君と僕の小さな自殺
君と僕の小さな自殺
君は突然こう言った。
「今日の楽しみはある?」
「楽しみ?」
今日は平日の水曜日で赤口――何事も始めるべきではないとされる。特に何かの記念日と言うわけでもなく、僕の誕生日でもなく。とりとめのない所謂、日常だった。
「特には思いつかないって言ったところ?」
僕は頷いた。
「うん。私も特に今日には何の楽しみもないし、何の期待もしていない。きっとこのままだと今日と言う日は来年にはきれいさっぱり記憶から消え去っていて意味を成さない日になってしまう。それなら別に今日はいらなくない?」
「いらなくない? と訊かれても……。どうしても必要だってわけじゃないけど。どうせなら欲しい、欲しいっていうのも変だけど」
こんなことを君は真剣に問いかけてくる。御座なりな応えをすると君はすぐ怒るから僕はいつも君の問いに真剣に向き合っている。
「じゃあ例えば、『今日は此処で終わりです』って言われたとすると。私は『別にいいよ』って言うと思う。昨日でも、明日でも答えは同じ。何を言いたいかと言うと最近毎日の生活に楽しみと言うものが見いだせないの」
「小さな楽しみもないの? 食べ物でもいいし、もうすぐあの漫画、あの小説が発売だ、とかでもいいし、ゲームとか、映画とか」
「私って無趣味だから」
君はそんな悲しいことを言った。
僕は好きな作家が本を出したら読みたいと思うし、好きなアーティストが新曲を出したら聴いてみたいと思う。
「これって一種の自殺願望じゃないかと思うの」
「えっ」
自殺という言葉に反応して僕は眉を曇らした。
「あ、別に死にたいって言ってるんじゃないよ。例えの話」
彼女は慌ててそう訂正した。
「明日がとても嫌な日だったとすると。別に明日はなくていい、むしろ失くしてほしいって思わない? 明日が運動会とか文化祭とか」
どうやら君は学校行事が嫌いなようだね。
「確かに僕もそれはときたま思うよ。テストの時なんかは特に」
「そんな『いらない日』が明日も明後日もずっと続くと思ったら、それは『あ、じゃあもういいや』って言って本当に自殺していくんだろうね。ただ、実際はそんな簡単なことじゃなくて、私みたいに『別にいらない日』じゃなくて『本当にいらない日』がずっと続いて行く場合だと思うけど」
君はしみじみとそう言った。
「急にそんなこと言ってどうしたの?」
「別に、ただ毎日がつまらないって言ってるだけ。私みたいな人はいっぱいいると思うよ、生きたくない、けど死にたくない、みたいな。自殺志願者ならぬ自殺志願者予備軍」
君は「うまいこと言ったんじゃない?」と言うように自慢げな表情を向けた。
「そうだね」
なんて適当な返事を返すと君は少し不機嫌になった。
読んでくださった方々、ありがとうございます^^