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闇と光  作者: 桜咲 雫紅
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第十二話 連夜、目覚める

「いいかい優香。今から言うことはとても大事な事だから、意味がわからなくてもちゃんと覚えておくんだ。いいね?」


「はい。父さん」


「お前の体には、人の身をはるかに超えた力が宿っている。今は封印で抑えているがここからが大切。絶対に封印を解いてはいけない」


「なぜですか?」


可愛らしく首を傾げる優香。緋寒は破顔して膝をおり、幼い優香の目線にあわせ


「人の身を過ぎた力は我が身すら焼く。封印を解いたら一時的だが甚大な力が手に入る。だが、忘れてはいけないよ。それはあくまで一時的、限界は必ず来る。大いなる力の代償は自分自身に返ってくる。お前のその力は命を蝕む諸刃の剣」


「???」


訳が解らないという顔をしている優香の肩に手を置き


「今はまだ解らなくていい。お前には連夜がいる。あいつがいる限り、力が暴走する心配はないな・・・・・・・・・」

「連夜と優香の関係はこんなんだ」


そう話を締めくくった竜也。


「仲良かったんだな」


少し掠れた声でそれだけ言う克弥。竜也は頷いて


「あの二人が組むと必ず騒動が起こったもんだよ」


懐かしそうに目を細める。克弥は意を決して


「その連夜って・・・・・・・・・死んだのか」


竜也は悲しそうに俯いて黙り込む。そして小さい声で


「優香は死んでるって思ってる」


「ぇ・・・どういう」


竜也は言いにくそうに言葉を選びながら


「連夜は・・・生きてるって言うべきなのかわからないが・・・・・・その・・・仮死状態?みたいな感じなんだが」


妙に歯切れが悪い。ますます訳がわからないという表情をしてる克弥を一瞥して


「だから・・・・・・あぁもう。ついて来い」


「はっ?何で・・・」


「いいからついて来い。言葉で説明するより見たほうがわかるだろう」


そう言うと立ち上がり歩き出す。克弥は慌てて竜也の後を追いかける。


「おい。どこに行くんだよ」


「黙ってついて来い。うるさいと教えないぞ」


そう言われたら克弥は黙るしかない。舌打ちしながら黙ってついていく。


しばらくすると、何の変哲のない壁に着いた。


行き止まりじゃないか。それとも隠し扉でもあんのか。


そう思っていると、案の定竜也が扉に触れ呪文を唱えると扉が現れた。その扉を開け、中に入るとそこにあったのは


ここって・・・集中治療室か。


中は二十畳分ぐらいの大きさの部屋だった。克弥達の入ってきた扉の真正面にはガラスが張ってあり、その中には一人の男の子が寝ていた。大人びた端整な顔は青白く、死人と見間違うほどだが微かに胸が上下している。


「あそこで寝ているのが連夜だ。美麗曰く『雷の後継者に伝わる秘薬で一命はとりとめた』らしい。だが、目覚める気配はない」


重い口調で克弥に説明する竜也。克弥は食い入るように連夜を見つめ


「あれが、連夜」


そう呟いた瞬間、窓ガラスの割れる音と、悲鳴が上がった。


「この声は・・・凪」


竜也がそう呟いたのと同時に、克弥が外に出ようとする。それを阻止し


「今、外に出るな」


「なんでだよ。襲われてるんだろ!」


思わず声を荒げる克弥。竜也は辛そうに顔を歪ませ


「この部屋から出たら、連夜が無防備になる。それに、この部屋は優香に教えてないんだ。ここから出て、優香に会って『この部屋の中見せて』とか言われたらどうすんだ」


「そんなの見せればいいじゃんか」


「よくない!」


克弥に詰め寄り睨みつけながら


「優香が今の連夜を見たらどんな反応するか考えたか?」


「それは・・・」


黙り込んだ克弥に更に言いつのろうとしたそのとき、悲痛な声で


「助けてよ。連夜!」


という優香の叫び声があがる。すると、その悲痛な声に答えるように


「優・・・・・・香・・・っ・・・?」


聞こえるはずのない第三者の声が室内に響く。竜也は目を見開く。今の声を自分が聞き間違えるはずは無い。この少し大人びた声は・・・。


「まさか・・・」


ゆっくり振りかえる。そこには、ベットから起き上がってる連夜の姿が。


「意識が戻ったのか」


驚きの混じった声を出す克弥。そんな二人の言動には反応せず、連夜は着ていた動きにくい服を破り捨てた。そして近くにあった服を着て、刀を手に取る。そのまま竜也達の方に・・・正確には竜也達の後ろにある扉に向かって歩いてくる。


