断罪の咎め十一は全部、わたくしが襖の下へ貼って隠した分です——下貼りをやめました。梅雨を一度でお宅の襖だけ波打ちます
【寄合の座・咎め十一】
「九つ目。反故を貼り場に溜め込み、見苦しくしたこと」
九つ。ずいぶん丁寧にお数えですこと。あの反故がなければ南の二枚は三月前に閉まらなくなっていたので、わたくしなら功を二枚、手柄を七枚、ついでに夕餉のおかずを一皿と数えますけれど、親方の算盤はどうも湿気に弱いらしい。
「はい」
寄合の座で、夫の周吾はよく通る声をしていた。家では糊の煮え具合ひとつ尋ねないくせに、人前となると声まで上等になる。あの声量を紙に換えたら下貼り六枚、見栄を足せば八枚。襖一枚を救える厚みである。
「十。仕上げに使える紙まで下へ貼り、無駄にしたこと。十一。家の仕事へ口を挟み、親方の指図をたびたび違えたこと」
向かいに座った同業の男たちが、十一、十一、と小さく囃した。十一も咎めがある嫁とは豪勢だ、と誰かが笑い、隣が袖で口を押さえる。押さえるくらいなら最初から開けなければよろしいのに。襖なら建てつけ不良、口ならお仲間思いと呼ばれるから、人とは得である。
「はい」
「採寸を頼めば勝手に数を直し、桟が狂っていると言って仕事を増やす。これでは経師屋の嫁は務まらん」
紙を無駄にしたのは、北の座敷の寸法を指二本ぶん取り違えた親方。数を直したのは、川筋の湿りを日向の家と同じに見積もった親方。仕事を増やしたのは、いま親方の背後で、端からふくりと息を吸っている南の襖でございます。
わたくしは周吾の肩越しに、その閉まり際だけを見た。下の角が敷居を擦り、上の骨がほんの少し南へ逃げている。雨ならあと三日、梅雨なら一度。まあ、今夜のうちに紙一枚を入れれば、まだ人前では笑っていられる。
「よって節には、今日限りで家の貼り場から手を引いてもらう。暇を出す」
囃す声が、今度はきれいに揃った。親方の言葉より、そちらのほうが閉まりのよい襖に似ていた。隙間なし。風も情けも通しません。
「はい」
三度目は、南の一枚が敷居へ当たる音と重なった。ことり、と小さな音だったので、聞いたのはわたくしだけらしい。
親方は満足げに咎めの紙を畳んだ。わたくしは立ち上がり、南の襖へ手を伸ばしかけて、袖の中へ指を戻した。
今日限り、と親方がお決めになったのだ。たいへん結構。指図に従わぬという十一個目の咎めを負った嫁は、今度こそ一枚も余計に貼りません。
* * *
【十日後・貼り場】
十日あれば、紙は乾く。糊も落ち着く。人の機嫌だけは、十日置いても塊のままで、濾して使えるようにはならない。
わたくしは預かっていた紙を一枚ずつ数え、使った分と残した分を合わせた。親方の控えでは百三十五枚、目の前には百十九枚。差の十六枚は北の座敷の骨組みへ八枚、川筋の家の下へ四枚入り、残る四枚は親方が上紙を裁ち損ねた穴へ消えている。嫁の無駄遣いという名の穴は、いつも親方の鋏と同じ形をしていた。
貼り台の下から、端の毛羽立った反故が一枚出てきた。細い墨で、わたくしの字が残っている。
四年前、六月三日。南。上桟、右へ一分。雨二日で当たり。
嫁いで最初の梅雨に書いたものだ。上へ貼るには短く、捨てるにはまだ丈夫で、南の襖が吸うはずだった歪みを代わりに吸わせた。以来、剥がすたびに端へ日と方角を書き足し、また下へ戻したので、紙というより家の具合書きである。具合書きを反故と呼べば、病人もずいぶん健康になりましょう。
