表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

【第7話】引き下がれません!

 二週間後の、七月下旬。時刻は昼の一二時を回るころ。

 いつもの公園で、ルードゥスとアピリアは日課の修行をおこなっていた。


「ではルードゥス君。教えた三つの演舞のおさらいだ」


 アピリアは木陰に立ち、ゆらゆらと扇子をあおいだ。

 激しく照つく、夏の日差し。

 汗を垂らしながらも、ルードゥスは演舞へと意識を集中する。


「まずは一つ目だ。『活劇』の型、始め」


 師匠の号令を受け、少年は片手片足を前に伸ばし、構えを取った。

 そこから流れるように、拳や蹴りを素早く繰り出していく。

 最短最速の直線的な動きを主とする、実に攻撃的な型である。

 『活劇』とは、英雄の活躍を描くジャンルを指す。

 倒すべき敵や、困難を乗り越えることで物語を進行させていく。

 サブジャンルとして、未知の世界への冒険を描く『探求』や、バトルシーンに特化した『闘劇』がある。

 中でもここ最近は、特殊な能力を操る人々による、バトルや人間ドラマを描いた『異能』が流行である。


「では二つ目、『恋愛』の型。始め」


 号令に合わせ、少年の動きも変化する。

 拳を開き、滑らかに両腕を操る。

 先ほどとは異なり、円を主とした動き。相手を包み込みむような、柔の型である。

 『恋愛』とは、その名の通り人々の恋愛を描くジャンル。

 感情の揺れや、人物同士の心が近づいていく過程が物語のメインとなる。

 サブジャンルは、コミカルさを中心とした『喜劇』や、不純な関係を描いた『禁断』など。

 二次創作を描く『幻覚』というサブジャンルもあり、一部で熱狂的なファンを抱えている。


「三つ目、『推理』の型。始め」


 ルードゥスは片手を縦、もう片方を横に構える。

 三角を描く足の運び。死角を突く、独特な技の数々。

 角の動きを主とした、相手を翻弄する型である。

 『推理』とは、不可解な謎や、その解明を描いたジャンル。

 殺人事件と、その犯人を追う探偵を描いたものが多い。

 サブジャンルには、後味の悪い真相を楽しむ『悲劇』や、理屈や道理を超えた不可思議な事件を描く『奇譚』などがある。

 『密室』や『閉村』といった、特定のシチュエーションを指す名称で呼ばれることもある。

 ルードゥスが三つの型を終えると、周囲からパチパチと拍手が鳴った。

 毎日同じ場所で修行していたため、ギャラリーが集まるようになった。


「見事だ、ルードゥス君。基本三つの型は、しっかり覚えたな」


 すると観覧者の一人が、アピリアに向けて挙手した。


「はいはーい、先生。ちょっと質問イイですか?」


 若い男性の見物者だった。


「なんで複数のジャンルを修行するんですか? 一個に絞ったほうが効率イイと思うんですけど」


「良い質問だ。ルードゥス君、代わりに答えられるか?」


 少年は包拳礼をしたのち、質問した男性へと向き直った。


「物語には、大枠のジャンルの中に、細かく他のジャンルの要素が入っているからです」

「えー? どういうコトですか?」

「例えば『グッドマンと秘密の組織』は、大枠のジャンルとしては巨悪を倒す『活劇』の作品ですが、謎の組織の正体を追う『推理』の要素や、ピンチを救われた姫との『恋愛』要素もあります」