「連夜・・・お前・・・・・・」


「もしかして・・・竜也か?」


竜也の顔をまじまじと見つめる連夜。


「そのまさかだよ」


「そうか・・・俺の寝ている間に少しは背が伸びたみたいだな」


「うるせぇ。それより何で今この瞬間に目覚めたんだ?」


連夜は困ったような笑みを浮かべて


「優香の声が聞こえたから」


その声にかぶさる様に再び悲鳴が上がる。竜也が若干焦ったように


「襲撃を受けてるんだ。多分闇の奴らだと思う」


「そこ退いてくれ。俺は優香達を助けに行く」


「俺も行く」


克弥が竜也の斜め後ろから言う。


「お前は?」


「優香の守護者だ。名は克弥」


「優香の・・・そうか。じゃあ克弥、行くぞ」


俺も行く、と言っている竜也をスルーして扉を開ける。





連夜が覚醒する少し前。


「眠い~。ったく、久々に見たあの夢のせいだ」


壁に八つ当たりしながら部屋から出る優香。結局あのまま寝付けず、まだ午前四時にもかかわらず起きることを余儀なくされたので、機嫌がすこぶる悪いのだ。


『物に八つ当たりしても意味ないぞ』


優香の肩に乗っている紅輝が諫める。だが、優香は睨みつけて黙らせる。足元では紅蓮が呆れ混じりのため息をつく。


「くそっ・・・」


イライラしてまた壁を蹴る。


「さっきから誰だ。壁を蹴って人の安眠妨害する馬鹿は」


不機嫌な声音で部屋から飛び出してきた凪。優香の姿を見咎めると、怖いほど素敵な笑顔を顔に貼り付けて


「ねぇ、優香が壁を蹴ってたのかな?」


「まぁね」


「ふーん、私の安眠を邪魔した罪は重いよ」


言ったそばから優香の顔すれすれに水の槍が飛んでいく。さすがにヤバイと感じたので


「えっと・・・すみません」


「許すと思ってる?」


「じゃあ」


なんて言えばいいのさ、と続けようとした瞬間


「突入!」


短い命令と共に窓を突き破って、複数の黒い影が寮の廊下に降り立った。


「ちっ・・・敵襲」


すばやく状況を把握し、凪を背後に庇う。美麗と優也、零と燈架も部屋から出てきて


「何事!?」


「敵襲か」


零と優也も状況を把握したようで、燈架と美麗を庇うように一歩前に出る。


「後継者と守護者を討ち取れ」


「出来んならね」


優香が挑戦的に怒鳴る。襲撃者達は次々に襲いかかってくる。


こっちは人数少ない分不利。なにより、戦闘力の低い凪達がいるんじゃ守戦を維持するしか。とにかく凪達を逃がさないと。


そんな思いが三人の動きを縛る。それを見逃してくれるはずのない襲撃者だ。優香達の身体に浅い切り傷が増えていく。


優香は悔しげに唇を噛む。このままじゃいずれは深手を負って動けなくなる。


そう思ったとき、体の中で鼓動が生まれた。心臓の音ではない。それよりも更に深い場所からだ。


まずい・・・“封印が”・・・。


優香の心に反応して、生まれたときに奥底に閉じ込めたはずの人の身を過ぎた力が外に出ようと暴れだす。


なんでこんなときに。


舌打ちしたい気持ちになった。この力を抑えるのに、体力も魔力も根こそぎ奪われるのは願い下げだ。


優香の横で優也がよろめく。足をやられたらしく、左足の太腿から膝にかけて血が噴き出してる。


優香は歯噛みした。また・・・また私は誰も守れず、守られるだけなのか。力がほしい。もう誰も失わなくてすむような、力が。


体の中で“何か”が脈打つ。この力を使えば・・・・・・


ダメだ。


前に一度“封印”が解かれ暴れだしたことがあった。このまま力を解放すればあのときの二の舞だ。むしろあの時以上にまずいかもしれない。なぜならあの時いた人物がいないからだ。