その一枚を膝に置き、窓の外を見た。川筋の空は白く、風が水の匂いを抱えている。あちらなら三枚では足りない。五枚。南向きで夕立が続けば六枚。見栄を張って薄く仕上げたい親方が一人加われば、さらに二枚。人間は湿りより紙を食う。
奥から、飯を終えた職人たちの椀が重なる音がした。わたくしの膳だけ貼り台の端へ置かれており、茶漬けの米がすっかり水を吸っている。四年で何杯食べたかは数えない。数えれば襖では足りず、屏風まで要る。
冷えた茶漬けを流し込み、使わなかった紙を包んだ。反故一枚だけは包みへ入れず、しばらく指で端を撫でてから、懐へしまう。
「残りは控えどおりでございます」
「おう。そこへ置け」
周吾はわたくしを見ず、次の上紙の柄を職人と話していた。家の仕事は、嫁の名を呼ばずとも進むものらしい。ならば進んでいただきましょう。梅雨は呼ばなくても、もっとよく進みます。
わたくしは貼り場を出た。背後で襖が閉まり、最後に少しだけ敷居を擦ったけれど、もう一枚の値段には数えなかった。
* * *
【一月後・得意先の座敷】
梅雨前の白い襖ほど、人を安心させるものはない。上の紙はぴんと張り、継ぎ目もなく、陽を受ければ昨日までの失敗など一枚もなかった顔をする。お化粧としては満点、建具としては採点待ち。雨に答案を書かせればよろしい。
周吾の家が納めた襖も、並べて見れば以前と同じ白さだった。下貼りを減らしても、その日の面は変わらない。寄合衆なら、ほら同じだ、嫁の紙こそ無駄だった、と十一人ぶん胸を張れる仕上がりである。
わたくしは頼まれた紙の補修を終え、道具を包んだ。帰りしな、座敷の襖を閉めると、四枚のうち一枚だけが指先へ鈍く返した。見た目は同じでも、閉まり際は嘘が下手だ。
「あの、節さん。いま何か?」
家の者が、わたくしの手元を見ていた。親方ではなく、わたくしの名を呼んだ声だったので、指が一枚ぶん遅れて襖から離れた。
「この一枚だけ、貼り直してもよろしゅうございますか。今日なら上の紙はそのまま使えます」
「一枚だけで足りますか」
「この一枚には」
ほかの三枚にも要る。東の二枚は三枚ずつ、南の一枚は五枚。けれど、頼まれていない仕事へ手を出せば、また咎めが増える。十二は半端で縁起も悪い。十一のまま、きれいにお持ち帰りいただこう。
その一枚だけ上紙を剥がし、骨の逃げる側へ下貼りを足した。昔なら残りも夜までに直しただろう。親方の控えには載らず、得意先には知られず、翌朝には全部が同じ白い顔で並ぶ。それが嫁の手際だった。名のない手際は、たいそう家のためになる。
「ほかはよろしいのですか」
家の者が尋ねた。わたくしは三枚を順に閉め、最後の鈍さまで聞いた。
「親方のお仕事でございますから」
仕上げた一枚は、すっと敷居を走った。残る三枚は白く、立派で、何も悪くない顔をしていた。
ふふ。梅雨とは口が堅い。降るまでは、誰の味方か申しませんもの。
* * *
【梅雨入りの寄合】
梅雨は一度でよかった。
南の襖が閉まらない。川筋の座敷が波打った。上紙が持ち上がり、引き手が斜めになり、二人で押しても敷居の途中から動かない。周吾の貼り場へ届いた声は十一どころではなかったが、寄合が数えたのは三軒目でやめた。自分の家の襖が閉まらないと、人は急に数に寛容になる。
呼ばれて座へ入ると、ひと月前に笑っていた顔が並んでいた。今度は誰も囃さない。声を譲り合い、目を譲り合い、最後には座の中央だけが空いた。なるほど。都合の悪い仕事へ用意される場所は、いつも広い。
「節。おまえが下へ余計な紙を貼らなくなってからだ」
