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闇と光  作者: 桜咲 雫紅
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第十四話 連夜と克弥

ようやく解放されたのはそれから一時間後だった。ていうか


「なんで俺が説教されなきゃいけないんだよ」


ブツブツ文句を言ってると、隣に座ってる優香がギロッと睨んできた。


「なにか言ったかな、克弥君」


「いいえ、何でもありません」


慌ててそう言うと優香は何も言わずケーキを食べだした。


ホッと息をつく。さっきの説教は結構堪えた。特に連夜と一緒に説教を受けたということが一番堪えた。


「生涯唯一の汚点だ」


今度は絶対に優香には聞こえないように呟く。そして優香と楽しげに話している連夜を見る。


連夜は嬉しそうに優香と話している。とても四年間会ってなかったとは思えないほどに話題に弾んでいるようだ。それが羨ましい。


「クソッ」


小声で悪態をつく。ウジウジしてる自分に嫌気がさしてくる。ため息をついてケーキをつつく。美味しそうに見えるのに、食欲がわかない。


チラッと横を見て


ぇ・・・・・?


優香が一瞬だが苦しそうに顔を歪ませた。まるで内から出ようとしてるものを、必死に抑え込んでるみたいだ。どうしたのか訊ねようと口を開いたのと同時に


「優香!ちょっとこっち来い」


そう言って連夜が優香を引きずる様に連れて行く。優香はしまったと言わんばかりに頭を押さえている。


「おい。どこ行くんだよ」


思わず声をかけると、連夜はなにを思ったのか克弥の腕を掴み


「ちょうどいいお前も来い」


「はっ?!」


わけがわからず聞き返すが、連夜は何も言わず早足に歩いてく。優香は微苦笑を浮かべて、申し訳なさそうに克弥をみて


「来たくなかったら無理に来なくてもいいよ?」


「あそこに居ても暇だから行くよ」


「ごちゃごちゃ言ってないで足動かせ」


連夜の叱声が飛ぶ。優香は適当に


「ゴメンナサイ」


「謝るんならもっと感情を込めろ」


優香の頭を小突く連夜。優香はヘイヘイ、と欠伸をしながら言う。連夜が優香の頭を今度は拳で叩く。結構痛そうだ。


「痛いよ~暴力反対」


殴られた部分を押さえて涙目になりつつ叫ぶ優香。連夜はその抗議を軽く流して


「ハイハイ、喋ってないで足動かせ」


「酷い、克弥~連夜がいじめる」


そう言いつつ克弥の後ろに隠れる優香。克弥は嬉しいような困ったような曖昧な笑みを浮かべて


「えっと・・・俺にどうしろと」


「克弥、その優香バカほっといてさっさと行くぞ」


「いま優香って書いてバカって読んだよね」


あんまりだ、と嘘泣きする優香を捨て置き歩き続ける連夜と克弥。


「置いてっていいのか?」


さすがにやりすぎだと思ったのでそう問うと、連夜は後ろを一瞥して


優香バカ優香バカって言ってなにが悪い」


容赦ねぇ。声に出さずそう呟く克弥。優香はというと柱に額を預けながら


「あぁそうだった、連夜はこういう奴だった。忘れてた私がバカだった。柱君私はもう立ち直れないよ」


とか柱に話しかけている。傍からみれば変人以外の何者でもない。へたすると不審者として警備兵に捕まりそうだ。


「優香?一応聞くけど大丈夫かい?」


「うん、大丈夫だよ」


声だけならその言葉を疑いはしないだろう。問題は、優香が壁に向かって話している事だろう。


「・・・・・・・俺こっちだよ」


「ごめんごめん」


今度は窓に向かって話しかける始末。連夜が克弥の肩を叩き


「先行こうぜ。こいつに付き合ってたら日が暮れる」


少し先にある中庭への出入り口を指差す。





外に出ると、空には目が眩みそうなくらい眩しい太陽とそれと対極の黒雲。もう葉桜になってしまった桜の木々の隙間から、包み込むように優しい光が差し込む様子は美しいの一言に尽きる。爽やかな春の風が雨の匂いを運んでくる。