「あ〜! 確かにっ!」


 質問者が納得したのを見て、アピリアは満足そうに扇子を揺らした。


「素晴らしい。ところでルードゥス君、キミが描こうとしているジャンルの大枠は決まったか?」

「はい、先生。『活劇』に決めました」

「よろしい。では『活劇』を中心とした、“組み手”の修行に移ろう」


 周囲から歓声が上がった。

 組み手は、見物者たちに一番人気の修行であった。

 アピリアはパチリと扇子を閉じ、ルードゥスの正面へと移動する。

 そんなタイミングにである。


「待って下さい!」


 若い男の声だった。

 見学者たちが道を開けると、深緑色のカンフー服を来た、背の高い少年の姿があった。


「俺はノクス・サルトゥーラ。アピリア先生がここに住んでいると聞き、スヴェンデルから来ました」


 ルードゥスより三つほど歳上に見える。

 旅して来たからだろう。長い青髪は後ろでラフに結ばれ、服は薄汚れていた。

 それでも彼の綺麗な顔立ちや、全体的にシュッとした体格せいか、まったく不潔な感じがしない。

 むしろ艶やかな、大人びた雰囲気を醸し出している。

 どこか冷たい、寂しげな瞳でアピリアをジッと見つめた。


「スヴェンデルか……そんな遠方まで、私のプライバシーが漏れてるとはな」


 スヴェンデルは、山脈を隔てた先にある街。

 馬車を使っても、半月以上は掛かる距離である。


「先生の居場所は、此処に来て知りました。俺は弟子にしてくれる作家を探し、たまたまこの町に寄ったんです」


 ノクスは背筋を伸ばし、アピリアに向けて包拳礼をした。


「急に来て、無礼なのは承知してます! ですが俺がスターンに来たのも、先生の居場所を知ったのも、ただの偶然とは思えません! どうか俺を……弟子にして下さい!!」

「断る」


 即答である。

 ノクスは思わずずっこけそうになった。


「キミ。その服は、誰から貰った?」

「……グラウィス先生から」

「なら彼から学びなさい。オドル・グラウィスは優秀な作家だ」


 師匠を変えることは、決して珍しいことではない。

 しかしカンフー服を貰えるのは、最初に師事した作家からのみ。

 カンフー服とは、いわば初めての師匠との絆である。


「三年……! グラウィス先生の元にいましたが、芽が出なかった! 俺には新しい先生が必要なんです!」


 彼の表情から、焦燥が見て取れた。


「アピリア先生が弟子を取らない事は承知してました! だから最初は、一目見て満足するつもりだった……なのに!」


 鋭い眼差しをルードゥスに向ける。


「こんな初歩レベルの弟子を目にして、おとなしく引き下がれませんよ!」


 ひどい言われようだったが、じっさい修行歴三ヶ月のルードゥスには返す言葉がない。


「弟子は一人と決めているのなら、いまこの場で実力を見せてもいい! 組み手でも演舞でも、何だってやります!」

「ノクス君、熱意は素晴らしい。そこに水を差す気はない。だが弟子を取ったのは、ただただ私個人の都合だ。キミがこの邂逅を特別視するように、私もルードゥス君との間には“運命”を感じている」

「“運命”……だって!?」

 その刹那──ノクスの脳内に不思議な光景が浮かんだ。

 