周吾が言い切った。まだ人前用の声は残っているものの、厚みは四枚ほど減っていた。
「紙が悪い。今度の紙は湿りを吸いすぎる。だが、おまえなら直せるだろう」
紙が悪い。親方の決め反応は、襖よりよく滑る。悪い紙が南だけを選び、親方の採寸違いに合わせて反り、わたくしが補った一枚だけ避けたのなら、紙にもずいぶん細やかな好き嫌いがある。
わたくしは懐から反故を出し、座の中央へ置いた。四年前の六月三日、南、上桟右へ一分。墨は薄れていたが、紙の端には歪みを吸った筋が残っている。
「これは、なんだ」
「十一のうちの一枚でございます」
寄合衆の一人が反故をつまみ、日付を読んだ。隣の男が周吾の背後にある南の襖へ手をかける。途中で止まり、もう一度力を込めると、襖は敷居へ食いついたまま、べこりと腹を鳴らした。
最初に、その男の口元から笑いが消えた。次に反故の日付を覗いた男、その次に周吾の咎め書きを覚えていた男。笑いは端から順に剥がれ、最後には誰も周吾を見なくなった。
「採寸を直したのも、紙を余計に使ったのも」
誰かが言いかけ、残りを飲み込んだ。たいへんよろしい。梅雨の座では、言葉まで湿りを吸う。
わたくしは親方を見た。南の襖を見上げた目が、ほんの一息だけそこで止まる。四年前、最初にこの歪みを見つけた日のまま、骨は右へ逃げていた。
「わたくしが貼って隠した分でございます」
「隠しただと?」
「親方の採寸を。骨組みの歪みを。雨が来れば閉まらなくなる分だけ、反故に吸わせてまいりました」
十一の全てを並べる必要はなかった。座の者たちは、自分たちが笑った項目を自分で思い出している。紙を無駄にする。反故を溜め込む。数を直す。仕事を増やす。どれも今、閉まらない襖の形をして目の前にあった。
「なら、早く直せ。家の名に傷がつく」
周吾の声が、家の名を先に出した。わたくしの四年より、商いの秋のほうが近いらしい。
胸の中で走り回っていた枚数が、そこで止まった。紙も、茶漬けも、見栄も数えず、わたくしは両手を膝へ置いた。
「わたくしは、四年、この家の梅雨を数えてまいりました」
周吾が口を開いた。けれど、南の襖がまた敷居へ当たり、その先は出てこなかった。
「今日からは、親方がお数えくださいませ」
頭を下げ、座を出た。誰も止めず、誰も笑わず、背中に十一の顔だけが並んだ。
外は雨だった。傘へ落ちる音を聞きながら歩くと、懐だけが妙に軽い。反故一枚を置いてきただけなのに、肩は十一枚ぶん上がっていた。
* * *
【十日後・材木の仲買の店先】
十日後、緑さんの店先へ呼ばれた。慰めの言葉でもくださるのかと思ったら、緑さんはわたくしの顔より先に、脇の古い建具を外へ引き出した。たいへん好ましい。人の不幸を聞く前に、木の不具合を見せる方は信用できる。少なくとも茶は冷めても、建具は冷めない。
「開けてごらん」
緑さんが顎で示した。わたくしは襖を閉め、引き手から指を離す寸前の重みを拾う。上桟がわずかに膨らみ、左下が敷居へ寄っている。朝は開く。昼の湿りで止まる。紙なら四枚、川から風が来る日は六枚。
「左下へ四枚。雨が三日続けば、あと二枚でございます」
「そうか」
緑さんは自分でも開け、閉めた。返事はそれだけで、次に懐から例の反故を出した。寄合の座へ置いてきた一枚である。
「拾っておいた」
「捨てられたかと」
「捨てる紙に、四年も日付は書かない」
反故の端を押さえる指は太く、節の浮いたところだけを避けていた。慰めは一言もない。それどころか、緑さんは建具をもう一度閉め、ぴたりと止まったところでこちらを向いた。
