第十三話 連夜目覚める2+連夜お帰り会!?
ここは闇の主城、暗黒城。
「守弥~これな~んだ」
彩夜は黒い球体を弄びつつ得意げに守弥に訊ねる。守弥はしげしげとその黒い球体を見て
「人の闇を映す珠ですね」
「当たり。さすがだね」
「恐れ入ります」
「じゃあ・・・」
これまでにないほど冷たい笑みを浮かべ、口調だけは優しげに
「これをどう使うかわかるかな」
魅希は恐ろしいほど魅力的な笑みを口元に貼り付けながら、普段の魅希からは想像も出来ないぐらい低い声で
「魅希はね・・・今最高に機嫌悪いんだ」
襲撃者達は訳がわからず困惑した雰囲気を漂わせている。そんな雰囲気を綺麗に無視して
「なんでかわかるかな・・・それはね、魅希の安眠を邪魔したからだよ。責任取ってくれるよね~」
襲撃者達は何も言わず間合いを詰める。魅希の話は終わらない。
「ていうかね・・・世界一可愛い魅希の安眠を邪魔しといて五体満足で帰れると思うなよ、雑魚共が。というわけで魅希を起こした報いを受けてね♪」
言い終わる前に襲撃者達は飛び掛る。魅希は見たものの血を凍らせるぐらい冷たい笑みを浮かべ、それを迎え撃つ。
数十秒後、服の所々に返り血をつけながら冷然と地に伏す襲撃者達を見下ろす魅希。息ひとつ乱していない。クスッと背筋が凍る笑みを零し
「魅希の眠りを妨げるからこうなるんだよ」
一言言い捨て、部屋に戻る魅希
優香は惨状を眺めた。骨が何箇所か折れているだろうが、命に別状はなさそうだ。まぁたとえ再起不能になっても
「自業自得だね」
「優香、無意識だろうけどそれトドメだから」
連夜が笑いを堪えつつ優香の肩を叩く。凪は壁に手をついて大爆笑している。後でぶん殴ってやる。
「優香ちゃんは容赦ないからね」
壁に寄りかかって、誰が見ても感じの良い笑みを浮かべている燈架。
「私ほど優しく思いやりのある奴はなかなかいないぞ」
「優香が少しでも優しさと思いやりを持ってるんなら、みんなの気苦労も減るだろうに」
「何か言ったかな・・・?克弥君」
「何にも~空耳じゃないの」
わざとらしくそっぽ向いて口笛を吹く克弥。もともと気が短い優香は柄を握っている。連夜が小さく懐かしそうに
「相変わらず気が短すぎだろ。短気は損気って教えてやったのに・・・・・・」
「優香・・・おちつい「うるさいよ優。先にあんたから斬ろうか」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさ~い!」
顔面蒼白にして後ずさる優也。竜也が優也を庇うように優香の前に立って
「まぁまぁ、落ち着けって。こんなチャラ男気にしないで」
俺はチャラ男じゃない、と克弥が抗議するが誰も取り合わない。連夜の目がほんの少し見開かれ
「へぇ、君チャラ男なんだ」
「違う」
即座に否定し、半ば怒鳴るように
「俺は克弥だ。変なあだ名で呼ぶな」
連夜はきょとんとした顔をして克弥を見つめ、次に幼馴染にしか見せなかった柔らかい笑みを浮かべ
「克弥か、いい名前だね。よろしく克弥君」
「いつ見てもあの魅力的な笑みは慣れない」
優香が連夜の笑みを見つめながら呟く。それもそのはず。あの笑みは女性陣はおろか、男性陣の中でも息を呑む人がいるくらい魅力的な笑みなのだ。しかも、いつもは凪と張り合えるぐらい無愛想な顔なのに、突然こんな魅力的な笑みを見たら誰でもドキッとするだろう。
「私は慣れたけどね」
興味無いと言わんばかりに欠伸している凪。
「私もお茶の方が魅力的かな。あっ優也~そこのお茶菓子取って」
「美麗ちゃんらしいね」
いつも通りの会話が交わされている中、優香はみんなに気づかれないよう階段を下りる。連夜が優香を一瞥して後を追う。
外は眩しすぎる朝日に照らされている。
「優香、どうした」
中庭について誰もいないことを確認してから訊ねる。優香は俯いているので表情は見えない。
「おい優「・・・・・・・・・・・・・て」
「え?」
声が小さすぎて聞こえなかったので聞き返すと、泣きそうな声で
「どうして・・・・・・どうして追ってくるの?」
「お前が心配だったから」
「何であんなこと頼んだの?」
あの日のことか、と心の中で呟く。目線を下にずらし
「・・・っごめん」
優香が自分の胸元を掴んで今まで溜めていたものを吐き出すように続ける。