─────


「ヤバいよヤバいよ〜〜〜! 学校に遅れちゃう〜〜〜!!」

 ルードゥスは口に朝食のパンを咥えたまま、街中の道を疾走していた。

 髪はボサボサ。衣服もヨレており、手に持った鞄は半開き。相当な慌てぶりである。

「秀才キャラで行こうと思ってたのに、ここで寝坊したらドジっ子認定されちゃうよ〜〜〜!!」

 彼がちょうど、曲がり角に差し掛かった瞬間だった。

 身体に強烈な衝撃を受け、ルードゥスは真後ろに吹っ飛んだ。

 宙に舞う体。そして咥えていたパンと、鞄の中身たち。

 遅刻確定──そんな言葉が頭をよぎった瞬間、背中にふんわりとした感触があった。


「キミ、怪我はないか?」


 ルードゥスが目を開くと、あまりにも美しい黒髪の女性の顔があった。

 わずか数センチの距離。

 目と目が合い、息を呑む。

 少年の身体を受け止めたのは、彼女の腕らしい。

 少し遅れて、鞄の中身が落下する音がした。


「急に飛び込んで来たので、驚いて避けられなかった。すまない」


 とても穏やかで、心地の良い声だった。

 急速に時を刻む、心臓の鼓動。

 全身を駆け巡る、ビリビリとした刺激。

 未知なる感覚。それはまるで──運命の出会いだった。


─────


 ノクスはハッと、我に還る。


「くっ……! 鎮まれっ!」


 額を押さえて、甘酸っぱい妄想を追い出そうと頭を振った。


「……」


 そんな彼の様子を、アピリアは少し目を細めて見つめる。


「ルードゥス君。彼と組み手をして見なさい」

「えっ!?」

「お互い、実力を見せるチャンスだ」


 待たされていた観衆から、ワッと声が上がる。

 ようやく組み手が見られるのだ。


「アピリア先生。俺の師匠になることを、考えてくれるってことですか?」

「約束はできないな。私はまだ、何も見せて貰ってない」

「……っ!」


 ノクスはポキポキと拳を鳴らしながら、ルードゥスの正面へと移動した。


「だったら見せてやるぜ……!」


 扇を広げながら、アピリアは弟子に語りかける。


「さて、ルードゥス君。初めて“組み手”を見る方もいるだろう。皆に説明してあげなさい」

「はい、先生ッ。“組み手”とは、他者と交互にプロットを繋ぎ、一つの物語を描く執筆鍛錬法です」

 文脈闘技プロットバレットによる一手一手は、物語のプロットを現している。

 つまり交互に一手を繰り出せば、やがて一つの物語ができあがるのだ。

 アピリアが説明を付け加える。


「相手の提示したプロットに沿った、繋がりのある次のプロットを提示していく。物語を完成させるには、お互いがジャンルの型を理解している必要がある」


 かつて『リレー小説』という名称で、古の作家も“組み手”のようなことをしていたと、伝承が残されている。

 しかしそれは鍛錬目的ではなく、仲の良い作家同士による、気楽なコラボレーションの意味合いが強かったらしい。

 その気楽さ故なのか、完成に至った『リレー小説』は極めて少ないと言われている。

「短くてもいい。完成させることが重要だ。まずはルードゥス君、キミからだ」

 ルードゥスとノクスの両者は包拳礼をしたのち、静かに『活劇』の構えを取った。

 一手目。

 ルードゥスは軽い踏み込みと同時に、拳を放つ。


《ある日、王さまから魔王の討伐を頼まれる勇者》


 ノクスは突き出された拳を片手で防ぎ、手刀を返す。


《魔王を討ち取った暁には、姫との結婚を約束するという》


 身を屈めて手刀を避けたルードゥスは、間合いを詰めて肘打ち。


《勇者は、魔王の住む城へ向けて旅立つ》


 接近に対し、ノクスは素早く蹴り放ってカウンター。


《魔王側から、刺客が放たれる》


 ルードゥスは急な蹴りに対応できず、もろに腹への攻撃を受けてしまった。


「うぐぅッッ……!」


 腹部を抑えて、地面にうずくまる。

 組み手は終了。旅立った勇者も、刺客によって殺害されたことだろう。


「わ、わるいっ! 大丈夫かっ!?」


 駆け寄ろうとするノクスを、アピリアはそっと制した。


「ルードゥス君、展開を急ぎすぎだ。“姫との結婚”という提案に、ノーリアクションなのも不味い。まずは“魔王討伐”という目的へのプロットを、しっかり強めたほうがいいだろう」

