01 悪魔の契約
第1話
この村には昔から悪魔と人間が共存している。
悪魔には2種類の種族がおり、
ひとつは外来種。悪魔の世界"ダークシャドウ"から
現世に渡ってきた成人済みの悪魔達。
性格は様々で犯罪をするようなやつから穏やかにスーパーで働いてる奴もいる。
そしてもうひとつが在来種。元々人間の赤子として産まれるはずだったが、突然変異で悪魔になってしまったものたち。なぜ産まれてしまうのか未だ解明されておらず、実験対象として生まれてすぐ施設に送られてしまう。成人すると施設から出ることができ、自由になれる。
――ある昼下がり、俺は警察署の会議室に呼び出されていた。
「ケイン、またやらかしたそうだな」
上司の低い声が会議室に響く。俺は目を伏せた。いつものことだ。女遊び、ギャンブルに明け暮れて、ろくに仕事もせずに適当にやってきた結果が、ここにある。
「すみません。今度こそ真面目にやります」
反省しているふりをして口にするが、心からの言葉ではなかった。俺だって、誰もが真に受けていないのはわかっている。案の定、上司はため息をつき、俺を見下すように鼻で笑った。
「真面目にやるだって?そんな口先だけの言葉、何度聞いたことか……お前のような不真面目な人間を警察官として置いておく理由なんてないんだよ、本来ならな。」
最後の言葉が冷たく響き、思わず肩をすくめた。正直、いつクビを言い渡されてもおかしくない状況だ。が、意外にも上司は封筒を取り出し、俺の前に差し出してきた。
「…… 上層部からお前に仕事が来た。最後のチャンスだ。肉体だけはいいお前に、悪魔の監視任務を任せる。」
「悪魔の……監視?」
「そうだ。最近、在来種の悪魔が問題を起こしている。在来種は元々人間として生まれるはずだったが、突然変異で悪魔となってしまった存在だ。お前にその動向を監視させる」
俺は思わず眉をひそめた。在来種悪魔か……施設から解放されたばかりの奴らが、殺人や暴動を起こしているという話は聞いている。特に危険視されているのが、最近目撃されたという「怪しい取引の店」だ。俺はそこで内偵を行うというわけか。
「俺に適任な任務……って、クビを免れるための手助けってことですか」
「その通りだ、ケイン。しくじれば終わりだぞ」
俺は返事をせずにうなずいた。この仕事でミスをすれば、俺の警察人生、確実に終わりだ。だが、正直言って悪魔の監視なんていう危険な仕事は乗り気じゃなかった。
早速俺は指示通り、村の裏通りにある古びた店を監視していた。薄暗い路地の奥にたたずむ怪しい店で、看板もないが、時々怪しげな人物たちが出入りしている。
「何を取引してるんだか……」
独り言をつぶやいていると、店の中から異様な気配が流れ出てくるのを感じた。こっそり身を潜め、様子をうかがっていると、店のドアが静かに開き、黒いスーツを纏った長身の男が現れた。その鋭い眼差しが一瞬、俺を捉える。
「隠れているのはわかってる。」
低い声に冷や汗が流れた。ヤバい……逃げるべきか?いや、逃げても無駄かもしれない。意を決して姿を現し、俺は男を睨み返した。
「悪魔か……俺に何か用か?」
「お前ら警察が俺たちを追っているのはわかっている。だが、余計なことをすれば命はない。助かりたければ、、、」
"俺と契約しろ"
「契約……?」思わず口ごもる。契約――それは村に代々伝わる「10年契約」のことだ。10年間、どんな願いも叶えられるが、契約が切れたときにはその悪魔に肉体を食われる。けど……今は背に腹は代えられない。もしこのまま悪魔を逃がしてしまった俺の警察ライフが死んでしまう。
「わかった、契約してやる。ただし、10年の間、しっかり相棒を務めろよ」
俺がそう言うと、男は満足げに微笑んで片膝を床につき俺の方へ手を差し出してきた。
「俺の名前はクロム。契約を結んだ以上、お前の望みは俺が叶えてやる。よろしくな、相棒」
「……俺、ケイン。10年の内、俺を見捨てたらぜってぇ許さねぇから。」
こうして、俺は悪魔との協力操作が始まった。
契約を結んで数日が経った。契約を交わした悪魔、クロムは俺の部屋に居座り、どこへ行くにも俺の後をついてくる。しっかりスーツを着こなした長身のイケメンだが、無駄に威圧感があるし、その瞳には綺麗なラベンダー色で、どこか獰猛な光が宿っている。
「おい、俺のベッドで寝るなよ」
「相棒なんだろう?寝るくらい良いだろう。お前の生活は、俺の生活でもあるわけだしな」