「気持ちいいな」


体を伸ばして軽く運動する克弥。連夜は眩しそうに手を翳し


「そうだな。いい風だ」


「で、なんで俺を呼んだんだ」


ぶっきらぼうに問うと、連夜は少し寂しそうに笑って


「お前に嫌われてるのかなって思って・・・」


「それは・・・・・・」


確かに連夜の事を好いてはいないが、口を利きたくないほど嫌いというわけでもない。さて、どうやって説明しようかと考えていると


「まぁ俺もお前のこと気に食わないけど」


「んだと・・・」


一気に不機嫌になる。連夜の顔にも声にもさっきまでの少し寂しげな態度は欠片も残ってない。もしかしなくとも


「さっきのあの態度は演技か」


「ご名答。よくわかったね」


ニヤッと人の悪い笑みを浮かべる連夜。そのどこか感に触る笑みを嫌そうに眺めて


「お前って性格悪いな」


「そんな事ないって」


日の当たっている芝生に寝転がる連夜。克弥も、そこから五歩ほど離れた場所に同じく寝転がる。


「あと数刻ほどで雨が降る」


ボソッと連夜が呟く。克弥は顔だけ連夜のほうに向け


「よくわかんな。お前って天気読めるのか?」


「そんなんじゃないさ。空気に混ざってる雨の気配を感じ取る事が出来るだけだ」


すげぇな、と声に出さず感嘆する。声に出しても良かったのだが、絶対調子に乗るのが目に見えてるのであえて口をつぐんだ。代わりに


「それって優香達も出来んのか?」


「凪と竜と燈架なら出来るよ。優香はこういう細かい作業苦手みたいで」


「あぁ、確かに」


優香の性格が大雑把な事は、もうわかりすぎるほどわかっている。連夜が薄く微笑して


「細かい作業させると必ず失敗して緋寒に怒られてたよ」


「容易に想像できる」


思わず想像して吹きだしてしまった。そこへ、本人が来て


「なに話てんの、二人して」


ずいぶん楽しそうじゃないか、と子供のように頬を膨らませる優香。連夜が起き上がって優香の両頬をつまんで


「お前が不審者のごとく壁に話しかけてるから悪いんだろ」


「いひゃい」


涙目で抗議するが連夜はニヤニヤ笑って


「どこまで伸びるかな~」


とか言っている。さすがに可哀相になってきたので


「そろそろやめてやれよ」


「ちぇっ、つまんねぇの」


そう言いつつも渋々放す連夜。優香は頬を押さえて


「連夜の意地悪。痛かったよ」


連夜は優しく優香の髪を撫で


「悪かった。お詫びに今度なんか奢ってやるから機嫌直せ」


「じゃあ雷の国の『抹茶屋』にある特大抹茶パフェ奢って」


「げっ・・・・・・あれを?」


「嫌なら許さないもん」


連夜は困ったように頭をかいて


「ったく、仕方ねぇな。わかったよ。奢ればいいんだろ。奢れば」


半ばやけくそ気味に叫ぶ連夜。どうしてそこまで嫌がるかわからないので聞いてみると、優香曰く


「雷の国は抹茶のお菓子屋がたくさんあって、『抹茶屋』はその中でも一番高級抹茶を扱っている店」なのだそうだ。


「ふーん。雷の国って抹茶が特産品なんだ」


「そうだよ。雷の当主が代々抹茶好きなんだよ。それで、大好きな食べ物だからって言って売り出したら、思いのほか好評だったからいろんな店が売り始めたらしい」


連夜が不満ありありの顔で説明してくれる。なんで俺が、と言外に訴えかけている。だがそこまで嫌そうではないのは気のせいだろうか。


「へぇ、意外と詳しいんだな」


「意外とってどういう意味だよ。意外とって」


眉間にしわを寄せて睨んだくる連夜。わざとらしく咳払いをして


「ナンノコトカナ。ボクワカンナイ」


「っ・・・・この野郎」


