表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇と光  作者: 桜咲 雫紅
17/35

第十六話 仕事をサボって・・・

それから一週間と少し経ったある日の最高指揮官室。


心地よい風が開け放たれた窓から入ってくる。それに加えて、柔らかい包み込むような日差しが差し込んでいる。それが眠気を誘ってるのだ。


仕事机に突っ伏しながら書類をぼんやりと眺めている優香。仕事をしなきゃいけないのはわかっている。だが、昨日は昨日で仕事が片付けず、徹夜して終わらせたのだ。そのせいで睡魔が半端ない。都合の良いことにうるさいあいつらも居ないことだし、一眠りするかと思って目を閉じたそのとき


「起きろ!仕事サボるな!」



ゴスッ



怒声と共に、頭に重い衝撃がふってきた。


「――――――――――――――っ!!」


突然のことで頭を押さえ、痛みを堪えるしか出来ない優香に向かって


「仕事サボって居眠りしてるからだよ」


優香は声の主を仰ぎ見て、その手が握ってるものを見てギロッと睨みつける。


「だからと言っていきなり鞘で頭をブッ叩くな。頭が悪くなったらどうしてくれるんだ!克弥」


克弥に詰め寄る優香の肩を連夜が叩いて


「大丈夫大丈夫。優香の頭はこれ以上悪くなりようがないから」


「どういう意味だ!」


「そういう意味だよ」


食って掛かる優香を軽くいなす連夜。克弥は笑みを浮かべて


「まぁまぁ落ち着いて」


「落ち着けるか!」


聞く耳を持たないというのはこういうことだろうか、と小声で感心してる連夜。二人を交互に睨みつけて


「お前らこそ人に仕事を押し付けるな!自分らの仕事まで私に押し付けやがって」


「そんな事してないよな、連夜」


「あぁ、人聞きの悪いことを言わないでくれないかな、最高指揮官さん」


「人聞きもなにも事実を述べてるだけだ!」


不毛な言い争いを続けていると


『何をやってるんだ、お前らは』


『毎度ながら騒がしいことこの上ないね』


呆れたような呟きが頭上から降ってくる。


「紅輝、朱音。どこ行ってたんだよ」


優香が不機嫌なのを隠そうともせず問うと


『新しい書類だ』


言いづらそうな紅輝を尻目に朱音がはっきり言った。優香は嫌そうに顔をしかめて


「まだあるの・・・・・冗談でしょう」


ガクリッと項垂れる。今日だけでいったい何百枚の書類を片付けなくてはいけないのか。


『そう気を落とすな。俺も出来るだけ手伝うから』


項垂れてる優香の頭をポンポン叩き、書類を整理し始める。


「ありがとう、紅輝。お前らも少しは見習え!」


『優香~そんなに怒らないで?俺もお仕事手伝うから。ね?』


『俺も手伝う~』


「紅蓮、夕軌。ありがとう」


お礼を言ってから、残り二名を睨みつではなく見つめる。


「わかったわかった。俺も手伝うよ」


連夜が両手を挙げてそう言うと、克弥も


「仕方がないな。手伝えばいいんだろ。ったく」


物凄く嫌そうに顔を顰める。






それから数分後。


「厭きた~」


「真面目にやれよ~」


「はぇ~よ」


という声がため息と共に室内に響く。


「うるさいぞ、ていうか・・・・」


仕事机から立ち上がり、を睨む。


「くつろいでなにもしてないお前らに言われたかねぇよ!」


克弥はソファーに寝そべり、お菓子を食べつつ漫画を読んでいる。連夜は椅子に座り、こちらも同じく漫画を読んでいる。仕事の書類はすべて優香の書類に加えている。


二人は優香の怒鳴り声を綺麗に無視して、のんびりくつろいでいる。


『優香、落ち着け。深呼吸だ』


「落ち着けるか!」


『本日二回目だね』


朱音が呟く。


『優香~怒っちゃヤダ』


紅蓮が優香に体をすり寄せる。夕軌も同じように体をすり寄せる。適当に深呼吸して気を落ち着かせる。そして、書類の山を見て


「こんなの終わりっこないよ。・・・・・・・・・・そうだ」