「あんたの下貼りに、うちは月いくら払えばいい?」
まあ。
いくら、ときました。反故ではなく仕事として。嫁の手伝いでも、親方の不足を埋める紙でもなく、わたくしの下貼り一式に値を付ける。月なら晴れが二十日、雨が十日として、晴れは一日六枚、雨は十二枚。糊代を引き、紙代を足し、冷えた茶漬けを温め直す炭を一枚——炭は紙ではない。いけない、値段を尋ねられた女はすぐ夢を盛る。
「銀十匁、でしょうか」
「十五」
「十匁で結構です」
「十八」
「なぜ増えるのでございます」
「自分の腕を値切るやつには、教える手間がかかる」
緑さんは反故を畳まず、わたくしへ差し戻した。月十八匁。襖にすれば何枚だろう。上紙なら二十、下貼りなら百を越える。煮しめに換えたら——いけない、こちらはかなり幸せな計算になる。
「節、明日から来られるか」
名を呼ばれた。
それだけで返事が一拍遅れたのを、緑さんは待たなかった。店の奥の建具を次々に開け、歪んだものと乾いたものを分け始めている。
「明日は川筋を三軒見る。朝からだ」
「はい。参ります」
「飯は職人と同じ刻に出る」
「ぜひ参ります」
返事が一枚ぶん厚くなった。緑さんは金額を書きつけながら、口の端だけ動かした。
* * *
【梅雨明け・普請の見分】
梅雨が明け、周吾の納めた襖が並ぶ家へ、寄合衆と緑さんとわたくしが呼ばれた。座敷の四枚は白いまま、三枚が波打ち、一枚だけがまっすぐ敷居を走った。わたくしが頼まれて補った一枚である。白さは同じ。閉まり際だけが、仕事をした手の名を知っていた。
「紙が悪い」
周吾は三枚を押しながら言った。押すたびに上紙が腹を鳴らし、引き手が指から逃げる。
(襖なんぞ、上に紙さえ貼れば——)
もう一枚が、目の前で止まった。
周吾は肩を入れた。襖は動かず、代わりに敷居が低く軋んだ。寄合衆の一人が手を貸しかけ、補われた一枚へ目を移す。その手は途中で下りた。
「こちらだけ、なぜ」
家の者が尋ねた。誰もすぐには答えず、互いに声を譲った。梅雨前にはあれほど揃っていた合唱が、今は一人ぶんの喉さえ出てこない。
緑さんが補われた襖を開けた。
「節」
「はい。こちらだけ下へ五枚足しております。骨の逃げる側へ三枚、湿りを受ける側へ二枚」
「ほかは」
「親方のお仕事でございます」
寄合衆の顔が、周吾を越してこちらへ向いた。敬意か、秋の座敷を守りたいだけかは、どちらでもよろしい。閉まる襖の依頼は、閉められる者へ来る。それで代金まで閉じ込められなければ満点だ。
「秋の普請だが」
一人が懐から注文の札を出した。これまでなら周吾へ渡すはずだった札を、緑さんの前へ置き、向きをわたくしへ直す。
「節さん、いつなら入れる」
「うちもだ。南の座敷を先に見てもらいたい」
「こちらは川筋で——いや、先にどうぞ」
また声を譲り合う。仕事の日取りとなると、皆さま急に襖より滑りがよい。わたくしは札を三枚並べ、方角と風を聞いた。日取りを答えるたび、周吾の秋から一間ずつ仕事が消え、わたくしの控えへ入った。
「節」
周吾が呼んだ。寄合の場では一度も必要としなかった名である。
わたくしは南の襖を見上げた。査定の目がそこで一度だけ止まり、すぐ次の札へ戻る。
「川筋は先に拝見します。南向きは午後に。紙の数は、建具を開けてから決めますわ」
緑さんが注文札をまとめた。周吾の手は伸びなかったし、誰も彼へ日取りを尋ねなかった。
咎め十一は撤回されないまま、たいへん立派に働いた。わたくしを家から出し、仕事までこちらへ運んでくださったのだから、親方の四年でいちばん出来のよい紙かもしれない。
