第十七話 魔の山でダイビング!?
眼下には美しい町並みがある。いつもは上から見る機会がなかったので、優香と守弥と連夜以外の全員が息を呑んで見つめている。
しばらく経った時、下の町から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「皆~魅希ね、あれが欲しいんだ~買って♪」
「「「「うわっ。出た」」」」
凪と守弥を除く口から同じ言葉が漏れた。下を見てみるとピンクのワンピースできわどい所までスリットが入ってるど派手な服を着た魅希が、数百人にも及ぶ男子を引き連れて歩いていた。ちなみに魅希が欲しいと言った物は、高価な化粧品類やその他諸々だ。
「ね~え~お願い」
『わかりました。魅希様』
男共の声が響く。とてつもなく
「「「「「「うるさい」」」」」」
今度は全員の声が重なった。互いの顔を見合って吹きだす。
そこを通り過ぎてから数十分後。今度は一軒のお茶屋さんに美麗と優也が居た。
「あっ、美麗ちゃんだ。美麗ちゃ~ん」
優香が子供のようにはしゃいでいる。凪が呆れ混じりに
「この距離じゃあ聞こえないよ」
と言っているが、優香は聞く耳をまったく持たず美麗に手を振っている。が、美麗は気づかず団子頬張り、お茶を飲んでいる。
「美麗・・・それ二十本目だよ。いい加減やめといたほうが・・・・・・」
「優也もいるかい。みたらしとあん団子どっちがいい?」
「じゃあみたらしで・・・・・って違うから」
思わず受け取ってからそう言うが、美麗はまったく意に介さず団子を食べている。
「相変わらずだね」
連夜が口元を隠しつつそういう。
「ニ十本って食べすぎだろう・・・」
克弥が頭を押さえつつそういうが、竜也が
「俺はわかる気がするな。雷の国の茶屋は美味い団子があるから」
「「確かに」」
凪と優香が同意する。
「そうなんですか。僕も今度食べてみようかな」
守弥が呟き、優香が
「それがいい。なんなら美麗ちゃんに案内してもらいなよ。茶屋の場所なら知り尽くしてると思うよ」
「そうします」
そうこうしてるうちに目的地が見えてきた。
近づくにつれて、何故ここが魔の山と恐れられてるかがわかる。人をまったく寄せ付けない断崖絶壁に加え、なんとなく気味が悪いのだ。
だが優香は宝物を目の前にした子供のように無邪気な笑みを浮かべ
「もうすぐ見えてくるよ。空中散歩で偶然見つけた秘密の場所が」
その言葉通り、すぐに秘密の場所が視界の端に見えてきた。
「「「「「うわぁ」」」」」
計五人の感嘆した声だ。山の頂上が窪んで満々と水をたたえた湖になっている。湖は透き通っていて、底が見える。様々な色の魚の群れが泳いでいる。これは今まで見たどの景色にも負けず劣らず美しい眺めだ。
「綺麗」
凪の唇から素直な感想が零れた。優香が意味ありげな笑みを浮かべつつ
「湖の中にはいろんな種類の魚がいるんだよ」
「泳ぎたいなあ」
「じゃあ泳いできなよ」
凪が聞き返す前に突然空中に投げ出された。目を見開いて周りを見ると、克弥、連夜、守弥、竜也も同じように落下している。上を見ると、優香が手を振ってるのが見えた。
「くっやられた」
急いで魔力を足の裏に集中させて、体勢を立て直して足を下にする。物凄いスピードで落下していく中でその体勢を保つのは骨が折れたが、唇をかみ締め落下していく。他の皆は凪ほど状況把握が出来ておらずただ落下していくだけだ。守弥はさすがとでも言おうか。冷静に状況分析をし、自らの体を風で包み込む。それらを上空から見ている優香は不敵に笑んで
「さすが風の守護者。燈架に選ばれただけはあるな。凪もなかなかやるじゃん」
バッシャーン
盛大な水しぶきがあがり、最初に克弥、次に連夜、竜也の順に湖に突っ込んだ。凪は水の上に波紋ひとつ立てず着地した。そしてしゃがみこんで安堵のため息をついた。守弥も少し離れた場所に着地し、湖の中を覗き込んでる。
「クスッ。いい気味だ」
凪も同じように湖を覗き込みつつ呟く。
凪の三歩先に気泡が上がった。見つめていると克弥があがってきた。だがあがれないらしく首から下はまだ水の中だ。次いで連夜もあがってきた。竜也の姿はない。
克弥は頭を軽く振って水を飛ばし髪をかきあげて
「冷て~ったく。優香の奴やることが無茶苦茶だろう。そう思わないか」
「ウザッ」
一言言い放ち克弥の頭を押さえて再び水中に突っ込む。しばらく気泡が上がっていたがやがてそれも消えた頃ようやく手を放し
「・・・・・・・・死んだか」
「ヒデェ」
ボソっと呟いた連夜。ここまで容赦ないとは。そのとき、凪の後ろから
「水も滴るいい男♪ごへっ!」
その言葉が言い終わった直後、凪の裏拳が容赦なく優香の顎に炸裂した。痛そうだ。
優香はそのまま後方に吹っ飛び、水の上に大の字に倒れこむ。それと入れ替わるように竜也が水の中からあがってきた。そして大の字に倒れている優香を見て
「なにがあったんだ・・・・・」
その後、克弥も無事に浮いてきたので回収して、魔力で水気を飛ばし優香の風で上空へ。
「おい優香。いきなり何してくれたんだ」
「寒くて凍え死ぬかと思ったぞ」