立ち上がり、書類の山に向かって手を振って


「風よ」


と囁くように言う。すると、風が書類を取り巻き整理し始めた。次いでペンや印鑑に手を振ると、それらにも風が流れて動き始めた。優香は満足げに頷き


「よし、これで仕事は終わりっと。さて、緋寒に見つかる前に逃げますか」


そう言って、窓枠に足をかける。


「どこ行くんだ?」


連夜が問いかけると、優香は楽しそうに答えた。


「凪んとこ。どうせあいつも仕事に嫌気がさしてるころだろうしね」


『俺はお昼寝してる~』


紅蓮がそう言うと、夕軌も


『俺も~』


と言い、二匹は寄り添い丸くなって目を閉じた。紅輝は疲れたようにため息をついて


『俺もパス。行ってらっしゃい』


『私も行かない。風の面倒見とくよ』


「わかった。じゃあ行ってくるね」


そう言い残し、優香は窓から出て行った。克弥と連夜は互いに顔を見合わせて


「俺は行くけどお前は?」


克弥がそう言うと、連夜は窓枠に手をかけ、下を覗き込みつつ


「行くに決まってる。優香と居ると退屈しないし、仕事にはうんざりしてたとこだ」


「そうか」


二人は笑い合い、慌ててそっぽ向き外へ飛び出した。





「報告事項は以上でございます。凪様」


「堅苦しい呼び方はしないでって何回言わせるの?守弥」


凪は嫌そうに顔を顰めつつ自分の目の前に立つ男の子、守弥を睨む。


「申し訳ありません」


全然申し訳なさそうに謝る守弥。竜也が口元を隠している。おおかた笑みを隠しているのだろう。


「だから敬語はやめろと・・・」


頭を押さえつつそう言うと、守弥は悪戯っぽい笑みを浮かべる。ここに一般の女性が居たら心の中で悲鳴を上げてただろう。


「すみません、ついいつもの調子で」


「まぁいいけど」


ため息混じりに呟く。竜也が守弥の肩に手を置き


「闇の奴らもお前がこっち(光)の人間だとは思いもしないだろうな」


「バレたら間諜の意味ないですからね」


「守弥は一番信用してるからね。今後も期待してるよ」


「はっ、ありがたいお言葉」


そう言って頭を下げる。そして守弥が退出しようと踵を返したとき



ガッシャーーーーン



破壊音と共に黒い塊が飛び込んできた。もちろんガラスが盛大に砕け散り、窓の傍にいる凪に降り注いだ。竜也が水を使って凪をガラスから守る盾を作り出す。


「――――――っ!いって~。思ったよりきつかったかも」


黒い塊がムクリと起き上がった。三人は無言で見つめる。こういう登場をする奴は彼らの知ってる中では一人しか思い至らない。


「優香!なんてことしてくれるんだ」


凪が大声で怒鳴る。優香はやけに嬉しそうに笑いながら


「よっ凪。仕事ははかどってるかい」


「まずはなんで窓から入ってきたのか説明しようか」


淡々と訊ねる竜也。口調が淡々としてる分彼の怒りのほどが伺える。だが優香はそんな彼の様子を意にかいすことなく


「あぁ、そのことか。それなら簡単だよ。凪達が仕事に息詰まってるんじゃないかなって思って、一緒に散歩でもしないかなって」


「いいね」


最初の怒りは何処へやら、喜色満面の顔で抱きついてきた凪。優香は若干困ったように微苦笑を浮かべている。竜也が何かを言おうと口を開いたとき、割れた窓の外から


「そういうことだ。竜也も行こうぜ」


「そうそう。仕事詰めも良くないしさ」


窓から入ってきたのは連夜と克弥だ。守弥が目を見開き


「兄さん!」


「守弥!?なんでここに」


お互いを驚愕の眼差しで見合う兄弟。凪が説明する。


「守弥は元から光側の人間なんだよ。私が守弥に闇の潜入捜査を命じた」


守弥が付け足す。


「まさか、潜入した闇から逆に光の潜入を命じられるとは思いませんでしたが」


「へぇ~お前間諜だったのか」


優香がひゅうと口笛を吹く。連夜も守弥をジロジロ眺めて


「お前が間諜か。凪が直接報告を聞くって事は相当優秀なんだろうな」


