしながら立ち上がり、上に羽織ってた服を脱ぐ。そしてその服を破り、きつく肩の傷口を縛る。


「もう動けるんだ」


ふふっと人のカンに触る笑い声を上げる彩夜。優香は無言で刀を抜き、構える。


「やる気?あんた程度の実力でホントに私に勝てると思ってるの」


「やってみなきゃわかんないでしょ!」


語尾を放った瞬間、走り出し彩夜に斬りかかる。彩夜も刀を抜き、優香の刀を受けた。一合、二合、魔剣同士がぶつかり合い最大な火花が散る。


「左腕を庇いながらどこまでやれるのかな」


すすっと死角に移動し、あっと思ったときには視界の隅に閃光が走る。


「くっ・・・」


体勢を崩しながらもなんとか避ける。頬に血が伝う。避けきれず薄皮一枚斬られたようだ。


「惜しい。あともう少し下だったら頚動脈だったのに」


刀を左右に振り回しながらさらりと言う彩夜。優香は頬の血を手の甲で拭い、刀を肩に担ぐ。


「腕が鈍ったんじゃないの。鍛錬しないからそうなるんだよ」


嘲るように笑うと彩夜は冷たい笑みを顔面に張り付け


「そう言うあんたは動きが鈍いみたいだね。太ったんじゃないの」


ブチッと何かが切れた音が聞こえた気がする。優香は真紅に染まった瞳で彩夜を睨みつけ


「軽口叩いてる暇があったらかかってこい」


「言われなくても」



バチバチバチ



魔剣同士が何度もぶつかり合い、桜色と黒の閃光が走る。頬に、腕に、足に、次々に浅く血が滲む。ぜいぜいっと喘ぎつつ二人はいったん離れ、相手の出方を伺うように睨みあう。技量はほぼ互角。迂闊に隙を見せれば殺られる。


左腕を使えない分こっちのが不利。さて、どうする。


左腕を一瞥し、苦渋の色を浮かべる。この傷さえなければ・・・。今さらだが悔やまれずにはいれない。


「このままやれば、あんたは負ける。それとも、内なる力でも解放する?」


あぁ、その通りだ。だが、内なる力を解放する気はまったくない。この力を解放しなくても勝つ。


「それはお前が決めることじゃない。私は今のとこ死ぬ気はないんでね」


力強く言い切る。刀を鞘に納め、ゆっくり息を吸い、魔力を高めていく。


「魔法勝負か」


低く呟く彩夜。その彩夜を取り巻くように黒い風が集まってくる。逆に優香の方には白い風が流れ込んでくる。対極の色が優香と彩夜の真ん中でぶつかり合う。優香は胸元を押さえて苦しそうに息を継ぐ。最初の睡眠魔法を吹き飛ばす為に使った魔力、そして血が流れると共に削られていく体力、最後に彩夜との斬りあい。この十四歳の子供、優香が持ちえる体力、魔力共に限界が近づいているのだ。


「魔力が足りないみたいだね」


勝ち誇ったように高らかに言い放つ彩夜。浅く速い呼吸を繰り返しながらも、まだ力を失っていない真紅の瞳で彩夜を睨む。彩夜ははっと鼻で笑い


「魔力、体力共に尽きた無力なお前になにが出来る」


「確かに、私の体力も魔力両方とも限界だ。でも・・・」


いったん言葉を区切って己の手のひらに視線を落とす。微かに痙攣しているその手を握りこみ、再び顔を上げる。にっと不敵な笑みを浮かべはっきり宣言する。


「お前だけには負ける気はない」


「しょせん強がりか」


「そうかもね。だけど、私の大事な国の祭りを台無しにした罪は償ってもらう」


そう言うや否や彩夜に向かって走り出した。


「相打ち狙いか。いかにもあんたが考えそうな手だな」


「言ったはずだ!私は死ぬ気はないと!」


今んとこねっと口の中で呟き、動かない左肩の傷口を思いっきり掴んだ。


「なっ!!」


さすがに予想だにしていなかった優香の行動に彩夜の動きが一瞬鈍る。その隙を逃さず、痛みで無理矢理感覚を取り戻した左手で刀の柄を掴む。彩夜の間合いに入り、右斜め上から左斜め下に向かって刀を振り下ろす。わずかに遅れて紅い剣筋にそって血があふれ出す。ただし、傷が浅かったため彩夜はすぐに間合いを開ける。


「なんで・・・・・・」


唸るような声を出す。


「なんで剣筋を変えた!優香」


「かんねぇよ・・・」


風に溶けてしまうくらい小さく呟く。当然聞こえなかった彩夜は


「もっと大きな声で言えよ!」


「私にもわかんねぇよ!体が勝手に動いちゃったんだから」


そう。気づいたら右腕が動いていたのだ。左腕を掴み、剣筋を変えていた。何でという思いもあるが、これでよかったんだという思いも自分の中にある。


彩夜が再度何かを言おうとした時


「彩夜様!」


新手が彩夜の前に降り立った。雷音だ。雷音は満身創痍の優香を見て、眉を顰める。


「彩夜様。ここは退きましょう。時間ならあります。愛美様が抜け道を用意して下さってます」


「わかった」


優香をちらっと見て、身を翻す。風が彩夜達の体を取り巻く。刹那、二人の姿が掻き消えた。


一気に気持ちが緩み地面に座り込んだ。肺が空になるほど息を吐き出し、左肩を押さえる。まぶたが鉛のように重い。意識が闇に引きずり込まれる。最後に見た光景は急いで駆け寄ってくる見覚えのある男の姿だった。

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