「はいッ……! 先生ッ!」


 ヨロヨロと立ち上がる少年に、周囲から「がんばれー!」といくつもの応援の声が聞こえる。

 ノクスは気まずそうにアピリアを見るが、彼女は何食わぬ様子である。


「二手前から続けよう。ノクス君、姫との結婚を約束された下りからだ」


 相手が構え直したのを見計らい、ノクスが再び手刀を放つ。

 ルードゥスはバックステップでかわし、遠くから蹴りを打った。


《勇者は報酬より、ともに戦う仲間を求めた》


 蹴りを防ぎ、ノクスが素早く裏拳を繰り出す。


《王さま曰く、遠方の森に魔女がいると言う。彼女が力になるだろう》


 少年は両手で裏拳をガードしつつ、再び蹴りを放った。


《魔女を仲間にするため、勇者は森へ向かう準備を整えることにした》


 軸足を刈るように、ノクスは足払いをした。


《魔王から、強力な刺客が放たれる》


 ルードゥスはキックの体制のまま脚を払われ、地面に尻もちを着いた。

 またしても勇者は、刺客に襲撃された。死んだのだ。


「ルードゥス君、今度は展開が遅い。“仲間を求める”という目的を出したのなら、すぐに“仲間に関する展開”が欲しい。“魔女について尋ねる”か、すぐ“魔女の住む森に到着”でもいい。“準備”だけでは、間延びした印象になる」


 するとギャラリーの中から、再び手が上がった。


「間延びって、そんなに良くないことなんですか……?」


 幼子を連れた女性だった。


「良い質問だ。私も個人的には悪いことだと思わない。しかし、公募となると話は別だ」


 アピリアは一度周囲を見回したのち、言葉を続けた。


「公募の第二次審査では、参加者同士での組み手をおこなう。ここで人数が半分以下に削られる訳だが……」

「展開の早さが、合否を分けるんですね」


 そう答えたのは、立ち上がったルードゥスだった。

 正解! と言わんばかりに、アピリアは人差し指をシピッと立てた。


「その通り。だがもちろん、早いだけではダメだ。的確にプロットを繋げ、テンポよく完結させる。それが審査合格の条件だ」


 少年は頷くと、組み手を続けようと構えを取った。

 ところが、である。


「もういい……充分だ」


 そう言い、ノクスは構えを解いた。


「ノクス君、いいのか?」

「勘弁して下さいよ……! 俺は弟子の稽古相手に来たんじゃない!」

「私はまだ、キミの“本当の型”を見せて貰っていないぞ」

「……っ!!」


 ノクスはギクリッと顔を強張らせる。

 そんな彼を、ルードゥスは不思議そうに見つめた。


「本当の型……?」

「ノクス君。キミは先ほど“運命”というワードから、瞬時に何かを想像した。それはきっと、『活劇』とは異なるプロットだろう」


 図星らしい。

 顔を赤らめ、視線をそらしてしまった。


(どういうこと……? 彼はあんなに『活劇』のプロットを組めているのに)


 首を傾げるルードゥスに対し、ノクスは大きく溜息を吐いた。


「分かりました……見せますよ。俺のもう一つの型を」


 そう言うと、両掌を正面に向けて柔らかく腰を沈める。

 それは──『恋愛』の型だった。


「ルードゥス君も『恋愛』の型を。それで組み手をしてみなさい」


 少年もぎこちなく構える。

 ルードゥスがこのジャンルに不慣れなのは、一目瞭然である。


「苦手か? なら先手は、俺がもらうぞ」


 一手目。

 ノクスは素早く間合いを詰めると、右手で円を描いて相手の右腕を絡めとる。

 即座。左手で直突きが放たれた。


《見目麗しい女性から、突然身体を密着される》


 ルードゥスは体を捻り、ギリギリで突きを避けた。


(どういう状況!??)


 相手のプロットに戸惑いながら、何とか反撃を試みる。

 二手目。

 ルードゥスは間合いを取りながら、中段蹴りを打った。


《見知らぬ相手だったので、慌てて距離を取る》


 ノクスは少年の蹴りを避けつつ、再び間合いを詰めた。

 三手目。

 そのまま相手に向かって、肩からぶつかっていった。

 こう。己の重視を預けるように、相手により掛かる技である。


《すると女性はショックを受け、自分の正体に気付いてもらうべく更に大胆なアプローチしていった》


 ルードゥスはこうを避けられず、直撃を食らった。

 しかし──。


(あれ……?)


