第六話 リアル福笑い
これは白井ののの兄が、小学生のころに聞いた怪談話である。他校で起きた事件らしいという、あくまで噂話の域を出ないもので、真偽のほどは定かではないが、かなりの気味の悪さがあるので、ここに紹介する。
平成の、ある年の正月のこと。数人の小三のガキどもが、同じクラスのAの顔写真を大きく引き伸ばして二枚コピーし、それで福笑いをした。一枚目は顔を肌色に塗ってのっぺらぼうにし、二枚目から目鼻、口や耳などの顔の各部を切り取ってピースにする。これらのピースを、一人ずつ目隠しして一枚目に乗せて顔を作っていき、福笑いをして遊ぶのである。クラスで親しくもなく、今で言うぼっちだったAのことなので、遠慮なく笑いものにしようという、ガキの無遠慮なアイディアだった。そうしてみんなで写真の大判コピーを囲み「リアル福笑い(言い出しっぺのBのつけた名称である)」を始めた。
ところが笑えると思いきや、リアルな目や口が輪郭の中で縦や斜めになったり、あちこちに点在すると、まるで化け物か妖怪のように見えて気持ち悪くなった。おかめのような簡素なマンガ絵とちがい、実写の人の顔の目鼻があちこちに移動したさまは、まるで事故死体の破損した顔のようで、おぞましいだけである。
だが、ガキどもは前向きだった。それはそれでホラーとして面白いというわけで、みんなでわいわい寒がりながら、Aの顔をムチャクチャにして楽しんだのだった。
新学期が始まったが、Aは来なかった。病気とのことだったが、正月にあんなことをして遊んだ手前、ガキどもは気になった。彼らのうち、BとCとが見舞いに行った。
二人は、そのまま二度と戻ってこなかった。
Aの親によると「お見舞いに来てちゃんと帰った」とのことだったが、結局警察も行方をつかめず、一週間が過ぎた。
「Aからメールがきたから、放課後に学校の裏庭で会う」とDがEに言った。しかしDはAとメール交換した覚えはないのに、スマホにショートメールが来ていて、Eは怪しいと思って止めたが、Dは気になってしょうがないからと、会いにいった。
放課後、DからEにメールがきた。「顔がAの顔が」というだけの異様なものだった。
翌朝、担任は「Dは風邪で休み」だと言ったが、EがDの家に電話してもつながらず、帰りに寄っても会わせてもらえなかった。数日後、Dは実は行方不明だと聞かされた。
その翌日の下校時、誰もいない公園の前で、先生に相談しようかと悩んでいたEのスマホが鳴った。Aからで、(ほとんど聞いたことはないが)あいつこんなだったのかと驚くような、ぞっとするほど低い、老人のようにしわがれた声だった。しかも押し殺すような言い方だった。
「今、お前のうちにいる。早く帰ってこい……」
そう言って切れたので、Eはぞっとして家に電話したが、家族の誰も出ない。
警察に行こうと決意したとき、いきなり後ろから右肩をぐっとつかまれ、息がとまった。
「よく、き、け……」
さっきのAのしわがれ声が耳元でした。それは今にも途切れそうなほどに、ゆっくりと発した。
「おまえらの、せいで、うちに、帰れなく、なった……」
「えっ……どうして」
おそるおそる聞くEに、Aはさらに声を低めて言った。
「おまえらの、せ、い、で、」
声がうっすらと怒りと恨みの色を帯びた。
「お、れ、の――か、お、は――」
それ以上聞けなかった。Eは目をつぶったまま、後ろのAを思い切り突き飛ばして逃げた。
「E!」
怒鳴り声に思わず振り返ってしまった。相手の顔だけは見たくなかったのに、だ。しかしAはそのとき彼に背を向けていたので、幸いだった。
そのはずだったが、Eはそれを見てしまった。その瞬間、すさまじい恐怖に飛び上がって絶叫した。そして何度も転びかけながら、死に物狂いで走り去った。
彼が最後に見たのは確かにAの後姿だったが、同時に、あまりにも恐ろしい、あるものがあった。Aの向かって左側のあご辺りに、大きな黒いほくろのようなものが見えたが、すぐにそうではないとわかった。
それは彼を恨みがましくにらみつける、一個のぎょろっとした目玉だったのである。