「いくら暖かくなったとは言えまだ五月の終わりだぞ。俺らを殺すきか」
詰め寄る三人を手で押し返しながら
「まぁまぁ。気持ちよかったでしょう」
「「「反省しろ!」」」
「ハイハイ、反省してますよ」
「はいは一回」
「はい」
俯いて叱責に耐える優香。三人も反省したと思い説教をやめる。三人が優香から視線を外したとき、優香と凪が目配せしあったのには誰も気づいてない。
「よし、そろそろ帰ろうか。もう昼過ぎてるし」
竜也がそう言い、克弥がそうだな、と言った瞬間再び三人の足元から支えていた風が消える。
「これってまさか」
「さっきと同じ展開」
「てことは」
「「「優香ぁ!」」」
と怒鳴りつつ落ちていく三人。優香と凪はハイタッチして
「やった~成功」
「上手くいったね。凪」
守弥が目の前ではしゃぐ二人と、おぼえてろ~とかお決まりの台詞を言いつつ落ちていく三人を交互に見つつ苦笑を浮かべてる。
再び派手な飛沫があがり三人は湖に突っ込んだ。が、先ほどので学んだようですぐにあがってきた。そして口々に叫びだす。
「おい!何してくれんだ、優香!」
「降りて来い!一発ぶん殴んなきゃ気がすまない」
「凪もグルか!いつの間に協力してたんだ!」
三人の怒声を綺麗に聞き流し
「さて、帰るとするか。腹も減ったしね」
「そうしよう。今日の昼ごはん何かな。優香はなに食べたい?」
「チャーハン」
「僕もご一緒してよろしいですか」
「「もちろん」」
楽しそうにワイワイ騒ぐ三人を恨めしそうに見上げる下の三名。そのまま飛び去っていく優香達を見て
「「「置いてくな!」」」
「じゃあね~頑張って。克弥と連夜は私の守護者なんだからこのくらい簡単でしょ」
「そうそう。竜也も私の守護者ならこんくらいの事出来なきゃね」
優香と凪が交互に言う。守弥は爆笑している。
そして、克弥達から見えなくなったら近くの木に止まる。
「どうなるかな」
「三人とも負けず嫌いだから、楽しいことになりそうだね」
「兄さんは足だけ速いですからね。誰が先に水の上に立てるかで決まりますね」
一方の湖の中では。
「あいつら言いたいこといいやがって」
「思い知らせてやる」
こういう時だけ意気投合する克弥と竜也。連夜だけは冷静に目を閉じて優香達の魔力の残滓を追う。
「絶対見返してやる。行くぞ竜也」
「よしきた」
二人同時に水から飛び出し、優香達が去って行った方向に向かって走り出す。人間ではありえないほどのスピードだ。連夜は二人を無言で見送り、誰も居ない場所に向かって
「お前らもいい加減出てきなよ」
「やっぱり連夜にはバレてたか」
木から飛び出してきた優香と凪と守弥。連夜は薄く笑みを浮かべつつ
「当たり前。小さいときから優香と悪友やってたんだから、わかんないはずはないよ」
「違いない」
凪がつまらなそうにそっぽ向く。連夜と凪はなぜか相容れないのだ。まぁその話はまたあとで。
「そろそろ帰りましょう。各当主方がお待ちになってるでしょうし」
「説教がお待ちになってるの間違いでしょ」
優香は物凄く嫌そうに顔を顰めつつ呟く。連夜も若干嫌そうだ。
余談だが、昔説教された回数が一番多かったのが魅希と優香と連夜なのだ。ちなみに説教されたことが一番少ないのが燈架と美麗と優也。
優香の風で空を飛びつつ城に向かっていると、前方で小さな砂煙が上がってる。見てみると、克弥と竜也が普通の人間ならありえない速度で走っているのが見えた。守弥は苦笑いしつつ
「兄さんと竜也様は相変わらず足が速いですね」
「体力馬鹿だからね」
連夜がバカにしたように鼻で笑う。
「連夜だって体力馬鹿じゃん」
「あんな奴らと一緒にすんな!」
横で始まった言い合いをうるさそうに睨む凪。その凪をなだめるように守弥が
「落ち着いてください、凪様。深呼吸です」
「敬語をやめろ!」
ギロ、と睨みつけると
「睨まないでください」
そんな会話をしているうちに優香達は寮に着いた。寮の玄関に着地すると
「よっ遅かったじゃねぇか」
「俺らのが早かったようだな」
克弥と竜也が勝ち誇るように腰に手を当ててる。
「そうみたいだね・・・」
欠伸しつつ適当にそう言う優香。あきらかにどうでもよさげだ。凪にいたってはさっさと食堂に向かって行く。
「皆さん、こんなとこに突っ立ってないで早く中に入りましょう」
守弥がパンパンと手を叩いて入り口の扉を開けた。
「そうしよう。今日の昼食なにかな」
スキップしながら食堂へ走っていく。連夜がそのあとを追い、守弥、克弥、竜也と続く。
食堂に入った途端、美味しそうな香りが鼻孔をくすぐる。優香が無邪気に笑いながら
「よしっいただきま~す」
机に綺麗に並べられていたご飯に飛びつく。今日の料理当番だった風華と翡翼が顔を見合わせてしまったほどだ。
他の人は行儀良く手を合わせ、優香の食べっぷりを横目で見ながら食べ始めた。ちょうど凪が優香のほうを見た時、
優香はご飯を勢いよく口に詰め込みすぎたようで、連夜に背中を叩かれていた。それを見た人全員が爆笑している。もちろん凪も含めた全員だ。
皆と一緒に笑いながら
いつからこんなに楽しくなったっけ・・・・いや・・・いつからこんなに仲良くなったっけ。