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闇と光  作者: 桜咲 雫紅
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第十話 優香の過去1

最初は静かに歩いていたが、部屋を出た途端走り出した。なぜか気が急くのだ。


「確か・・・この部屋だ」


階段のすぐ隣が空き部屋になっているので、その隣が竜也と凪の部屋だ。



ドンドンドン



ノックするが反応なし。克弥はおもむろに一歩下がり回し蹴りを扉に決める。扉はあっけなく壊れ、部屋の中に倒れこむ。


「う~ん。何の音?」


凪が眠そうに立ち上がる。同じく竜也も起き上がり無残に壊れた扉をみて


「こんな朝っぱらから誰だよ。もっとマシな開け方はねぇのか」


壊れた扉を跨いでくる克弥に文句を言う。


「・・・・・しえろ」


「はっ?聞こえない。もっと大きなこ「教えろよ!あの日ってなんだよ。レンヤって誰だよ」


凪と竜也は目を見開き視線を交わす。


「どこで知った」


心なしか声が硬くなっている。


「優香が呟いてるのを聞いた」


そうか、と言い黙り込む。凪が考えるように腕を組み


「優香なんて言ってた?」


「よく聞こえなかったけど、自分の無力がどうとか誓いとか言ってた」


二人そろって黙り込む。克弥は二人を交互に見て答えを待つ。


数分後、竜也が鋭い眼差しを克弥にあて


「ここで話すことは他言しないと誓えるか?」


「誓う」


即答で答える。凪は驚いたように竜也を見上げる。その視線に気づいた竜也が凪に視線を移す。


竜也が伝えたかったことを正確に読み取り


「私は寝直すね」


そう言って寝室に戻る。竜也は近くのソファーに座り、克弥もその向かいに座る。


どこか懐かしむような顔をして話し出す。


「どこから話せばいいかわかんないけど・・・・・・」





五年前


雪が降っている。触れると消えてしまいそうな儚い雪が。


「優香。準備はいいか?」


端整な顔に悪戯っぽい笑みを浮かべた男の子は隣の女の子、優香に問いかける。


「うん、大丈夫。連夜は?」


「俺も準備万端だよ」


互いに笑いあい、窓から飛び出す。そして、木の枝に着地して滑り落ちないように木につかまる。


「成功」


二人してニヤ、と笑い拳をぶつけ合う。


「今日はどこに行こうか。昨日は『紅の森』で剣技対決したし」


「海に行こうよ」


瞳をキラキラ輝かせながら連夜を見上げる。


「海?今一月だよ?」


「行こうよ。紅輝達に雪の舞う海を見せてあげたいの」


ため息をついて仕方ないといった表情で


「風邪引かないように厚着してかないとな」


途端に嬉しそうに連夜に抱きつく優香。そして龍笛を吹き紅輝を呼ぶ。数秒後羽ばたきとともに


『今日も勉強サボって抜け出したのか』


優香の肩に乗り、呆れ混じりにそう言う紅輝。


「だってつまんないんだもん」


腕を組みそっぽ向く優香。連夜も笛を吹いて


「そうそう。戦法とか教わっても覚えきれねぇよ。竜達は真面目すぎる」


『連夜と優香が不真面目すぎるんだろう』


声の主は連夜の相棒、朱音あかねだ。


「私達(俺達)は不真面目じゃない」


そう食ってかかるが


『じゃあ勉強してきな』


「ヤダ」


即答する優香と連夜に朱音はビシッと


『じゃあ不真面目じゃん』


反論できず黙り込む。紅輝はなだめるように二人の頬に体をすり寄せ


『で、俺らに何の用だ?』


「マフラーと厚手の上着もってきてくんね?」


「私達が戻ると捕まっちゃうから」


『そんなことだろうと思ったよ』


紅輝はブツブツ言いながらも寮の優香の部屋へ飛んでいく。朱音も黙って連夜の部屋へ。


待つこと二分。蛇行しつつ上着とマフラーを持って飛んでくる紅輝と朱音。


「ありがとう紅輝(朱音)」


紅輝に手を差し伸べつつお礼を言う優香。連夜もお礼を言い、優香の隣から朱音に手を伸ばす


『疲れた。結構重かったよ』


紅輝は上着とマフラーを優香に渡し文句を言う。朱音も連夜に向かって


『もう少しで緋寒に見つかりそうだったよ。心臓が止まるかと思った』


私も緋寒の説教は苦手だし、とこぼす朱音。


「よし。紅蓮と夕軌を呼ぼう」


「そうだな」


今度は狼にしか聞こえない音を出す笛を吹く。待つこと一分、木の根元からまだ幼さの残った声で


『優香~上に居るの?』


『連、寒いよ~』


優香は立っていた木の枝から飛び降り、転びそうになるのを前についた手で防いで着地。連夜も同様に着地。そして優香は紅蓮を、連夜は夕軌を抱き上げた。


「それじゃ行くか」


「うん。紅輝おいで」


紅輝が自分の肩にとまったのを確認して、連夜に視線を送る。連夜は腕の中の夕軌を見て、頭に乗ってる朱音を見て頷く。そして連夜は優香の手を握る。なぜかはこの後の行為でわかる。


