明日を描く
今日は白瀬が東京に出る日、生まれた時から一緒だ
った、高校受験でも必死に勉強して同じ高校に進学
した。けど別れはいつか来るもの。今日でお別れだ。
白瀬は東京の芸術科に進学した。俺も同じ大学の普
通科に進学しようとしたが白瀬に
「自分が本当に行きたいところに進学したら?」と
言われ富山大学の都市デザイン科にした。その選択
に後悔はない…はずだ。
「お待たせ〜」
白瀬だ
「デッサンしてたら遅れちゃった」
いつものように話しかけてくる
「ここのバスなんて日に3本だから気をつけろ」
「そんなんわかってるって」
ほんとに最後なのかわからなくなってきた。
また明日もこんな会話を続けているような気がする。
バスが到着する
「この景色も最後なんだね〜」
「俺は最後じゃないけどね」
鬱蒼と雑木林と古民家が続く道。何万回と通った道
「東京に行っても、たまには連絡して」
「うん」
なんて会話を続けていると駅に着いた
相変わらず古びた、ちっぽけな駅。
変わっていないのに、なぜか寂しさを一層感じる。
電車に乗る。窓は雨で曇って何も見えなくなっていた。
「大学卒業したら、富山に帰ってくんの?」
「そんなことも考えてるけど、どうせ東京で仕事す
るよ」
そうだろう。わざわざこんなど田舎に帰ってくるな
んて変人だ。
「新黒部、新黒部です。新幹線はお乗り換えです。」
そんなことを思っていたらもう着いてしまったようだ。
ここまできたなら新幹線ホームまで着いて行くしかない
入場券を買って中に入った。
いつもこのホームに入る時は楽しみでいっぱいだった。
このホームに入ることは即ち旅に出ることに意味して
いたからだ。旅行先の情景を思い浮かべて笑みを浮か
べていた。けれど今日は寂しさしか浮かんでこない。
『またどこかで逢えたらいいね』
まさか一言一句同じ言葉を言うとは思わず。恥ずかし
がりながら笑みを浮かべる。
「1番線にはくたか、東京行きが参ります」
もう新幹線が来るようだ。
「じゃあ、東京行っても頑張れよ」
「水野くんも富大で頑張って」
白瀬が新幹線に入る。
なんだか白瀬の足が遅く見える。
まるで引き留めてと言わんばかりだ。
新幹線が発車する。
俺は新幹線が見えなくなるまで、大きく手を振り
続けた。
そして、新幹線がいなく別れてもその場で立ち
尽くした。
気づけばホームは貸切状態だった。
音もなく、気づけば雨も止み、まるで時計の針が止まったようだ。
そして、
「白瀬のいる大学の方がずっと行きたかった」
なんて思ってもなかったことを口にする。
やっときた古びた電車に乗って、帰宅する。
さっきまでの大雨が嘘だったかのように空は雲一つない晴天だった。
「愛本、愛本です」
駅から家まではバスが噛み合わなかったため、歩
いて帰る。
時々バスに乗り遅れて、2人でここ歩いたな、そん
なことを思い出していた。
そんなこんなで家に帰り、その夜は早く寝…れな
かった。清書された白瀬の大学への願書を見つける
手にとってみるが、折り目もなく綺麗に保管していた
「この願書を出していれば今頃…」
「そもそも都市デザインとか東京でもできるだろ」
下を見ると枕元がずぶ濡れになっていた。
白瀬がいない明日からの生活
もうバスを乗り過ごすことはないし、
白瀬の家に叩き起こしにいく必要も無くなった。
だけど、それでもちっとも嬉しくなんてなれなか
った。
「じゃ〜ん、この作品どう?」
頭の中で白瀬の声がフラッシュバックする
それから一晩中泣き続けた。
朝日が昇る。
ふと白瀬のこんな言葉を思い出す。
「人生っていうのはキャンバスと一緒。いろんな経験して
たくさんの体験があって、だから美しくなる。」
「違うキャンバスでおんなじ絵を描いてもつまんないでしょ」
「いつかあったらお互いが描いてきた絵を見せ合おう」
『そうだな』
すっかり日は登っていた。
磁石のように惹きつけられ、バス停の小屋に腰を下ろす
白瀬とここでバスを待ったな。
白瀬とここで話してたな。
白瀬と…
急に視界がぼやける。
「お待たせ〜」
白瀬!?
「もうバス来てるよ。乗らないと!」
しかし現れたバスは小さく人が乗れないほどだった
「バス乗り遅れちゃったね」
南から眩しい日光が刺さる
「仕方ないから歩いていこっか」
と白瀬は駅と反対方向に歩き出した
仕方ないやつだな。
「そっちじゃないぞ」
と言おうと見渡してもどこにもいない。
どころかすっかり陽が落ちている。
どうやら今のは夢だったようだ。
思えば通学時間帯なのになぜか太陽が南にあった。
10時間以上寝るなんて相当疲れてたんだな。
「またどこかで逢えたらいいな」と思う。
にしても、白瀬がいた面影はどこにもない。まるで夜の藍が
隠したかのようだ。
そんな夜の中、
「白瀬のいない明日もしっかり描くから」
なんてあの日の言葉に返事をしてみる。
まだ昨日のことは嘘のようだ。
また夢で会えるような気がする。
けれども、俺は描き出す。描きかけのキャンバスに。
あの言葉に返事をしてしまったから。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
舞台にしたところは富山県の黒部市、旧JA愛本支所前バス停周辺です。