 攻撃は届いてはおらず、直前で止まっていた。

 ──寸止めである。


「どうした? そっちの番だぜ?」


 ノクスに促され、ルードゥスは慌てて次の手を放った。

 四手目。

 サイドにステップしつつ、フックを打つ。


《思い出した。彼女は幼い頃に結婚を誓った女の子だ》


 嘲笑うかのように、ノクスは「フフッ」と小さく笑った。

 わずかに身体を反らし、ギリギリの距離で打撃を避ける。


「おいおい、それはさすがにないだろ」


 構えを解いて、相手から数歩距離を取った。


「アプローチの理由に気付いちまったら、ラブコメは終了だ」

「えっ!? じゃあどうすれば……」

「お前は意地でも『相手の意図が分からない』プロットを続けないとダメだ。それに対し、オレは意地でも『意図に気づいてもらう』プロットを撃ちづける」

「それじゃあ、終わらないですよねッ」

「そうだぜ。それがラブコメ。永遠に続く鬼ごっこだ」


 パチパチパチと、アピリアが拍手をした。


「ノクス君。『恋愛』の作家なら、キミに紹介できる人がいる」

「いえ……有難いですが、オレはあくまでも『活劇』の作家を目指します」

「何故こだわる?」

「それは……後世に語り継がれる作家になりたいからです!」


 観客たちは関心した様子で「おお〜!」と声を上げる。


「アピリア先生を始め、歴代の宮廷作家の多くは『活劇』と『推理』の作家! 名が残っている『恋愛』作家はほとんど居ません!」

「それが、キミの理由か」

「はい! だからオレは……どうしても『活劇』を書きたいんです!」


 そういうものなのか、とルードゥスは思った。

 そして同時に、非常にもったいないなとも感じた。


(『恋愛』の組み手の方が、楽しそうに見えたんだけどな……)

「ノクス君。後世の意見は、後世が決めることだ。いまを生きる我々が考えても仕方がないぞ」

「……」

「だが、宮廷作家に関しては一理ある。明らかに偏っている」

「やはり、そうなんですね……!」

「しかしそれも、“今のところ”の話でしかない。そうは思わないか?」


 釈然としない表情で、ノクスはしばらく俯いた。

 やがて顔を上げると、アピリアとルードゥスに丁寧に包拳礼をした。


「オレはもう少し……グラウィス先生の元で学ぼうと思います」


 何も言わず、アピリアは頷く。


「……」


 ルードゥスは何か言おうとしたが、言葉が出ない。

 修行歴の浅い自分が、彼に掛けられる言葉などあるのだろうか……?


「ルードゥス」


 逆に、ノクスから声をかけられた。

 彼の寂しげな瞳が、日差しの中で静かに輝いている。


「次は、お互い作家として会おうな」

「……はい!」


 トンっと、ノクスは少年の肩を小突いた。


「一緒に修行した仲だ。敬語はもうなしにしよう」

「……うん!」


 観客たちにも見送られ、ノクスはこの町を去っていった。



 修行を中断したアピリアとルードゥスは、そのまま家に戻ることにした。

 帰路に着く中、少年はノクスの件を考えていた。


「ルードゥス君」


 悶々とする弟子の心中を察したらしい。

 アピリアは言葉を続けた。


「書きたいものと、書けるもの。それは必ずしも一致しない。覚えておくといい」

「……もし僕に、『活劇』を書く適正がなかったら?」

「キミの書けるジャンルの先生を見つける。その上で、私もサポートをするまで」


 ルードゥスは師匠を見上げる。

 彼女の穏やかなその顔に、一切の迷いは感じられない。


「言ったはずだ。私はキミを、一年で作家にする。だから心配する──あっ」


 何事? と不思議に思った少年が、師匠の視線を追う。

 すると家の扉の前に、シャローナが立っているのが見えた。


「……しまったな。彼女とランチを約束していたんだった」

「えぇぇ……もうとっくに過ぎてますよッ」

「誤魔化すしかないな。ルードゥス君、話を合わせてくれ」

「えぇぇぇ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