表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第二話 心霊番組 二、白井ののによる現場での話(1)

 その木戸霞(きどかすみ)というタレントさんのことは、たまにテレビに出ているらしい、ぐらいしか知らなかったのですが、会ってみると、これは小百合さんに会わせなくて良かった、と心からほっとするような、特殊な人でした。太い枝みたいなツインテを下げた無骨な私とはまるで正反対の、白のワンピースにベージュのカーディガンをはおった見た目はいっけん清純そうで、垂れ気味の目をした綺麗な面長の顔も穏やかな、大人の女という感じでしたが……。

 その首から下がる白いネックレスが、ピンポン球のようにでかい真珠をずらりつなげたワイルドなもので、今思えば、それが彼女の本性を表していたといえます。



 出発前、彼女はスタジオで私に会うなり、バカにしたようなほっそい流し目をおくり、鼻にかかった声で、「あらぁ、星野先生の助手ぅ? まぁいいけどぉ、迷惑かけないでよねぇ」と実際バカにしてくるので、居合わせたスタッフさんが「ごめん、気にしないでね」と気を使ってくれるほどでした。

 もちろん私も嫌は嫌でしたが、今日一日のことだと思い、作り笑いで我慢しました。ここでケンカしたんじゃ、星野先生のご迷惑になりますから。


 しかし、悪いことは重なりました。スタッフ用のワゴンで現地の廃病院に着くや、私は隣にこんなのがいて気が重い、などというストレスなんて比べ物にならないほどの壮絶な不快感に襲われ、まるで悪性のウィルスにでも感染したように冷や汗が出てぐるぐるめまいがし、そのまま倒れそうになりました。霊気を感じて気持ち悪くなったことは何度かありますが、ここまで酷いのは初めてです。

(まずい。これは、とてつもなくまずい……!)


「どうしたの、ののちゃん、大丈夫?! 真っ蒼だよ?!」

 車内で一歩も動けない私を見て、右にいたスタッフの眼鏡の人が心配してくれたので、私は息も絶え絶えに言いました。

「……ダメです」

「えっ」

「ここはダメです。物凄くヤバいです、ここ……! すぐ帰らないと、大変なことになります……!」


「あんたねぇ、まだカメラ回ってないわよぉ」

 木戸霞が左でイライラと言いました。

「取り憑かれたふりなんか、本番ですりゃあいいの。今ここでやって、どうすんのよ」

「いやこれ、ふりじゃないと思うよ……?」

 スタッフさんが言っても、木戸は気にもせず、バッグをあけて化粧を直したりしています。

「女子高生だからって、アイドルぶるんじゃないわよぉ。今さら出たくねえだとか、そんなわがまま通ると思ってんのぉ?」と横目。


 女子高生だからアイドルぶるとか、いま思うと意味が分かりませんが、そのときは心で突っ込む気力もありませんでした。

「ち、ちがいます」

 私はもう弱りはて、泣きながら必死に訴えました。

「ほ、ほんとにここは、まずいんです。こんなの初めてです。感じます。みんな死ぬかもしれない……!」

 こっちを見た運転手さんの、ぎょっとする視線を感じました。

「お、お願いです、戻ってください。どうか……!」



 スタッフさんたちは困って相談を始めました。

「どうする? 今さら撮影中止ってわけにもいかんし……」

「でも、あの星野さんの助手だぜ。ほんとにヤバいかもしんないぞ?」

「バァカねえ、あたしら平気じゃん」

 口をはさむ木戸。そのうち、急に上機嫌になって言いました。

「気分悪いってんなら、いいじゃない、この子だけ帰せば。ねえほら、かわいそうにねぇ」と手を伸ばして、震える私の頭を撫でます。「この体調じゃ、無理よぉ。入院なんてなったら、大変でしょ。大丈夫、あたし一人でなんとかなるから。ほら、誰か送ったってよ」



 結局、私だけ家に帰されることになってしまいました。木戸は邪魔者がいなくなるのが嬉しくてしょうがないのか、「我慢してないで、横になりなさい」などと私を優しく気遣い、ハンカチで額の汗を拭いてくれたり、風邪薬があったかなぁと、自分のバッグをあさったりしました。

 私はなすがままにされ、もう疲れて半分眠ってしまい、すべてがどうでもよくなりました。このまま自分が帰って、スタッフさんや、こんないけすかない奴でも、ある程度のファンはあろう木戸が命を落とすことになったら、取り返しがつきませんし、実際にそうなる可能性が恐ろしく高いのです。断言は出来なくても、そう感じたのです。