* * *
【翌春・新しい貼り場】
翌春、緑さんから任された最初の普請が仕上がった。
新しい貼り場は朝から陽が入り、糊の鍋と飯の鍋が同じ刻に湯気を立てる。道具を置く棚には、節、と書いた札が掛かっていた。見間違えようがない。わたくしの一間である。名だけで下貼り三枚、鍵まで任されて五枚。朝からなかなか景気がよい。
最初の襖を貼る前に、四年前の反故を広げた。六月三日、南、上桟右へ一分。周吾の家の歪みを吸ってきた紙は、緑さんの店で乾かされ、端の筋だけを残している。
「それ、下へ入れるのか」
職人の一人が尋ねた。
「はい。わたくしの最初の一枚ですから」
「上からは見えんぞ」
「見えないところへ入れるのが仕事でございましょう」
職人は、そりゃそうだ、と糊刷毛を寄越した。それ以上は聞かない。見えない手数を、見えないから無いとは言わない。それだけで、この貼り場には周吾の家より襖百枚ぶんの風が通る。
反故を骨へ置き、新しい紙を重ねた。今度は誰かの失敗を隠すためではない。南の陽と、川から来る風と、この一間が迎える最初の梅雨のためだ。
仕上げた襖を建て込み、閉まり際を見る。音もなく走り、柱の手前で軽く指へ返る。上、下、左右。どこにも逃げはない。
引き手を外し、裏へ細い筆を入れた。
節。
たった一字なのに、下貼りなら何枚だろう。十枚では足りない。百枚でも薄い。四年ぶんとすると千枚を越えるので、さすがに襖が閉まらなくなる。ここは一字のままでよろしい。
「節、飯だぞ」
奥から呼ばれた。職人衆は貼り台の脇へ車座になり、わたくし一人ぶんの場所を空けている。座ると、湯気の立つ鉢が目の前へ寄せられた。大根、里芋、椎茸、それから鶏。鶏! 冷えた茶漬けなら三杯ぶん、いや、椎茸を足せば下貼り五枚ぶんは上等である。
「煮しめが温かいうちに食べられる貼り場ですって。もう、それだけで五枚ぶん違いますわ」
「何と比べて五枚だ」
「人生でございます」
「そりゃ安いな」
職人衆が笑い、鉢をさらにこちらへ押した。特別扱いではなく、早く取らなければ里芋がなくなるという笑いだったので、わたくしも遠慮なく二つ取った。仕事場の温みとは、たぶんこういう下品な奪い合いをする。たいへんよろしい。
戸口で影が止まった。
周吾だった。春になっても人前用の帯を締めていたが、端が少し擦れている。あの帯なら下貼り千枚。千枚ぶん締める方ほど、梅雨の襖を開けませんのね。
「節。家の仕事が回らん」
挨拶より先に、家が出た。変わらないのは悪いことばかりではない。こちらも返事を選ばずに済む。
「秋から得意先も減った。おまえが戻れば、また前のようにできる。家の名にも傷がつかずに済む」
周吾は職人衆のいる奥を見て、声を落とした。
「戻ってくれ」
わたくしは立ち上がり、戸口まで行った。周吾の背後には、春の乾いた光がある。梅雨になれば、あの家の南はまた右へ逃げるだろう。
「わたくしが貼って隠した分でございます」
周吾の口が動いた。けれど、何を返すつもりか待たずに戸を閉めた。乾いた戸は一度で収まり、隙間も残さない。
「節、里芋がなくなるぞ」
奥から名を呼ばれた。
「いま参ります!」
戸を背に、新しい一間へ戻った。わたくしの襖はきちんと閉まり、引き手の裏では、誰にも隠れず、節の一字が次の梅雨を待っていた。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
またどこかでお目にかかれましたら。