「今までどこにいたの・・・どうして・・・・・・」
「ごめん。俺、あの時・・・優香に苦しそうな顔を・・・・・辛そうな顔をさせたくなくて・・・・・・優香がこれ以上傷ついた顔をしなくていいようにって、もう自分を責めたりしないようにって思って頼んだんだ。
なのにいま考えると俺のためだったんだ。俺が優香の苦しそうな顔を見ていたくなくて・・っ苦しそうな顔を見たくなくて、俺自身のために優香に頼んだんだ。最低だよな」
最後は自分を責めるような口調になった。俺は自分自身が許せない。
俺は、ほかでもない自分のために俺の一番大切な人の心に深い傷を負わせてしまった。生涯消えない深く重い傷を。
優香がゆっくり動いた。何をされても耐えようと覚悟を決めたとき、優しく抱きしめられた。そして幼子をあやすように頭を撫でられる。
「私は、連夜が生きててくれて泣きたくなるくらい嬉しい。だから自分をそんなに責めないで」
目頭が熱くなった。目を閉じると熱いものが頬を滑り落ちていく。それを見られないように俯くと、優香が連夜の顔を自分の肩に乗せた。これなら優香に顔は見られない。
「私ね、連夜に言いたいことがある。いいたいことって言うか、聞きたいことかな・・・これからも私の守護者として私のそばにいてくれる?」
驚きに目を見開く。優香の声音には同情の類の響きはいっさいなく、心の底からそう望んでいるようだ。
「俺でいいのか?お前の心を傷つけた最低な奴だぞ」
驚きで強張った口をなんとか動かしそれだけ言う。
「そんなの関係ないよ。連夜は連夜でしょ?私の大切な親友兼幼馴染兼悪友に変わりはないよ」
嬉しかった。そんな風に思ってくれてたことに。だからこそ余計に、優香を傷つけた自分でいいのかと思う。正直にそう言うと、優香は呆れたように連夜の頭をぐしゃぐしゃ撫で回し
「連夜らしくないよ。あんまり悩むな、胃に穴開くしはげるぞ」
「なっ・・・余計なお世話だ!お前こそもう少し考えてものを言え!」
食って掛かると優香はこれまで以上に優しい笑みを浮かべ
「そうそう。連夜はそうじゃないとね」
どうやらうまく乗せられたらしい。俺のいない間に成長したみたいだ。
ちょっと悔しいのはきっと多分気のせいと思うことにしよう。
数日後の昼。
パパーン
クラッカーの音が響き渡ると同時に
「お帰り連夜」
という九人分の声が上がる。連夜は頭をかきつつ
「ただいま。てか大げさすぎない」
「そんなことないって」
竜也が上機嫌に鼻歌を歌う。凪はめんどくさそうに
「はぁ~めんどくさ。眠いし」
「なに言ってんだよ。今日はめでたい日なんだからもっと楽しめよ」
竜也がそう言うのにあわせて、優也も
「そうだよ。楽しまないと損だよ」
「私は寝てるほうがすき」
「怠け者だね」
美麗がお茶を飲みつつ言う。凪は欠伸して
「まぁね」
「俺は今すぐこんなくだらない事終わらせたいがな」
なぜか滅茶苦茶不機嫌な克弥がボソッと呟く。
「克弥君は何でそんなに不機嫌なの?」
燈架は不思議そうに聞くと
「別に不機嫌じゃない」
言葉とは裏腹に、声音が地を這っている。竜也が燈架の肩に肘を乗せ、耳打ちするように顔を寄せ
「優香の隣に連夜がいるのが気に食わないんだよ」
「あぁ、そういうことか。な~んだ、ただ単にやきも「聞こえてるぞ」
地獄の底から響いてくるような低い声が耳朶を打つ。竜也はわざとらしく顔を顰めて
「地獄耳だな」
「お前らの声が大きいだけだ」
「いつもと同じくらいの音量だけどな」
なぁ、と燈架に同意を求める竜也。燈架は苦笑して
「私を巻き込まないでくれますか。竜君が蒔いた種なんだから」
敵前逃亡だ、と嘆く竜也を無視し文字通り山になってる料理を食べ始める。
ちなみに、凪と美麗と優香と連夜と零と魅希はもうすでに食べている。竜也も克弥をからかうのをやめて、料理を皿に盛る。克弥は竜也、燈架、連夜の順に睨んでから料理を食べ出す。
「美味しい。これ誰が作ったんだ?」
グラタンを食べてる連夜がおかわりを皿に取りつつ聞くと、優香が
「それは、私と美麗ちゃんと凪が作ったやつだよ」
「へぇ、料理上手くなったじゃん」
優香の頭を撫で回す。優香は嬉しそうに笑み崩れて
「そうかな。連夜に褒められると嬉しい」