低い唸り声をあげる連夜。克弥は勝ち誇ったように腕を組み、連夜を見下している。まるで


「子供の喧嘩だな」


優香が小声でそう呟くと、連夜と克弥が同時に


「こんな奴と一緒にすんな!」


「うるさいなぁ。近所迷惑」


耳を塞いでそう言い放つ優香。克弥は聞こえないように


「この近くに人いないし」


と言ってるが、優香は完璧無視。連夜が気持ちを切り替えるように頭を振って


「本題に戻るぞ」


「本題?」


意味がわからないので聞き返すと、まぁ見てろ、と返された。優香は嫌そうに連夜の傍へ歩いてく。


「克弥はちょっと離れてた方がいいぞ」


連夜にそう忠告されたので、優香達から数十歩離れた場所から見ることにした。


「優香、刻印出せ」


優香が言われたとおり刻印を出すと、連夜はその刻印に触れて


「やっぱり封印が外れかけてるな。しかも結構前から外れかかってただろう」


「しょうがないじゃん。私の感情に反応しちゃうんだもん。それに、私の力だけじゃ封印を守りながら戦うのは厳しいし」


「封印かけ直すぞ。封!」


短く叫んだ瞬間、優香の刻印が反発するように紅く輝き出す。それを押さえ込むように連夜の力が広がっていく。あまりの眩しさに目を閉じた克弥は見えなかったが、優香が痛みを堪えるように顔を歪ませた。


「っ・・・優香、呑まれるなよ」


「わかってる!」


連夜の力が優香の体を包み込み、反発するように輝いている光すらも呑みこんでいく。


数秒後、光が収まったので目を開くと連夜が気を失っている優香を支えて立っていた。よく見てみると、一般語ではない言葉が円を作り優香の刻印を囲んでいる。


「おい大丈夫かよ」


慌てて駆け寄ると、連夜が疲労困憊といった感じで片手を挙げ


「割合へ~き」


「全然そうは見えないけど」


呆れ混じりにそう言うと、連夜は薄く笑みを浮かべて


「目が悪いんじゃないの」


「こんなときも軽口が叩けるとは・・・ある意味尊敬するよ」


「それって貶してんの?」


「まさか。褒めてんだよ」


「じゃあそういうことにしとこうかな」


「それがいい」


ニコニコしながらそう返すと、連夜はため息をついて


「部屋帰るか。物凄い睡魔が襲ってきてるんで」


「優香はぐっすり眠ってるけどね」





「お疲れ様。無事封印はすんだのかい」


お茶を差し出しながら問うてくる美麗。連夜は眠そうに目を擦って、お茶を受け取り


「終わったよ」


「いつも通り封印終わった後は眠そうだね」


零が苦笑する。優也が心配そうに顔を覗き込んで


「大丈夫?部屋に戻ったほうが・・・」


「大丈夫だよ。こいつ案外丈夫だし」


連夜ではなく竜也が答える。連夜は竜也を睨みつけて


「勝手に人の言葉変えんな」


「ワリィワリィ。あはは」


軽やかな笑い声を上げる竜也。反省してる様子はまったくない。凪がすまなさそうに


「ごめんね連夜。竜也こいつはほっといていいから


「おい凪。どういう意味だそれは」


竜也が猛抗議するが凪はまったく取り合わない。


「今のうちに部屋に行きな。眠いんでしょ」

燈架がそう囁いてくる。感謝の言葉を述べてから部屋への階段を上っていく。


「ふぁ~あ・・・ねむぃ・・・早く部屋にいこっと」


蛇行しつつ部屋に向かう。眠気で瞼が鉛のように重い。今にも夢の世界に旅立ってしまいそうだ。

優香の部屋に着いて、少し寂しげに


「優香に聞こっと。俺の新しい部屋どこか」


自分に言い聞かせるように呟き、優香の部屋に入る。

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