「風よ」


短い一言で周囲の雪を巻き込みつつ疾風が起こる。


刹那、二人の姿は消えた。





「また優香と連夜が寮から居なくなっただと」


驚愕のふちから立ち直った緋寒が開口一番に言った言葉だ。


「相変わらず元気ですね。あのお二人方は」


風華は特に驚いた様子もなく口元に微笑を浮かべている。他の二名はまだ沈没している。


「優香と連は寮から抜け出すの得意だもんね」


零が場違いなとこで感心している。零の横の凪が


「今日で通算何回目だっけ?」


「数百回以上じゃん?もう数えるのはやめたよ」


優也は頭を押さえて言う。美麗が


「優香ちゃんと連夜君が一緒にいると必ず問題が起こるよね~」


「そうだね。当主達が頭を悩ませるわけだ。で、今日はどこから逃げ出したんですか?あの二人は」


竜也が少し楽しげに当主達に問いかける。ようやく立ち直った翡翼が苦々しげに


「浴場の窓からだとさ」


零と竜也が感心したように口笛を吹く。凪は苦笑して美零はのんびりした口調で


「二人ともよく思いついたね。そんな脱出路」


「優香ちゃんと連夜君が組めば無敵だからね」


特に優香ちゃんはいろんな悪巧みを考え付く悪がきだからね、とどこか楽しそうに目を細める燈架。


「俺も一緒に脱走すればよかった」


竜也が誰にも聞こえないよう呟く。


正直言うと、毎日毎日朝から晩まで勉強勉強言われて辟易していたのだ。


「美麗、燈架なに無責任な事言ってるんだ。捜して連れ戻さないと」


聖藍が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「ほっといてあげて下さい」


いつもは当主に反抗しない優也がきっぱり言い切った。聖藍は眉をあげて優也に詰め寄り


「なんだと」


優也は一瞬足を退き掛けたが必死に思い止まり、相手の目を真正面から睨みつけ


「今日くらいはあの二人はほっといてあげて下さい。」


「貴様、それが当主に対する言葉遣いか」


翡翼が聖藍の横から優也を怒鳴りつける。


「うっさいよ翡翼」


孤軍奮闘してる優也に助け舟を出した竜也。


「今日は連夜の誕生日なんだからこんくらい許してやれよ」


「そうだね。いつもいつも閉じ込めとくのよくないよ」


「だが「ごちゃごちゃうるさい。いいからほっときなよ」


凪が冷たく言い放つ。翡翼が顔を真っ赤にし何か言おうと口を開いた瞬間。


「ウザッ」


という一言と共に雷が翡翼に直撃。哀れな。


「あ~ぁ。美零ちゃんの雷が落ちちゃった」


「痛そうだね」


「大丈夫かな・・・・美麗も手加減しようよ」


「こんなんでも一応当主なんだから問題ないよ」


無責任な言葉が飛び交う中聖藍は小さな声で


「こいつらホントに九歳の子供か・・・・・・?」





ここは火の国『暁の山』のふもと付近の上空。


「優香。大丈夫?」


「大っ・・・大丈夫だよ」


胸元を押さえつつ笑みを浮かべる優香。大丈夫という割には顔色がよくない。それに加えて呼吸が不自然なほど速い。これは


『魔力が尽きかけているね』


朱音が言い、紅輝も


『この症状は魔力が足りないからに他ならないな』


『優香大丈夫?』


紅蓮が心配そうに優香の顔を覗き込む。優香は紅蓮の頭を撫で


「大丈夫だ。心配すんな」


「いったん休もう」


「大丈夫だって」


問答をしているうちに山頂にさしかかった。優香の体力はなくなる寸前といったとこか。


「・・・・・ゴメンッ・・・限界」


いい終わる前に風の膜が消え、二人と二匹と二頭は空中に投げ出される形になった。


二頭は翼を広げ体勢を立て直したが、二人と二匹はそのまま落下。


「優香の馬鹿~」


という声がエコーしていた。



バキバキ     ドサッ



「いっ・・・・助かった~」


安堵のため息を漏らした連夜。腕の中には夕軌が咳き込んでいる。すると、頭上から


『お~い。無事か?』


『ずいぶん派手に落ちたね。怪我の一つや二つぐらいはしてそう』


「朱音、もうちょっと心配してくれてもいいんじゃないかな」


連夜が身体中についた木の枝や雪を払いながら渋面を作る。


『優香・・・・足痛いの?』