 しかし、それでも彼らの気を変えることは出来ませんでした。というか、そもそも私にそんな気力はまるでなく、彼らが企画を進めるのを聞くうちに、どうでもよくなってきました。

(そうだ、私がこれだけダメージを受けているのに何も感じないということは、彼らには霊感が本当にまるでないわけだから、あんがい大丈夫なんじゃねえの?)(いいや、もう。私の役目、終わりっ)

 そう思うと、本当に、完全にめんどくさくなりました。

(星野さんには悪いけど)(力が及びませんでした、とでも言えば許してもらえるだろう……)

 そこまで投げやりになって、私は一人、タクシーで家に帰されました。どうやって家に入ったか覚えていません。




 目覚めると、あれだけ酷かった体調不良が、けろっと治っていました。ベッドの中で、たちまち物凄い不安と後悔に襲われ、時計を見ると、現地にいたときから五時間は経っていて、もう真夜中でした。


 スタッフにもらった台本を慌てて探しましたが、電話番号も何も書いてありません。

(そうだ、名刺をもらったんだ)(担当の梅図さんという方で、一緒に現地に行っていたはず……)

 スマホでかけましたが、全く出ません。仕方なくテレビ局にかけて事情を話すと、今回の企画の責任者の人に代わってくれました。向こうからまだ連絡は来ていないとのことだったので、お願いすると、気さくな感じで、直接、電話で聞いてくれると言ってくれました。


 ところが折り返しの電話では、彼は打って変わった暗い声でした。

「おかしいな。誰も出ないんですよ。担当の梅図も、向こうに行ってるスタッフの誰も出ないんだよね。もしかしたら、なにかあったかもしれない。こっちから何人か向かわせて確認します」

「わ、私も行きます!」

「でも白井さん、現地で倒れたんでしょう? あとは我々に任せてください。いや、教えてくれて、本当にありがとう。もしあっちでまずいことがあって、何かご協力いただきたいときには、また連絡します」


 そう言って切れて、私がどうしようか、星野さんに伝えて指示を仰ごうか、いやでも、まだ忙しかったら……などと頭がぐるぐるしているところへ、また電話がかかってきました。「今こっちへ向かっている、一緒に来て欲しい」「大変なことになった」という内容でした。もちろん承諾です。


 切ると、また電話が鳴りました。小百合先生でした。向こうは仕事が終わり、心配してかけてくれたのです。「天の助け」と今までの経過をぶちまけると、今すぐ来てくれると言ってくれました。




 こうして局の人たちと小百合さんが合流し、私たちは車で現場を目指しました。やはり近づくにつれ、前と同じく気分が悪くなってきましたが、小百合さんが魔よけの札を握らせてくれたので、そう酷くはなりませんでした。病院の門に着くと、辺りに漂うあまりの邪気に小百合さんも顔をしかめました。


 同行した責任者の方のお話では、さっきここへ入ったところ、彼も含めて部下の人たちが一様に酷い頭痛に襲われたとのことでしたが、今も彼らは顔がまっさおで、つらそうでした。

 私たちは、それでもなんとか中に入りました。庭に設置してある撮影所はありましたが、スタッフは誰もおらず、タレントの木戸さんもいません。頭痛はますます酷く、頭が割れるかと思うほどで、吐く人もいました。


 みんな這うようにしてその場を離れ、車に戻りました。

 あとで聞いた話ですが、戻る途中、その場の数人が、背後からおびただしい数の何かが、自分たちを追ってくる気配を感じて、ぞっとしたそうです。


 小百合さんは、車には何も憑いていないから心配ないと言い、私と局の人たちに車の中で待っているように言うと、またひとり門の中に入っていきました。戻ると、やはり中には誰もおらず、奥にあったデッキにブルーレイが二枚入っていたので、取り出して持ってきた、と見せてくれました。凄まじく青ざめた顔で、能面のように無表情でした。こんなに恐ろしい先生の顔を見たのは初めてかもしれない……。そう思いました。




 翌日、小百合さんも所属する霊能者の団体である霊能協会の調査が入り、この病院は完全に封鎖されました。いまだ対策を検討中で、それが決まるまでは、周りを有刺鉄線で囲んで誰も入れなくなっています。


 二枚のブルーレイは小百合先生同伴のもと、局の人たちがチェックしました。そこには信じられないほど恐ろしい映像が残っていました。


 一枚は、実際に木戸さんが廃墟の中で取材しているところを撮影した映像です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