夏の切ない、きな粉の思い出
会社の談話室で、女性社員3人でお昼のお弁当を食べていた。
今は夏真っ盛り。最高気温は毎日30℃を軽く超えている。
「毎日、ほんとに暑いね」
「ね」
「もうイヤ」
「対策、どうしてる?」
「冷えピタ貼って寝る」
「クーラーと扇風機の併用は必須」
「あ、それ、私もやってる」
「私も」
そこで会話がふっと途切れ、1人が話し始めた。
「扇風機と言えば。私ね、家で『好きなだけあんみつ』やってるのね」
「なにそれ」
「すごい興味ある」
「あんこと、寒天と、フルーツの缶詰と黒蜜を買ってきて」
「あんこ派なんだ」
「あんこ派というより、黒蜜派」
「ああ、なるほど」
「全部売ってる?」
「売ってる売ってる!めんどくさいからどれも作らない。あ、白玉だけ作るけど」
「うんうん」
「それで?」
「それぞれタッパーに入れて、冷蔵庫に入れておくと、好きなときに好きなだけあんみつが食べられるの」
「なにそれ!」
「最高すぎる!」
「バニラアイスなんて買ってきたときには…」
「それは!」
「最高すぎる!」
「お風呂あがりに毎日食べてるのね」
「太りそうだけど」
「最高ー」
「で、昨日は白玉を作ったの。ストックがなくなったから。置いとくと固くなるし」
「そうだね」
「そんな感じする」
「出来立ての白玉見てたら、『今日は黒蜜きな粉で食べようかな』って思って」
「ああ…」
「至福じゃない…」
「でね、私、きな粉も大好きだから、白玉に黒蜜かけたものか入った皿と、きな粉の袋を持ってローテーブルに座ったのね」
「うん」
「で、きな粉をかけようと袋を傾けたら、首を振ってた扇風機がちょうどこっちを向いて」
「…うん?」
「もしかして…」
「きな粉がファサーって舞ったの」
「ンフッ」
「フフフッ」
「思い切ってかけようと思ってたから、思いっきり舞って」
「待って、ブフッ、やめて」
「フフフッ」
「思わず、『黄砂に〜吹かれて〜』って歌っちゃった」
「フハハハッ」
「切ない、切なすぎる!」
「スローモーションだったなぁ、部屋が扇風機の風向きにあわせて黄色くなっていくの。今年の夏の思い出」
「ちょ、ちょっとやめて」
「アハハハハハ」
談話室の他の人々がカタカタと震えている。
「もー!笑って余計に暑くなったじゃない!」
「どうしてくれるのー!」
「ごめんごめん。最高だからやってみて」
「黄砂に吹かれてが?」
「ッンフフ」