頭を振って思考を切り替える。今はそんな事を考えている場合じゃない。


視界の隅で零が倒れるのが見えた。すっと血が凍る。これ以上は持たない。


「助けてよ。連夜!」


無意識に叫んだ瞬間、聞いたことない言葉が耳に入ってくる。


『力ガ欲シイカ』


「ぇっ・・・?」


周りを見回すが優香に声が届く範囲には誰もいない。また声が響く。


『力ガ欲シイノナラ解放シロ』


「却下」


即答した優香の言葉に驚いたのか声は不思議そうに


『我ヲ解放スレバ皆助カルゾ』


「そうかもしれないね。でも、お前の言葉に二度と耳を傾ける気はない。失せろ」


ドクン、と心臓とは異なる鼓動が再び鳴るが無視する。そして身を伏せる。先ほどまで優香の首があった場所を敵の刀がなぎ、髪が数本舞う。


敵の足元を払い、腹に鞘を振り下ろす。そのまま流れるような動きで次の敵を打ちのめす。


だが、いかんせん敵の数が多すぎる。多勢に無勢とはこのことだろう。


優香の左右から刀が振り下ろされる。片方を刀で防ぎ、もう片方は避けようとしたが間に合わず、肩から胸にかけて血が噴き出す。後ろから悲鳴が上がるがそれに構ってる暇はない。


優香は心の中で叫んだ。誰か!


「優香!」


呼ばれた当人はビクッと体を強張らす。若干声が変わってるが、少し大人びたこの声に聞き覚えがある。ゆっくりと視線を巡らす。隠し扉からこちらに駆け寄ってくる懐かしい姿。


「連夜っ」


一歩後ずさる。駆け寄りたいが、自分が連夜を殺めたという罪の意識が優香を苛む。


「連夜・・・意識が戻ったのか・・・・?」


唖然として呟く優也。美麗と零はようやく起きたか、と呟いてる。


「お寝坊さんだね」


飲み込みが早い凪は口元に安堵の笑みを浮かべている。


「優に零兄さんに凪と美麗か。久しぶり」


昔と変わらない微笑を浮かべている。優香は順にみんなを睨んで


「なんでみんな驚いてないの?」


地獄の底から響いてくるような低い声だ。連夜の後から来た竜也は苦笑して


「お前にだけ伝えてなかったんだ。言ったらお前ずっと連夜のそばから離れないだろ?みんなそれが心配だったんだ」


「でも・・・連夜は私が・・・・・・」


唇をかみ締めて痛みを堪えるように胸を押さえる優香。竜也は優香の頭を撫でて


「そうだな。優香がそうやって自分を責めるから、言えなかったんだ」


凪達もすまなさそうに優香を見つめてる。


「みんな私を思って・・・ありがとう」


襲撃者が武器を手に襲い掛かってきているのに、ここだけ穏やかな空気が流れる。


そのとき、魅希の部屋が壊れそうな勢いで開かれた。中から出てきたのはもちろんこの部屋の主、魅希だ。


「魅希、起きたの」


嬉しそうに魅希に近づいていく凪。だが、三歩ほど駆け寄ってなぜか食い入るように魅希を見つめる。そして何を思ったのか引き返して


「魅希、寝ぼけてる」


すると、克弥以外の全員が顔を引きつらせた。特に優香は、凪の話を聞き終わったと同時に安全圏に避難している。克弥だけは意味がわからず


「優香?何してんだよ」


「・・・・・・・・・・」


答えない優香の代わりに連夜と竜也交互に


「何も聞くな。死にたくないなら逃げろ」


「魅希がああなったらもう誰にも止められない」


克弥は不本意そうに優香の近くへ避難する。凪達も逃げながら襲撃者に


「あなた方も早く逃げたほうがいいよ」


一応忠告してみるが、襲撃者達は聞いていない。突然現れた魅希に敵意をむき出しにする。どうやら的を絞ったようだ。


「お気の毒に」


人の悪い笑みを浮かべながら連夜が呟く。


「まったくだね」


凪には珍しく心から同意するような声音だ、と妙なとこで感心する優香。


その横では竜也が美麗の手元を覗き込んで


「なに書いてんだ?」


「哀れなあの方々にちょっとね」


さらさら、と流れるような字で和紙に何かを書いている美麗。


優也も来て少し面白そうな表情で


「美麗・・・緊張感無さ過ぎ」


「そんなことないよ。よし出来た」


「どれどれ」


和紙を見てみるとそこには


『寮に侵入した不法侵入者バカ共は、自らの行いを悔いる暇もなく人生の終点を迎えた』


竜也と優也は微苦笑を浮かべ


やっぱ美麗は怖いな。

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