紅蓮の声に反応した連夜が、紅蓮を抱きかかえたまま起き上がらない優香を見て顔色を変える。


「優香、足見せてみろ」


余程痛むのか、苦痛に顔を歪ませている優香は足を押さえていた手を離す。ズボンの裾を捲ると、そこには落ちたときにどこかに打ち付けたのか骨折していた。


「これは酷いな・・・ここで治療する」


『連、治療出来るの?』


夕軌が首を傾げて問いかける。連夜は優しく笑い


「美麗ほどじゃないけど。そこいらの奴よりかは出来るよ」


言ってるそばから優香の足に手をかざす。紅輝は優香の頬に身体を摺り寄せる。紅蓮も優香の頬を舐めながら何回も声をかける。


『連夜、人間が近づいてくる』


「偵察に行ってくれないかな?」


『言うと思った』


朱音は連夜の肩から飛び去り偵察に向かう。


『確かここら辺から』


木の枝に止まり、周りを見回すと男が十人ゆっくりとだが確実に連夜達の方に向かっているのが見えた。


全員武装していて、血の臭いがした。(こいつら・・・・山賊の類か)おそらく、木の枝が折れる音を聞きつけて様子を見に来たのだろう。急いで連夜に伝えなければ。


『連夜!連夜!!』


「どうした?」


治癒に集中しながら血相を変えて戻ってきた朱音に問う。


『山賊がこっちに向かってる』


『山賊だと』


紅輝は驚きを込めて朱音を見つめる。この山にはそういうものはいないと教わったのだが


『やっぱり実際に目で見ないとダメだな』


「だからあんな授業やるだけ無駄だって言っただろ」


『話をずらすな』


「スンマセン」


まったく悪びれず謝る連夜。


『こっちは怪我人背負ってるんだから圧倒的に不利なんだよ。この重大さわかってる?!』


「安心しな。あと十分もあれば完治する」


『ホントに』


泣きそうな顔で連夜を見上げる紅蓮。安心させるような笑みを浮かべ


「あぁ、嘘はつかない」


『十分って、山賊共はあと五分ちょっとでこっちに来ちまうんだぞ』


紅輝が焦った様に連夜の周りを旋回する。朱音も同意見らしく


『とにかくひとまずどこかに隠れないと』


だが生憎、周りは木が生えてるだけで隠れられそうなとこはない。


「その山賊って武器持ってたの?」


『うん、もってた。それに血の臭いもした』


「タイミング悪すぎだな」


舌打ちをして優香を見据える。きつく目を閉じて痛みに耐えてる優香の顔色は相変わらずよくないが、魔力はおおかた回復したようだ。しかし


「まだ動ける状態じゃないし・・・どうしようか」


治癒をしつつ考え込む。だがいい策は浮かばない。イライラして舌打ちをする。こういうときに限って何も浮かばないのが腹立たしい。雪に覆われた地面に拳を打ち付ける。


「連夜・・」


囁くような声で地面に八つ当たりしてる連夜に呼びかける。連夜の意識がこちらに向いたのを確認してから


「名案が・・・ある」





「音が聞こえたのはこの辺りか?」


リーダーらしき男が仲間に確認する。


「えぇ、この辺りに間違いないでしょう」


仲間その一が答える。仲間その二が


「この辺りを探らせましょうか?」


「そうだな。二人一組になって周囲を確認してこい」


「了解」


すばやく二人一組になり四方八方に散っていく。


数十分後、二組戻ってきて


「こっちには何もありませんでした」


「こちらも何もありません」


「そうか・・・・あと三組が戻ってくるまで待機」


「はい」


更に数分後一組が戻ってきて


「何もありませんでした」


反対側からも一組戻ってきて


「こちらにもなに「リーダー!」


報告を遮ってリーダーにむかって走ってきた仲間その三。


「もう一人はどうした」


「場所がわからなくなると困るので置いて来ました」


「何を見つけた?」


「それが・・・」


言いよどんでから、リーダーを見上げ


「子供が一人」


「子供?」


リーダーを含む仲間達があきれを含んだ声音で言う。そのとき残りの一組が戻ってきた。


「とにかく来てください」


「見るだけ見てみるか。行くぞ」

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