贄
暗い、寂しい、辛い
最初はそんな思いばかりを抱いていたが、もうどうでも良くなった。
この場所に来てから何年経過しただろうか
何年?数十年?いや数百年だろうか?
もう覚えていない
今日はSNSを通じて、人と会う約束をしている
全国でも有数の心霊スポットとして有名な
場所に彼女と訪れる予定だ
彼女と言っても、今日知り合ったばかりの女の子だけど。歳は、、、20歳だったっけ
まぁそんなことはどうでもいい
車を走らせ、待ち合わせ場所へと向かう
深夜零時時にスポット近く(30分程)の公園で待ち合わせをしている
さてどんな子が来るか楽しみだ
車を30分ほど走らせ
公園へとたどり着く
公園のベンチに腰をかける女の子が1人
ブランコへと腰をかける子供が2人
公園のど真ん中に立ち尽くす女の子が1人
待ち合わせをしているのはどうやら公園のベンチへと腰をかける女の子の方のようだ
「お待たせ。
こんな遅い時間に待たせてしまってごめんね」
「い、いえ!初めまして!SNSで募集されていた方で間違いないですか?」
「えぇ。間違いないですよ
それでは早速、例の場所へと向かいますか
そう俺は素っ気なく答える」
彼女を車へと乗せて車を走らせる
10分経過した頃だろうか
「なんか怖くなってきちゃった!身体がゾクゾクする感じ?!分かるかな?」
「あーわかるよ。僕も最初はそうだったからさ」
「やっぱりですか?!
怖いからラジオ流してもいいですか?」
「いいよ」
助手席に座る彼女は車に搭載されている
チューナーに手を伸ばす
ノイズと共に男性と女性のラジオパーソナリティの声が車の中を和ませる
「なんか電波悪いですね、、、、声が途切れ途切れになっていて、お化けの声みたい、、、」
和ませるつもりでつけたラジオが森の中を走っている影響を受けてか電波の通りが悪いようだ
「もしかして心霊スポットが近いからかな?!!」
「そうかもね」
車を走らせて30分経過し
目的地が見えてきた
彼女とはラジオの話以降特に会話するネタも無かったため、会話をすることはなかった
車を路肩に止め、彼女と車から降りる
「めっちゃ不気味!いかにも出そうって感じー」
「じゃ一緒に入ろうか」
「はい!」
*
スポットの中へと足を踏み入れると
一気に雰囲気が変わるのを背中で感じた
私は今日知り合った男性とスポットへ訪れた
本当はもう1人来る予定だったんだけど、急遽仕事の急用で来れなくなってしまった
顔が見えない状態で会話をしていたから、どんなオタクが来るか心配だったけど
かなり顔立ちのいいイケメンが声を掛けてきて少し動揺した自分が恥ずかしい、、
もしかしたらお持ち帰りされちゃうかも!
なんて想像しながら奥へと進んでいく
隣を歩いている彼は怖ぶる素振りなど全く見せないため安心感がある
「肺虚さんはこういうスポットとか回るのって何度目なんですか?全然怖がる素振りとか見せないから、かなりのベテランだと私は睨んでいるんですが、、、」
「うーんそうだね。ここに住み始めてから君の歳の倍は経過してるかもね」
「やだなぁ!冗談はよしてくださいよ!」
「ふふっ」
不気味に笑う彼を見て一瞬、鳥肌を感じた
だが、気のせいだろうと自分に言い聞かせ歩みを進める
(ぽちゃぽちゃぽちゃと)
水滴の垂れる音が聞こえ始める
どうやら近くにトイレがあるようだ
「水道とかってまだ通ってるんですかね?」
「さぁ?僕は利用する必要がないからわからないな」
どういう意味なんだろう。
そんなことを考えているとトイレを催す
「ごめんなさい!ちょっとトイレに行ってもいいですか?」
「わかった。何かあったら教えてくれ」
「はい!ほんとすみません!!」
せっかくいい雰囲気だったのに、、、
嫌なタイミングでトイレに行きたくなるなんて、、、、
手入れがされていないためトイレ内は酷く腐った臭いに満ちていた
電気もなく正直こんな所でトイレなんてしたくないが、漏らすのだけは絶対に嫌だ!
何かあれば彼が助けてくれる
気がつくとそんな実態の掴めない
信頼に近い何かを彼に向けていた
用を足しおわり、個室から出ようとする
(ふふふふふ)
隣の個室から声が聞こえてくる
き、、、気のせいよね。
ギーーーーーーーーーーーーー
ドアを開ける際に軋むような音が隣から聞こえてくる
『キャっっっ!!』
私は怖さのあまり無心に自身の入っていた個室の扉を蹴飛ばし、トイレから逃げ延びる
『はぁはぁはぁはぁ』
怖さのあまり呼吸もままならない
深呼吸をし、呼吸を整える
あれ?
トイレの外に待っていたと思われる彼の姿が見当たらない
「おかしいな。あの人どこに行ったんだろ?」
彼の姿を探していると
女子トイレの方から
ふふふふふふと笑い声が聞こえてくる
先ほどよりも大きく反響している
腰が抜けてしまい
床にうずくまる
トイレの入り口に視線をやっていると
入り口の壁に一つの手が見える
一目見ただけでこの世のもので無いことを悟った
爪だけでも5cmほどの長さがありどう見ても人間の手では無い
「うわぁぁぁぁぁ!」
足が動かないため
這って彼の姿を探す
「助けてください!!」
誰か!誰か!!
後ろを振り迎えると
先ほどの爪の所有者であるものと数cmの差で顔を見合わせる
目は白目を向いていて、皮膚は爛れていた
*
俺は彼女の悲鳴を聞き
悲鳴が聞こえた場所へと足を向ける
「やれやれ。まだ俺の縄張りに手を出す奴がいたとは、、、、」
爪の長い女は俺の存在に気づくと
襲いかかってくる
*
気がつくと私は廊下の真ん中で意識を失っていた
どうやら泡を吹いた状態で倒れていたようだ
当たりを見渡すと彼が腕を組んだ状態で私を見ていた
「もしかして助けてくれたんですか?
私気がついたら気を失っていたみたいで、、」
「記憶が曖昧なんですが、爪の長い女に襲われてそれで意識が、、、、」
「気のせいだと思うよ」
そんなことを言う彼に私は恐怖を感じ始めていた
なんでこの男はこんな状況下でも冷静でいられるの?
そんなことよりも
もっと重要なことに気がついてしまう
私が倒れた側に鏡が展示してあるのだが、、、、
、、、、、、、、、、、、
「彼の姿は鏡には映し出されていないのだ」
彼はニヤッと笑う
「鏡は後で壊しておくよ」
*
俺は神聖なる部屋で儀式を行う
『今日も新たな生贄を捧げました』
私の願いがいつか叶う日を心待ちにしております。
私がいつかこの義務から解放される日を願って