次いで凪の頭を撫で回すと、振り払われた。
「ちっ、相変わらず冷たいやつ」
「子ども扱いしないでくれるかな」
「いいじゃんか。俺より小さいんだから」
凪は無言で水を槍に変え、連夜に投げる。連夜は鋭い身のこなしで難なく避け、その横で普通に食事してた優香に直撃。優香の瞳に怒りの炎が灯る。手は今にも刀を抜きそうだ。
「禁句をさらっと言えるなんて・・・さすが連夜君」
美麗が感心したように呟く。
「そんな事言ってないで止めようよ」
優也が顔だけでなく声まで蒼白にしながら美麗に言うが、美麗はサラダを食べつつ
「無理。見てるほうが面白い」
「ははっ。美麗らしいな」
零が微苦笑を浮かべている。その視線の先には、水の槍を連夜に向かって投げつけている凪と、それを笑いながらかわす連夜、その二人に炎を飛ばしている優香の姿がある。
「こうしてるとあの日に止まった時が再び動き出したみたいだね」
「そうだな」
燈架が懐かしそうに目を細めると、零が頷く。竜也がクスッと笑みを零し
「ああしてると、いくら大人っぽく見える連夜もまだまだこどもだね」
「本人に言うなよ。後が怖いから」
零がそう言うと、竜也は楽しげな笑みを浮かべ
「まぁ気分によります」
「竜君、凪の性格が移ったんじゃ・・・」
優也が強張った笑みを竜也に向ける。竜也は口笛を吹いて
「気のせいだよ。優也」
「自覚がないってそれだけで罪だな」
克弥が不機嫌丸出しの顔で話しに割り込むと
「自覚くらいあるし」
と言って、自分が墓穴を掘った事に気づきあはは、と誤魔化すように笑う。
それから一時間後、ようやくご飯を食べ終えてデザートのケーキが出てきた。
「いろんなケーキがあるな」
「私達全員で作ったんだよ」
優香が自慢げに胸をそらす。凪は呆れたように
「優香が自慢することじゃないから」
「なんだと」
射殺出来そうなくらい鋭い視線を凪に当てる。当の凪はのんびりと
「ホント優香って短気だよね。ほら、連夜君が呼んでるよ」
確かに連夜は優香の名を呼びながらケーキを食っている。舌打ちして
「仕方ない。ここだよ~連夜」
と言いつつ連夜の所へ駆けていく。連夜は嬉しそうに笑って
「いたいた。どこ行ってたんだよ。何回も呼んだのに」
「ごめんごめん」
周りが騒がしくって、と続ける優香の言葉に納得したようなしてないような複雑な表情の連夜。
「そんな事どうでもいいから何で私を呼んだの?」
「ケーキ一緒に食おうぜ」
無邪気に笑う連夜。その笑みに視線が釘付けになる。こんな風に無邪気に笑う連夜は珍しすぎる。連夜は優香が何も言わないことを訝ったのか首を傾げて
「どうした?俺の顔になんか付いてるか?」
「ぇ・・・そっそうじゃなくって・・・・・・えっと・・・その・・」
あなたの笑顔に見惚れてました、なんて言える筈もないし。どうしよう、と焦ってるとき
「なにしてんだお前ら」
不機嫌そうな声音が耳朶を打つ。顔を上げると、そこには不機嫌さを露にした克弥の姿が。
「克弥?」
「俺以外の誰が克弥なんだよ」
不機嫌+怒り八割突破の声が地を這う。だが克弥はなぜ不機嫌なのか、何に怒ってるかがまったくわからない。なので、とりあえず
「ごめんな「何で謝る!」
謝ったら怒られた。では、なんと言えばいいのか。必死に考えていると、横から助け舟が来た。
「まぁまぁ。そうカリカリしないで、楽しくやろうよ」
ニコッと感じのよい笑みを浮かべて、克弥の肩を叩く連夜。克弥は先ほどより更に不機嫌そうな声音で
「気安く触んな」
「怖い怖い。おっかないねぇ」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑う連夜。克弥は連夜を睨みつける。優香は不思議そうに二人を見比べて
「なんか仲悪いね、二人とも。喧嘩でもした?」
「なに言ってんの。こんなに仲良しじゃん」
どこかうそ臭い笑みを顔に貼り付けながら、嫌がる克弥の肩を抱く。そして優香には聞こえないように
「お前も笑顔作れ。それとも、優香に説教されるのとどっちがいい」
「俺に命令すんな」
そっけなく言い放ち、連夜を振り払って
「性格の不一致だ。こいつとは性格が合わないしなにより気に食わない」
「ふ~ん。君達ちょっとそこに直れ」
それから、優香の説教が始まった。