「そんな事はありません」


感じの良い笑みを浮かべて首を左右に振る守弥。怒るタイミングを逃した竜也が守弥の横に立ち


「こいつは超優秀だぜ。今までの誰よりもな」


「竜也がそこまで褒めるって事は、やっぱ優秀じゃん」


優香が感心したように呟く。


「僕はそこまで優秀じゃないですよ。彩夜が勝手に僕に向かってペラペラ喋ってくれるだけです」


「その敬語やめてくんない?どうせ同年代か一個下くらいでしょう?」


「僕は皆さんと同い年ですよ」


連夜が感心したように


「この年でそこまで賞賛されるとは・・・とんでもない奴だな」


「守弥は闇では火の後継者だよね。光では?」


「風の守護者です」


数秒の間があった。優香と連夜は同時に訊ねる。


「風って・・・・・燈架の守護者!?」


「そうなりますね」


口をパクパクさせている優香と連夜を面白そうに眺める兄弟(守弥と克弥)。竜也はニヤニヤしながら


「予想通りの反応だな」


「驚いてる驚いてる」


いち早く驚愕から立ち直った連夜が守弥に指を突きつけて


「こいつが燈架の守護者・・・マジかよ」


「燈架もようやく守護者を決めたのか。まぁそんな事はどうでもいい。緋寒に見つかる前に行こうぜ」


「賛成♪」


四人の声が重なった。


「んじゃあ早速」


そう言うが否や優香は凪を脇に抱え、割れた窓ガラスから外へ。一応言っておきますがここは六階。一般人なら死ぬほかない高さだ。案の定


「きゃあーーーーーーーー!!」


凪の黄色い悲鳴が響き渡る。優香は楽しそうに笑いながら


「あはは~凪の女の子っぽい悲鳴初めて聞いた~」


「俺も~」


上から連夜の声が降ってきた。視線を向けると、竜也と連夜と克弥も飛び降りたとこだった。そして、克弥と連夜二人に襟首を掴まれ守弥も落ちていく。


「これはどの絶叫マシーンも負けるな~結構面白い」


「風が気持ちいいなぁ~」


「楽しそうになに言ってるんですか!兄さん、竜也君」


守弥が体勢を整えようと無駄な努力をしている。その間も地面はすぐそこまで近づいていた。凪は目を閉じる。この距離じゃあもう・・・・・


「凪は忘れてるっぽいな」


優香はニヤッと不敵に笑って風を操り全員の体を包み込む。フワッと体が浮く感覚を覚え、凪は目を開けた。風の膜が全員を包んで空に押し上げている。


「・・・・・・・・・風を出すのが遅い!」


優香に向かって叱責すると、優香はめんどくさそうに頭を押さえて


「ぇーだってスリルがあっていいじゃん」


「確かに楽しかったね。もう一回やりたいな」


連夜がニコニコ笑いながらそう言うと、克弥も


「俺ももっかいやりたい。また今度やろうぜ。なぁ竜也」


「そうだね。ところで、どこに行くんだ?優香」


「ん~秘密の場所。私と燈架の」


悪戯っぽく笑う優香。


「それを私らにバラしちゃっていいの?」


凪が優香の顔を覗き込みつつ問うと、優香はクスッと風に溶けそうなほど小さく笑い


「場所がわかったって風の魔法が使える奴。それも空を飛べる奴以外行けるはずないから、バラしたって大丈夫な訳」


「そうなんだ。ちなみに何処そこ」


克弥が面白半分といった感じで訊ねてきた。


「克弥は聞いたことあるかわかんないけど、『疾風山』だよ」


すると、克弥以外の顔がいっせいに引き攣った。守弥が確信を込めた声音で


「それはまさか断崖絶壁かつ誰も近寄らない魔の山と恐れられてるあの『疾風山』ですか」


「そんな風に思われてるんだ。私はあの山結構好きだけどな」


「まぁあの山に行ったことないし、大人達が勝手に危ないとか言ってるだけだしな」


連夜が腕を組みうんうん頷いてる。凪も竜也も頷いてる。守弥は少し複雑そうな表情だ。


「じゃああと一時間空の旅をお楽しみ下さい」


どっかの案内役の人みたいな台詞が風に溶けてく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