俺はため息をつく。悪魔の癖に、何だか妙に人間臭いし、無遠慮に踏み込んでくるあたりが厄介だ。だが、こいつがいることで、俺の捜査も少しはやりやすくなっているのも事実だった。クロムの力があれば、普段入り込めないような危険な場所にも躊躇なく入れる。普通の人間が相手にすれば命の危険があるような裏社会にまで踏み込むことができるのだ。
「相棒って言ってもな、こうして悪魔と生活するのは妙なもんだよ」
「それはお互い様だ。俺だって、監視対象の人間と相棒になるのは初めてだが……意外に面白い」
そう言ってクロムはニヤリと笑う。その目には、どこか好奇心と微かな親しみが感じられたが、同時に底知れない不気味さも漂っていた。
俺は無視するように視線を外して、デスクに積まれた書類に目を通し始める。最近、この村では在来種の悪魔による事件が相次いでいる。警察の報告によると、事件を起こした在来種は、施設を出て間もない者たちばかりだという。原因はまだ不明だが、どうも彼らが関与している取引が背後にあるらしい。
「この店に集まる悪魔たちの目的は、何なんだろうな?」
「在来種悪魔の取引か……興味深いな」
クロムが意味ありげに呟く。こいつは何か知っているのか?と思って顔を覗き込んだが、クロムはわざとらしく視線を逸らした。
「……まぁ、いずれわかるさ。今は、少しでもその情報を集めるのが先決だろう」
「確かにな」
その日の夜、俺とクロムは例の怪しい取引が行われているという店へ向かうことにした。通りには夜の帳が降り、路地裏には人気がほとんどない。薄暗い明かりが灯る店の前に立つと、クロムが俺の肩を軽く叩いた。
「ここから先は俺が先に行く。お前は俺の後に続け」
俺は黙って頷いた。店の中に入ると、独特の匂いと異様な雰囲気が漂っていた。薄暗い照明の中、悪魔たちが低く囁き合い、目つきの鋭い者たちが俺たちをじろりと見つめている。
「お前、こんな場所で怯えてんじゃないのか?」
くろむが低く笑って俺を見下ろす。俺は強がって肩をすくめた。
「まさか、怯えるわけないだろ」
「ならもっと堂々と歩け。」
クロムに導かれて、店の奥へと進む。そこで俺たちを待っていたのは、黒いマントを羽織った男だった。冷たい目つきの彼は、まるで全てを見透かすように俺たちを見据えた。
「初めて見る顔だな」
「俺たちも取引に参加したいんだが、いいか?」
クロムが言った。冷ややかな視線を受け流しながらも、その声にはどこか挑発的な響きがあった。
「参加したい?それなら相応の『信頼』を証明してもらわないとな」
男は微笑みながら、テーブルの上に小さなナイフを置いた。俺は瞬時に身構えたが、クロムは悠然と手を伸ばし、ナイフを拾い上げる。
「証明が必要だって?だったら、何をすればいい?」
「我々の仲間に必要なのは『忠誠』と『信頼』……わかるか?」
「もちろんだ」
クロムは何のためらいもなく、手をテーブルに置き、ナイフを手のひらに突き立てた。血が一滴ずつ滴り落ちるのを見て、俺は目を見開いた。が、彼は表情を一つ変えず、男をじっと見据えたままだ。
「これでいいか?」
「フン……面白い男だな。いいだろう、お前たちも取引に加われ」
男は満足そうに頷き、俺たちを奥の部屋へと案内した。そこでは、多くの悪魔たちが何やら不穏な空気を漂わせながら集まっていた。テーブルには奇妙な薬や、謎めいたアイテムが並べられている。
「取引ってのは、これか……」
俺は辺りを見渡し、悪魔たちの会話に耳を傾けたが、話の内容は断片的で、全貌が掴めない。薬やアイテムの中には、人間の魂を使って作られたものがあるようだ。
その時、不意に背後からクロムが耳打ちしてきた。
「あれが証拠だ。覚えておけ」
「あぁ、分かっている。」
俺はクロムの言葉に従い、店の中でのやり取りを細かく観察した。取引が終わるまで、俺たちは黙って彼らの行動を監視し続けた。
外に出ると、夜風が冷たく感じられた。俺はやっと一息つくことができたが、クロムは相変わらず冷静そのものだった。
「まさかお前、手のひらにナイフを突き立てるとは思わなかったぞ。手は大丈夫なのか?」
「ああ、悪魔にとっては取るに足らないことだ。すぐ治る。」
クロムの手はさっきナイフを突き立てたと思えないほど綺麗になっていた。
「フン。まさか怯えてなんかいないだろうな?」
「あたりまえだ」
俺は笑って返すが、内心では少しだけ肝が冷えていた。悪魔と相棒になるのは大変だというのが、少しずつわかり始めてきたからだ。
「これからも大変そうだな……俺の人生」
「当たり前だ。だがお前の10年は俺が守ってやる。魂を奪うまでな」
クロムは冷ややかに笑い、夜の闇へと歩き出した。俺も彼の後に続き、また新たな任務へと向かうのだった。
フィクションです。初めてなので至らない点あると思いますが、よろしくお願いします。