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沈んだ歴史

作者: 尚文産商堂
掲載日:2010/06/15

俺がいつものように海岸を歩いていると、錆びた鉄の棒を拾った。

運よく知り合いに考古学の人がいて、その人のところに棒を持って行った。

それをしなければよかったと、最初のころは後悔もしていた。

しかし、徐々に分かっていく昔のことについて、心が踊ってしまう感じを覚えていた。


大学付属の考古学研究所へ持ち込み、いつもの教授と面談した。

小学校の頃から高校にかけて、すぐ横の家に住んでいた人だ。

社会人となった今でも、ずっと連絡を取り合っていて、なにかことあるごとに"ガラクタ"のたぐいの物を持ち込ませては困らせていた。

「こんにちはー」

「ああ、こんにちは。1年ぶりぐらいかな」

ダンボール箱を持って、教授は俺を見ていた。

「で、次はどんな物を持ってきたんだ」

箱は近くにいた学生に持たせて、俺が持ってきた袋に包んでいた鉄の棒を見せた。

「これなんですよ。何の棒なんでしょう」

「ふむ、錆びていてよく分からんな…」

白色のトレイや純水をどこからか持ち出してきて、鉄の棒にかけ出した。

「ん…なにか浮かびだしてきたな……」

いつの間にか、教授が座っている長机の周りに、学生が集まりだした。

「これは…星か、北斗七星の形に並んでいるんだな」

「どういうことでしょう」

「見るだけでは、何とも言えないな。ただ、これ、どこで拾ってきた?」

「『壇ノ浦』の近くの海岸です」

「…まさか、な」

教授は近くにいた学生に、いろいろと指示を出している。

「あの古文書持ってきて、それと他の先生たちも呼んで来てくれ」

「どうしたんですか」

「…これは単なる錆びた鉄の棒じゃないよ。剣だよ。それも、見立てが正しければ、かなり古いものだ。いうなれば、奈良や飛鳥の時代にまでさかのぼれるかもしれないほどに…」

俺が驚いて聞き返そうとした時に、おなじがぐぶの教授や助教たちが駆け付けた。

「呼んできました」

学生が教授に報告をするのと同時に、他の先生方がトレイの周りに集まった。

「これがそれか」

「ああ、確かめてほしい」

白いゴム手袋をつけた先生方は、一人ひとり、探るかのように棒を見続けた。


じっくり全員が見終わったころには、1時間以上経っていた。

「それで、皆様のご意見をぜひとも拝聴させていただきたい」

教授が、先生全員に聞いた。

「…剣ですね」

「ああ、それは間違いない。それに、剣の腹に描かれている星は、北斗七星の形を描いているようだな」

「このサビの具合を見ると、長年海底にあったらしいな」

好き勝手に言っているようで、なんとなく結論が見えてきた。

「…では、皆様の考えておられることは、一つということで…」

目をあわせて、全員がうなづいた。

「ああ、これは恐らく『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』だろう」


翌日から、報道機関がうじゃうじゃ集まってきていた。

だが、その誰にも相手にせず、専門家集団が来るのをじっと待った。

やっときた5人の団体は、文化財のエキスパート達だった。

どこかの博物館の研究員らしく、専門は奈良や飛鳥時代あたりと聞いていた。

「それで、そのものはどこですか」

警官に守られている剣を見るために、所内に設けられた何カ所もの関所をIDを見せて突破してきたらしい。

俺もそうだったから、よく分かる。

「これです」

教授が警備員に守られた白いトレイに入った刀のようなものを見せる。

「少し見せていただきますね」

俺たちがいる目の前で、白い手袋をつけて、刀を持ち上げた。


数十分間、くまなく見てから彼らの代表が教授に伝えた。

「さらに詳細に検討する必要がありますね。おそらくは、飛鳥時代前後かさらにそれ以前に鋳造されたものでしょう」

そう言って、持ってきたカバンの中にしまってあったビニール袋を取り出して、刀だけを袋にしまった。

「これから博物館に持ち帰り、詳細検査を行います。結果は終わり次第報告します」

警備員は刀と一緒について行った。


嵐の後のような静けさが、部屋の中にあった。

「いっちゃいましたね」

俺が教授に言った。

「1週間ぐらいは最低でも見たほうがいいだろうな。何かあれば知らせるから、それまでは帰っておきなさい」

「わかりました、俺も何か見つけたら、また持ってきますね」

教授にそう伝えてから、研究所を出た。


記者たちはすでにいなくなっていた。

少し残念でもあったが、一方で安どもした。

なにせ、質問攻めになることを恐れて昨日からずっと研究所にこもっていたのだ。

太陽を見るのも1日ぶりだ。

「まぶしっ」

出口から出た瞬間に、太陽の光がまともに降りかかってきて、思わず目を腕で覆った。

「長かったな……」

おもわずつぶやいてしまった。

それほど長く感じていた。


それから1ヶ月後、ようやく調査の結果が教授のもとへ届けられた。

結果は、草薙の剣が造られたのと同時期の作であり、それ自身である可能性も否定はできないとするものだった。

これは、壇ノ浦で発見されたものであり、通説に従えば本物である恐れは高いが、断定するには判断材料が足りないという理由で、濁されたということになった。

それを教授から聞いて、俺はうれしかった。


ちなみに、そのあと、草薙の剣として博物館に所蔵されることが決定した。

俺は第1発見者として、かなりの額のお金をもらい、ゆっくりと暮らすことにした。

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